2021年以降グラミー賞をボイコットしているThe Weeknd。Metro Boomin、21 Savageと一緒に、 “Creepin'” という2004年のMario Winansの “I Don’t Wanna Know” をカバーした曲を世に送り出しました。グラミー賞の季節にです。この曲に込められた意図を勝手に解釈してみました。
The Weekndとは誰?
カナダの黒人シンガーソングライターです。伸びのある高音に特徴がある声で印象的です。一度聴いたら忘れない声です。作風は宇宙的というか神秘的というか、よい意味で不思議な心地にさせるものです。現在はグラミー賞をボイコットしていますが、過去に4回受賞している実力を持つアーティストです。
エチオピア移民の息子で、両親が働き詰めだったため、おばあちゃんっ子として育ちました。その後両親が離婚して母方に引き取られます。そういう家庭環境だったことも災いしたのか、随分荒れた学生時代を過ごした末に高校を中退しました。
その後、職に就きながら、曲を書いて売ったり、自分で歌ったりしていて、ネットに公開した曲が Drake の目に留まります。それから以降音楽界で注目されるようになりました。ちなみにDrakeもThe Weekndと共にグラミー賞を友情ボイコットしています。2021年のグラミー賞で “Blinding Lights” の “B” の字も出なかったためです。
普通に歌詞を読むと…
さて”Creepin'”ですが、普通に歌詞を読むと、パートナーが浮気をしているのではないかと勘繰って、心穏やかでない男性の心境を歌った内容になっています。
曲の出だしから The Weekndのパートです。彼女が別の男性と会っていたという目撃情報を知らされても、心の内に留めておくような男性です。そして、印象的なフレーズ
I don’t wanna know
に続く歌詞を歌いあげていきます。彼女の浮気の全貌を知って幻滅するのが嫌な彼は「知りたくない」のです。そして、
And if you’re creepin’, please don’t let it show
自分の陰に隠れて何やらやっているのだったら、それを大ぴらにしないでほしいというわけです。彼女を信じられなくなった彼は、
And I don’t need to know the truth
真実から目を背けることで何とか平常心を保とうとしています。
Just go on and do your thing and don’t come back to me
そして、浮気でなく本気なら、「どうぞご自由にやっとくれ、その代わり二度と自分の前には現れないでくれ」ということで決別の辞を述べます。しかし、繰り言を言っても何かわだかまりが残る風なのは、21 Savageのフレーズ
I got a girl but I still feel alone
によく表れています。別の女性と知り合っても、まだ心にぽっかりと開いた穴が塞がらないことがよく分かります。
The Weekndがグラミー賞に抱くわだかまり
The Weekndは、スーパー・プロデューサーMax Martinと組んであれだけ商業的に成功した “Blinding Lights” をグラミー賞を主催するレコーディング・アカデミーに完全に無視されました。それに抗議する形で2022年のグラミー賞をボイコットしたのです。
この曲は UK Official Chart で彼自身初の1位を獲得した後、8週連続1位となり、当時私も曲名通り沈まぬ太陽になるのかと思った記憶があります。そんな楽曲をなぜレコーディング・アカデミーは一顧だにしなかったのでしょうか。真相は今も闇の中です。
この不透明感こそが、”Creepin'”を通じてThe Weekndが訴えたことなのではないかと考えました。
I don’t wanna know / “Blinding Lights” をなぜ無視したのか知りたくないたい
And if you’re creepin’, please don’t let it show / アカデミーの裏舞台で何らかの思惑が渦巻いていたなら、それを隠しておいてくれおくな
And I don’t need to know the truth / 本当のことを知る必要はないがある
Just go on and do your thing and don’t come back to me / どうぞご自由にやっとくれ、その代わり二度と自分の前には現れないでくれ自分はグラミー賞のステージには立たない
どうでしょう。彼は巧みな反語表現で世に訴えているのではないでしょうか。
Creepingには「不気味」という意味も
最後に、”creeping” という英単語にはいろいろな意味があることを紹介して終えます。
The baby is creeping on the floor.
なら、「赤ちゃんが床をハイハイしている」です。赤ちゃんが可愛いらしく床をハイハイする様子が目に浮かびます。
それとは違って、つる草が這いずり回る時にも使います:
The vine creeps on the wall. / 壁につる草が這う。
この様子から、比喩的に事態が水面下で進行していく様子を表わす表現が出てきます:
The assassin is creeping into the room. / 刺客が部屋に忍び込んでいる。
そこからさらに転じて、
You’re creeping me out! / 君にはぞっとさせられるよ!
という「不気味」という意味にも使われます。The Weekndがレコーディング・アカデミーのことをなのか、レコーディング・アカデミーがThe Weekndのことをなのか、「キモイ」あるいは「ゾッとする」と思っているということを表現しているのかも知れません。
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