Super-agerになるための要件

音読 科学技術

ある程度の規模で歳を感じさせないSuper-agerと凡人とを比較追跡調査した研究が発表されました。倫理上介入実験はできないので、因果関係は分かりませんが、Super-agerの共通点が見えてきました。その中でも根源的なものが要件である可能性があります。

スペインのVallecas Project

The Lancet に掲載されたSuper-agerと凡人との比較追跡調査研究は、マドリードのVallecasという地域で行われました。Vallecas Projectと呼ばれています。ですので、この研究結果が日本人にそのまま当てはまらないかもしれませんが、少なくとも参考にはなるでしょう。

ここで言うSuper-agerとは、相当ご高齢にも関わらず、認知機能が30歳若い人と同程度の方々です。

スペインにはパエリアがあり、日本と同じく米食しますし、魚介類や野菜もよく摂ります。食生活が似ているためか、平均寿命と健康寿命は、日本がそれぞれ84.3歳と74.1歳、スペインが83.2歳と72.1歳でそう変わりません(1)。さすが地中海食の国です。和食と地中海食ががっぷり四つで健康によいのではないかと思わせます。

パエリア ※本文とは関係ありません

Vallecas Projectは2014年に始まり、マドリードのVallecas地区に住むお年寄りを対象に、認知症がどのように進行していくのかを4年に渡ってつぶさに定点追跡調査し、原因特定しようという野心的な主旨を持っていました。参加者は1年ごとに認知機能検査、MRI撮影、血液検査、生活習慣の問診を受けました(2)。

Vallecas Projectの参加者から、2018年から2019年の時点で79.5歳以上のSuper-ager 64人と年相応の典型的な55人を抽出しました。そして、どこに違いがあるのかを、認知機能検査、MRI撮影、血液検査、生活習慣の問診それぞれの結果を見比べたのです。

Super-agerの脳は灰白質の縮み具合が緩やか

先ず結果の方から見ていくと、Super-agerの脳は灰白質の縮み具合が緩やかです。灰白質は脳神経細胞が集まっている部分です。それが縮んでいないということは、脳神経細胞が数多く残っているということです。

特に、短期記憶を司る海馬やその周辺と言いながら海馬と同じぐらい重要な組織で灰白質があまり縮んでおらず、若々しいのです。認知機能検査で30歳も若い人と同じスコアを叩き出すのも頷けます。

ここで疑問が湧きます。Super-agerは最初から脳神経細胞が多かったのではないかという疑問です。しかしそれは当たりません。灰白質の縮む速度が違うのです。1年ごとにMRIで脳を撮影して灰白質の大きさを測った結果分かったことです(3)。

Super-agerの生活習慣はどうか

生活習慣がよいために、Super-agerは脳神経細胞の寿命自体が長いのかもしれません。生活習慣を見るのに血液検査の結果を見ると、意外にもアミロイドβやタウタンパク質などの量に違いは見られませんでした。どちらもアルツハイマー型認知症の原因物質だとされて、新薬開発中でもあるのですが、どうも疑問詞が付きます。

血糖値や血圧は若干関連ありです。この点は認知症予防として押さえておくべきでしょう。

しかし、それよりも相関が強いのが睡眠です。これも意外でしたが、Super-agerと凡人とで睡眠時間は6時間半から7時間弱でほぼ同じでした。高齢者では理想的な睡眠時間ではないでしょうか。違うのはスッキリ眠れたかどうかです。凡人の方は起床しても寝足りなさを感じています。一方、Super-agerはスカッとしたお目覚めです。睡眠は量を押さえつつ、質に拘る必要があることが分かります。室温、人工光や騒音など快眠方法をチェックするのがよさそうです。

良質の睡眠」とは、紡錘波と徐波と呼ばれる2つの脳波の相関が高い状態です。脳波の周波数を整えるには、やはり、生活リズムを整え、最も基本的な体内時計で概日周期あるいはサーカディアンリズムと呼ばれる一日のリズムを正すのが近道と見ました。

Super-agerは何にご執心なのか

あるいは、海馬やその周辺では脳神経細胞を増やすことができることが知られていますので、もしかしたら、

脳神経細胞が死んでいく数 ー 脳神経細胞が新たに増えた数 = 生きている脳神経細胞の数

という式で、脳神経細胞が死んでいく数がSuper-agerと凡人とで同じでも、Super-agerの方は新たに増える脳神経細胞の数が多いのかもしれません。こちらの要因ならば、海馬やその周辺を鍛えることに意味があります。

実際、この調査で行なわれた問診で、Super-agerの方が学歴が長い傾向にあることも分かっています。別の研究でも同じ傾向です。勉強好きでなければ、長い間学校に通うこともないでしょう。そういう人はおそらく生涯にわたって、何かと勉強を続けている可能性があります。それによって、海馬とその周辺に常に新しい脳神経細胞が生み出されている可能性があります。

若い頃にしっかり勉強して脳神経細胞を貯め込んだ後、老齢期を迎えて、貯め込んでいた脳神経細胞を使い捨てていっても、最初の貯蓄量が多いので、凡人に比べて歩留まりが多い、というわけではないようです。この点について、「ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止あれこれ(その2)」の回で紹介した「Cognitive reserve hypothesis; 認知予備力仮説」では上手く説明し切れないように思えます。

個人的に効果が高いのではないかと考えているのが語学です。4つ以上の言語を話す修道女の6%しか認知症を発症しなかったという研究があるためです。そう思って、英語、中国語、スペイン語、ブラジル・ポルトガル語の4か国語を学び続けています。ChatGPTやGoogle Bardを相手に4か国語で作文した質問をしては、これらAIから回答でやんわりと文法や語用をたしなめられることで作文力を高めています。作文力を鍛えると、認知力が衰えても戻って来られるからです。

Super-agerは動作が俊敏かつリズミカル

Super-agerは動作が素早くリズミカルだそうです。運動神経がよかったり、音楽のセンスがあるとなると、それは生得的なもののように思えます。

しかし、必ずしもそうではないのではないかと考えています。何かを練習すると、その動作は素早くできるようになりますよね。それが声楽や楽器演奏であれば、リズムを取る必要があります。

もちろん嫌々やるのでは身につかないでしょう。そういう意味では「好きこそものの上手なれ」で生得的な好き嫌いが何らか影響している可能性はあります。それはそれとして、自分に合った趣味で動作を素早し、リズム感を養う練習になるものを選ぶとよいのだと思いました。

この点でも、私の場合は語学の音読です。お手本のナレーションを聞いて、それぞれの言語が持つイントネーションを真似る練習が性に合っています。特に、中国語は声調と間が大事なので、リズム感も養えます。読むのに慣れてきたら、お手本のナレーションの再生速度を上げていくのです。他にも、英語の洋楽が好きで、歌詞を覚えて、家で鼻歌を歌っています。これもボケ防止に効果があるといいなと思ってやっています。

Super-agerになりたければ…

その他のSuper-agerが持つ特徴として、陽気で楽観的なことが挙げられています。人間関係で言うと、他の研究では結婚や社交的というが認知症予防に役立つとされていますが、少なくともVallecas Projectの結果を見る限りでは、人付き合いはあるに越したことはないけれども、必ずしも伴侶がいるかどうかはそれほど大きな要因ではないようです。実際、伴侶に先立たれても、陽気で楽観的であれば、生きがいを持って日々元気に過ごせるでしょう。そのようなお年寄りは身近にもいます。

陽気で楽観的というのは、生得的な性格の部類かもしれません。それでも、健康管理をして、日々体調を整えて生活していれば、少なくともストレスが少なくて穏やかな気持ちでいられると思います。お勧めがグルテンフリー糖質制限食です。

もっと驚いたのは、アルツハイマー型認知症に罹りやすいとされるAPOE ε4という遺伝子を持っている人の割合がSuper-agerと凡人で大差なかったのです。認知症予防という観点では、遺伝子はどうも簡単に克服できる程度の障壁でしかないようです。

Super-agerになりたい方は、何か参考になると思いますので、こちらの記事もご覧ください。

[参考文献]

  1. World Health Statistics 2023;https://www.who.int/data/gho/publications/world-health-statistics
  2. Olazarán J Valentí M Frades B et al. The Vallecas Project: a cohort to identify early markers and mechanisms of Alzheimer’s disease. Front Aging Neurosci. 2015; 7: 181. DOI: https://doi.org/10.3389/fnagi.2015.00181
  3. Marta Garo-Pascual, Christian Gaser, Linda Zhang, Jussi Tohka, Miguel Medina, Bryan A Strange. Brain structure and phenotypic profile of superagers compared with age-matched older adults: a longitudinal analysis from the Vallecas Project. The Lancet Healthy Longevity, Volume 4, Issue 8, 2023. DOI: https://doi.org/10.1016/S2666-7568(23)00079-X.

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