“often” は「オフトン」

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「しばしば」を意味する英語の “often” ですが、学生時代に「オフン」と発音すると教わりました。ところが、最近ではアメリカとイギリスだけでなく英語圏全体で “t” をちゃんと発音して「オフトン」と言うように変わってきています。

子音の省略から復権へ

BBC World の Business Mattersという番組があります。イギリス、北米、アフリカ、オセアニア、アジアのそれぞれの地域からのゲストがその日の出来事について議論します。それぞれの地域でご当地訛りがあります。慣れるまでは聞き取れない部分もあるわけですが、グロービッシュを身に付けるには避けて通れません。

最近毎日聴いている中で「おや?」と思ったことがあります。「しばしば」を意味する英語の “often” です。学生時代に「オフン」と発音すると教わりました。ところが、英語圏全体で “t” をちゃんと発音して「オフトン」と言うように変わってきています。ゲストがアメリカ人だろうが、イギリス人だろうが、オーストラリア人だろうがです。

不思議に思い、Duolingo podcast にあるブラジル・ポルトガル語を母語とする学習者向けのコンテンツも注意深く聴いていると、やはり主人公がアメリカ人だろうが、イギリス人だろうが、カナダ人だろうが、果ては南アフリカ人だろうがみんな「オフトン」と発音しているではないですか。

“often” の発音変遷に歴史あり

TheFreeDictionary というオンライン英英辞書のサイトがあります。類語・反義語やイディオムを調べるのによく使います。例文も豊富です。金融・法律・医学の専門用語もたくさん収められていて、このサイトだけで英語の調べ事は完結するといってもいいでしょう。

そのTheFreeDictionaryで “often” を調べたところ、Usage Noteで発音の変遷について触れられていました。1500年代から1600年代にかけて、子音である “t”, “d”, “p” は発音されなくなったそうです。合成語に多いようですね。例に挙がっているのが、”t” ですと、”often” の他に “listen” (リッスン)があります。”d” ですと、”handsome” (ハンサム)、”p” だと “raspberry” (ラズベリー)です。

“often” は古くは “oft” だけだったようで、後世に “-en” が後ろにつけられたようです。そのためか、”oft-” だけで接頭辞として使われ、”oft-repeated” で「しばしば繰り返される」という単語になり、発音も「オフト」です。

しかし、公教育が発達して識字率が上がってくると、話すのに使うよりも先に活字で目にする機会の方が多くなるからでしょうか、綴り通りに読む、いわゆる慣用読みとして「オフトン」と発音されるようになって来たようです。

なぜ、”often” ではそれが起き、”listen” では起きないのかは謎です。”listen” は公教育を受ける前から日常生活で使う単語のため、活字の影響を受けにくいのでしょうか。子どもに意見を訊いてみると、「”l” も “s” も上あごに舌先をつけるので、さらに同じく上あごに舌先をつけて発音する “t” が続くと発音が難しいからではないか」という考えでした。真相は分かりませんが、こちらの解釈も筋が通っているように思えます。

日本の学校ではまだ「オフン」

そんな “often” ですが、子どもに訊くと、日本の学校での英語教育では未だに「オフン」のようです。それもそのはず、Google翻訳(米国)、DeepL(ドイツ)、Weblio英和和英辞典(日本)、果ては查查在线词典(中国)までもがみんな音声再生ボタンをポチっと押すと「オフン」と発音するではないですか。唯一の例外がSpan¡shD!ct(米国)です。オンライン辞書の単語発音が「オフン」のままなのですから無理もありません。ただし、先生自体は「オフトン」へ読みが変わってきていることに気づいているそうです。生の英語に日頃から接しているのでしょう。まともな感覚です。

言葉は生き物です。慣用読みが多数派になれば、勝てば官軍です。日本語でも容易に起こることです。「早急にとりかかりましょう」という時の「早急」は「さっきゅう」と読むのが正しい日本語とされています。NHKのアナウンサーはちゃんと「さっきゅう」と発音しています。しかし、一般人の多くは「そうきゅう」と読みます。「相殺」もそうです。「そうさい」が正しい読み方ですが、「そうさつ」と読むことを聞くことの方が圧倒的に多いです。

中国語でも、「極力」を意味する “尽量” で使われる “尽” は本来は「できる限り」の意味では “jǐn” と第3声で発音すべきなのですが、「尽くす」の意味の “jìn” と第4声で発音することも多いそうです。結局、「力を尽くす」わけなので、意味的には「極力」と何ら変わらないですね。

英語の “often” も日本語の「早急」や「相殺」も、識字率上がってみんなが文字を読むことができるようになったために慣用読みが勝利した例でしょう。悪いことではないはずです。”often” の方は BBC のキャスターも「オフトン」と発音していました。NHKのアナウンサーも原稿も近い将来見直されるかもしれません。

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