NASA SP-7084 に学ぶ英作文のお作法

レポート 科学技術
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SP-7084 はNASAが技術文書作成者向けに公開しているハンドブックです。名詞や動詞などの基本的な品詞の文法上の注意点、ピリオドやコンマなどの句読点の使い方などを良い例と悪い例を比較して懇切丁寧に説明した英作文のお作法集です。

NASAが公開している英作文の指南書

今回は NASA が公開している SP-7084 という文書は技術文書作成者向けのハンドブックを紹介します。技術文書というと、お堅い感じに聞こえます。しかし、題名が “Grammar, Punctuation, and Capitalization: A Handbook for Technical Writers and Editors” で、名詞や動詞などの基本的な品詞の文法上の注意点、ピリオドやコンマなどの句読点の使い方、そして大文字で表記すべき場合を良い例と悪い例を比較して懇切丁寧に説明していて、一般の人が英作文のお作法を学ぶ際に、お手本にするのに手頃だと思います。115ページ程度の文書で、誰でも閲覧できるようになっています。

NASA SP-7084 PDF版の表紙

第1章 文法

名詞や動詞などの品詞それぞれについて、間違いやすい注意点をまとめています。

例えば、名詞の所有格の作り方です。所有格にしたい名詞の最後にアポストロフィーsを付けると学校で習ったと思います。でも本書では、むやみに生物でないものに使わない方がよいと注意しています。擬人化したり、熟語になっているようなものに対しては使ってよいですが、通常は使わないに越したことはないでしょう。

性別が既にわかっている場合を除けば、特定の性別を指さないように、代名詞は複数形を使いましょう。1990年に発行された文書ですが、時代を先取りしていますね。

関係代名詞の which と that の使い分けについては、「あれ」を意味する代名詞として使う場合の that に対する関係代名詞には、 which を使いましょう。以下は本書からの引用です。

・Which is used after the demonstrative that (Bernstein 1981):
  The most commonly used aerodynamic code is that which Hess and Smith
  (ref. 26) designed for nonlifting bodies.

NASA SP-7084, “Grammar, Punctuation, and Capitalization: A Handbook for Technical Writers and Editors”

その他にも、指示代名詞はなるだけ避けた方がよいと注意しています。あいまいさを避けるために、少しくどくても「これ」、「あれ」、「それ」と指し示めそうとしているものをもう一度明確に書いた方がよいとしています。

仮定法を使うことには消極的です。技術文書の性格上、通常は事実を直説法で伝えることが目的なので、書き手が自分の主張として何かに対して強い疑念を示したい場合に限定すべきとしています。解説個所を引用しておきます。

The subjunctive should be used only when the author wishes to imply strong
doubt. Notice the subtle change in attitude when the subjunctive is not used
in the above example:
If their ductility was improved, they would be highly attractive materials
for aircraft applications.

NASA SP-7084, “Grammar, Punctuation, and Capitalization: A Handbook for Technical Writers and Editors”

単数形の動詞にすべきか複数形の動詞にすべきかについては、and や or で結ばれた中で一番動詞に近い主語に合わせるべきとしています。”as well as …” や “plus …” で主語を並列する場合は、 “as well as …” や “plus …” で修飾している主語の数に合わせます。この辺りはブラジル・ポルトガル語も同じです。

他にも that で始まる従属節の that は極力省くな、という指摘はなるほどと思います。スペイン語やポルトガル語でこの that に相当するのが、”que” ですが、決して省くことはありません。分詞構文の主節と分詞節の主語は一致させるという決まりも、 スペイン語やブラジル・ポルトガル語でも当然の決まりです。

第2章 構文

文の中で主語を明確にしましょう。そして、動詞はできるだけ能動態で書きましょう。動詞こそが主語に動きを与えるからです。以下の引用にある reduce の使い方を見比べてみてください。上から能動態 (Active voice) 、受動態 (Passive voice) 、形容詞 (Verbal) 、名詞 (Verb-derived noun) です。納得でしょう。

In the following phrases, the action of the verb reduce is progressively deemphasized:
Active voice If we reduce drag, .. .
Passive voice If drag is reduced, .. .
Verbal With reduced drag, .. .
Verb-derived noun With reduction of drag, …

NASA SP-7084, “Grammar, Punctuation, and Capitalization: A Handbook for Technical Writers and Editors”

続いて「ドとレとミとファとソとラとシの音が出ない」のような同じ構造の繰り返しで接続詞を使って数珠つなぎにしているような文章はどのように改善すればよいでしょうか?同じ構造単位で箇条書きに変えてしまいましょう。この時の注意点は各項目を同じ構造にすることです。1つ目が体言止めで、2つ目が普通の文のように入り乱れているとよくないのは英語に限った話ではないでしょう。

比較級を使った文の場合は、than の後を単語1つで済ませるのではなく、比較対象が何であるのか明確になるように言葉を補いましょう。単数形か複数形は指示代名詞の that と those を使い分けてはっきりさせ、比較対象の名詞が主語の名詞なのか、目的語の名詞なのかあいまいな場合は、動詞を補ってあげて白黒はっきりさせましょう。

第3章 句読点

  • 角カッコ [ ] は引用文の中で引用した人が手を加えた部分を示す目的で使ってください
  • コロン : はピリオドと同じぐらい文と文を分離する力があるので、要素を全部揃えて完結させた文の直後につけて、コロンの後に続けて例示するリストを列挙するような使い方で使ってください
  • セミコロン ; はコンマを既に含んで書いた塊をさらに並列して列挙したい場合に、塊同士の区切り文字として使ってください

コンマの使い方は奥が深いです。第3章の半分ぐらいがコンマに関する解説です。他の章と同じく正しく使った例とよくない例を並べて、どちらが読みやすいかという説明するのに加えて、コンマのいろいろな使い方を解説しています。コンマの使い方の中で一番気を付けなればならないと思うものを1つだけ挙げると、それがないと文の意味が通らなくなる副詞節はコンマを含む句読点で前後を囲んでしまわず、その副詞節がなくても意味が通る文の副詞節はコンマを含む句読点で前後を囲うとしている点です。以下は本書からの引用です。if などの条件節はないと意味が通らなくなるのでコンマを含む句読点で囲わず、譲歩を表す although などで始まる譲歩節はなくても意味が通るのでコンマを含む句読点で囲いましょう。原因または理由を示す節のうち because で始まる節はそれがないと意味が通らなくなるのでコンマ を含む句読点で囲わず、軽い「…ので」の意味の since や as で始まる節はコンマで囲うというのがよいとしています。

• Condition clauses-introduced by if, as though, except, provided, unless, whether-are usually restrictive.
• Concession clauses-introduced by although, even, while, whereas, thoughare always nonrestrictive.
• Cause or reason clauses introduced by because are usually restrictive, but those introduced by since, as, inasmuch as are usually nonrestrictive.

NASA SP-7084, “Grammar, Punctuation, and Capitalization: A Handbook for Technical Writers and Editors”

そういえば、if や because で始まる従属節は文の前にある時は、最後にコンマをつけますが、文の後ろに置く場合はコンマをつけませんよね。although や since/as ならコンマ付きが決まりとなります。

『理科系の作文技術』と主張は似ている

第4章は大文字で表記すべき場合について説明していますが、ここだけは英語独特なところです。本稿では触れませんが、興味をお持ちでしたら、是非ご覧になって大文字の使い方をマスターしてはいかがでしょうか。

今回紹介した NASA SP-7084 には日本語の解説書も売られています。こちらを参考にするのもよいでしょう。画像リンクをつけておきます。

日本でも技術文書に関するいろいろな解説書があります。木下 是雄氏の『理科系の作文技術』は NASA SP-7084 が言っていることにかなり似ていると思います。『理科系の作文技術』の方が出版時期がさらに早いですが、1980年代から1990年代にかけて出版されたこれらの文章術の本が未だに参照されて支持されているということは本質を突いているからだと思います。

なお、日本語の文章作成術に関しては他にも文化庁が公開した「新しい「公用文作成の要領」に向けて」も参考になります。

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