前回ご説明したように、DHA(ドコサヘキサエン酸)は LPC (LysoPhosphatidylCholine) と結合した状態だと、血液脳関門という脳の厳重な関門を「どうぞ、どうぞ」と通してもらえるのでした。 これを LPC型DHA と呼ぶのでした。では、どうやったら効率的に摂取できるのでしょうか。
自然な形のLPCはなさそう
今回紹介する論文は LPC に関する最新研究を総覧するものとなっています。この論文を読んだ限りでは自然な形の LPC は食材で摂取するのは難しいそうです。それは LPC がすぐに酸化して劣化してしまうためです(参考文献1)。ですので、体に入った後に効率的に生合成されて LPC になる材料を摂取するのが近道のようです。
LPC をサプリメントとして大量生産しようと取り組んでいるところもあります。DHA だけでなく、EPA(エイコサペンタエン酸)など他の脳に有用な薬剤と LPC を結合させて、血液脳関門を通しやすくするというアイデアもあるようです。
ただし、LPC は必要ですが、LPC を過剰摂取すると、それはそれとして健康被害もありそうなのが悩ましいところです。本論文によると、さまざまな免疫細胞を刺激して自己免疫を高める効果があり、慢性炎症を助長するという研究結果もあるそうです。
この負の面を考えても、自然な食材で材料と体に取り込んで、生合成で LPC を自分で作る方が恒常性がうまくはたらいて、必要な量の LPC を賄うことができるので、都合がよいでしょう。
陸上の食材より、海産物がよい
LPC の材料になるのがリン脂質です。リン脂質は細胞膜を構成する材料の一つなので、細胞を持つ生物ならありとあらゆるものに含まれていますので、取り立ててどれを食べようかと選ぶ必要はありません。
リン脂質は化学構造的には親水基と親油基の両方を持つので、水にも油にも溶けます。マヨネーズを作る時に、酢と油を混ぜるために卵の黄身も一緒に混ぜます。実は卵の黄身にもリン脂質の一種である卵黄レシチンがあるためです。
ちなみに、リン脂質を生合成して作る LPC も親水基と親油基の両方を持つので同じような働きがあります。これが血液脳関門を通る時に好都合なのです。
ところが、リン脂質から LPC を生合成したからといって、LPC と結合したら、オメガ3脂肪酸なら何でも簡単に血液脳関門を通ることができるとは限りません。オメガ3脂肪酸の中でも、炭素原子が 14 個以上長く連なったものでなければならないのです。列車にたとえていうと、新幹線は血液脳関門を通れますが、在来線の多くは通れないというようなイメージです。
そうなると、オメガ3脂肪酸の中でも数が限られてきます。EPA(炭素原子が 20個)、DHA(同じく 22個) などに絞られるのです。EPA や DHA を多く含む食材は何でしょうか。そうです、海産物です。分けても EPA や DHA が抜群に多い青魚なのです。
調理方法は?
ここまでで DHA を脳に効率よく届けるには青魚を食べるのがいいことが分かりました。では、調理方法はどうでしょう。フライや天ぷらなどの揚げ物にするとどうでしょう。最悪です。DHA もリン脂質も高温に弱いばかりか油で揚げるわけですから、160~180℃の高温の脂が魚の中まで浸透して、DHAやリン脂質が高温で変質するだけでなく、流れ出て揚げ油と入れ替わってしまいます。魚の種類にもよりますが、17~50.2% も減少してしまいます。
中まで干からびるまで焼かなければ、焼き魚はそれほど影響がないようです。これから分かることは、水の沸点の100℃までが一つの目安と言えるでしょう。焼き魚にするにしても、中はしっとり感が残る程度に留めれば大丈夫です。
もちろん、一番いいのは刺身にして食べることでしょう。しかし、煮魚も悪くはありません。煮汁までいただけば、DHAもリン脂質も減少率ゼロです。私は圧力釜でアラを骨まで柔らかくして食べることをお勧めしています。捨てるところなくすべていただけば、食品ロスにならないばかりか、体を構成する必要な栄養素を漏らすことなく摂取することができます。是非お試しください。
[参考文献1]
- Ahmmed MK, Hachem M, Ahmmed F, Rashidinejad A, Oz F, Bekhit AA, Carne A, Bekhit AE-DA. Marine Fish-Derived Lysophosphatidylcholine: Properties, Extraction, Quantification, and Brain Health Application. Molecules. 2023; 28(7):3088. https://doi.org/10.3390/molecules28073088
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