DHA が血液脳関門を通るには LPC が必要

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魚を食べると頭がよくなる理由は DHA (ドコサヘキサエン酸)にあります。しかし、脳に何でも入ってきてもらっては困るために血液脳関門があります。 DHA は単独では血液脳関門を通れません。連れて入ってくれる LPC (LysoPhosphatidylCholine) が必要なのです。

ようやく分かってきた DHA が脳に入る仕組み

「さかな、さかな、さかな、さかなをたべると、あたま、あたま、あたま、あたまがよくなる」と童謡『おさかた天国』がいうように、DHA(ドコサヘキサエン酸)が脳機能の維持と改善に欠かせないことは、今さら言うまでもなく、みなさんご存じのことです。

ところが、そのメカニズムまでは完全に解明し切れていないことは「お奨めの魚はサバ」の回で触れました。実は、DHA が脳に入って行くメカニズムも最近になってようやく分かっていたところなのです。

脳に何でも入ってきてもらっては困るために、血液脳関門というものがあります。この関門があるおかげで、我々は有害物質がおいそれとは脳の中に入って行けないように守られています。DHA も独りでは脳の中に入っていけないのです。 LPC (LysoPhosphatidylCholine) という仲介人と一緒になることで初めて入って行けるようになります(文献1)。

LPC に結合した LPC 型 DHA になると、血液脳関門の門番である Mfsd2a (Major Facilitator Superfamily Domain containing 2a) に「入ってよし」と許可をもらえるのです。遊園地にこどもだけでは入れずに、必ず親と一緒でなければ入れてもらえないのと同じような具合です。

脳神経細胞間の電線の絶縁被覆

脳神経細胞はお互いに電線で結合されていて、その間を電気信号が行き交いしています。電線同士が近いと混線してしまうので、電線が絶縁被膜で覆われています。主だった材料はコレステロールなどの脂質です。

この絶縁被膜を作る役割を担うのが、希突起膠細胞(oligodendrocyte)と呼ばれる細胞です。名前が難しいので、仮に「トッキー」と呼ぶことにしましょう。このトッキーの成長に DHA がどうも欠かせないらしいのです。

トッキーは電気信号の早送りに一役買っている

トッキーは脳神経細胞の電線に絶縁被膜を巻くだけでなく、電気信号を早送りにも一役買っています。絶縁被膜に節を作って、その節にだけ電荷が集中するようにして、静電気の波を節を伝って流すことで、電線を伝って流れるより高速に信号を流すことができるのです。すごい仕組みです。

電線を抵抗値を下げるために電線を太くして、信号伝達の高速化を目指す方向も考えられます。しかし飛躍的にスピードアップさせることはできません。進化の過程でひょんなことから、見つかったのでしょう。この仕組みがなければ、陸上生物は今もみんなナマケモノのようにノロノロ動いていたことでしょう(文献2)。

トッキーの成長に欠かせない DHA

このトッキーが成長するのに欠かせないのが、DHAなのです。Duke-NUS メディカルスクール とシンガポール国立大学の共同グループが明らかにしました。

DHA が脳に入って行くには、LPCと連れ立って LPC型DHA になる必要がありました。そして、LPC型DHAに血液脳関門の通行許可を与えるのが Mfsd2a という門番タンパク質でした。

このタンパク質を作る遺伝子をノックアウトしたり、RNAの働きを阻害したりしたマウスでは、門番タンパク質を合成できないので、DHA も脳の中に入っていけません。

こうなると、トッキーは早熟になったり、いろいろと中途半端な育ち方をしたりするようになったのです(参考文献3)。

LPCはどうやって摂取するのか

以上のストーリーから、DHA を摂取することの大切さがよく分かりました。それに加えて、LPC も摂らなければ、DHA が脳には届けられないことも分かりました。LPC はどうやって摂取すればよいのでしょうか?

残念ながら、LPC そのままはあまりないようです。しかし、PC (PhosphatidylCholine) の形で摂取して、体内で LPC を生合成すればよいようです。PC は卵、レバー、魚に多く含まれています。ということは、DHA も PC も両方とることができる魚を食べるのが最も効率的だと言えます。

やはり、『おさかた天国』がいう通り魚を食べる習慣は正解でした。

[参考文献]

  1. Nguyen, L., Ma, D., Shui, G. et al. Mfsd2a is a transporter for the essential omega-3 fatty acid docosahexaenoic acid. Nature 509, 503–506 (2014). https://doi.org/10.1038/nature13241
  2. 筒井 秀和、岡村 康司. ランヴィエ絞輪. 脳科学辞典. 2013. DOI:10.14931/bsd.4402
  3. Vetrivel Sengottuvel, Monalisa Hota, Jeongah Oh, Dwight L. Galam, Bernice H. Wong, Markus R. Wenk, Sujoy Ghosh, Federico Torta, David L. Silver. Deficiency in the omega-3 lysolipid transporter Mfsd2a leads to aberrant oligodendrocyte lineage development and hypomyelination. Journal of Clinical Investigation, 2023; DOI: 10.1172/JCI164118

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