糖質制限食でがん防止できるか

Headbanging rats 科学技術

女性は妊娠期間中、胎児にエネルギー源を供給するために、非妊娠時に比べ20~30倍ものケトン体を胎盤で作ります。妊婦自身もそのおこぼれに与ります。仕組みはまだ不明ですが、ケトン体にがん抑制効果がある可能性があるそうです。統計を見ると、確かに少子化につれ子宮がんが増加中に見えます。

糖質制限すると体は仕方なく脂肪を燃やす

糖質制限すると、体は仕方がなく代替エネルギーとして脂肪やタンパク質を燃やそうとします。糖質とタンパク質が生み出す熱量は同程度ですが、脂肪はその4倍程度の熱量を生み出せるので効率的です。

ただし、脂肪を直接燃やすのではなく、一旦肝臓でケトン体という小さな分子まで分解してから燃やします。ブドウ糖は酸素がなくてもエネルギー源になるのですが、ケトン体は酸素で燃やすイメージです。ブドウ糖は無酸素運動が得意で、一方、ケトン体は有酸素運動が得意です。持久力向上にはケトン体が大切なのが分かります。

このケトン体、いろいろな効能がありそうなことが分かってきています。「ボケ防止で始めたMCTオイルに意外な効果が?!」の回で説明したように、認知症予防に効果があります。年齢制限なく脳機能改善できるところも嬉しい限りです。他にも体の慢性炎症を鎮めてくれる効果もありそうということで研究が進んでいます。

期待されるケトン体のがん抑制効果

そして糖質制限によって、エネルギー源としての糖質とケトン体(脂肪)の比率を大きくケトン体側に傾けることで、何とがんにも効くのではないかという話になってきています。メカニズムは2つ考えられています:

  • ケトン体がそれ自体として直接がん細胞の増殖を抑える
  • がん細胞はブドウ糖しかエネルギー源にできないので、糖質制限でがん細胞を兵糧攻めにする

それもあって、日本でも研究が盛んに進められています(1)。

胎盤はケトン体の量産工場

そんな注目を集めるケトン体ですが、妊娠中の女性や胎児は積極的にケトン体をエネルギー源として使うそうです。そもそもヒトは穀物を栽培し始めるまでの狩猟採集生活の中では、糖質を大量に摂取することなどできなかったわけですから当然と言えば当然でしょう。

その供給源はどこかというと、胎盤なのです。胎盤がケトン体の量産工場と化して、せっせと胎児だけでなく妊婦の方にもエネルギー源を供給しているのです。その量たるや成人基準値の20~30倍です。これは凄い量です。そして、胎盤から流れ出した大量のケトン体が胎児のへその緒や母親の血液に流れ込むのです。成人基準値比でいうと、へその緒が9倍程度で、母親の血液中が3倍強です(2)。

子宮がん発症率が少子化と関係する?!

日本では少子高齢化が急速に進んでいます。そのため、女性が一生の中で妊娠している期間が短くなってきています。そのため、女性のがん発症率が上昇しているのではないかと思いました。国立がん研究センターが公表しているがん統計を見てみました。

高齢化によって遅かれ早かれ一生のうちでがんに罹る方が普通になり、医療機器の性能向上で微小ながんも画像で撮られられるようになってきました。そのため、単純な年次推移を眺めても傾向を掴むことはできません。

そこで男女比を見れば分かるかもしれないと思いました。しかし、男性が昨今禁煙や禁酒をしたりする好影響もあり、男女比では傾向が分かりませんでした。高齢化や検査技術の向上、そして予防医療の普及で妊娠期間の効果は単独ではかき消されてしまうのでしょう。

そこで、女性特有のがんを見ることにしました。特に胎盤がある子宮はもろに影響を受けるだろうと見ました。すると興味深い統計データを目にすることができました。1975年から現在までに横軸を年次、縦軸を罹患数、死亡数とした場合に、罹患数、死亡数ともに底の浅い皿型、あるいは「へ」の字を上下ひっくり返したような形をしているのです(3)。

つまり、一旦罹患数と死亡数が下がったのですが、また上がり始めて、その後は上昇し続けているのです。おそらく、ベビーブームを支えた世代がケトン体の恩恵を得て罹患数と死亡数を押し下げた後に、少子化が進み妊娠期間が短くなったことでケトン体の恩恵を得られなくなったと解釈すると辻褄が合います。

糖質制限食でがん防止できるかもしれません。

[参考文献]

  1. 鷲澤 尚宏, 古田 雅, がんに対する糖質制限食治療の現在から未来へ: 現時点でエビデンスはあるのか?, 外科と代謝・栄養, 2019, 53 巻, 5 号, p. 185-189, 公開日 2019/11/15, Online ISSN 2187-5154, Print ISSN 0389-5564, https://doi.org/10.11638/jssmn.53.5_185https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssmn/53/5/53_185/_article/-char/ja
  2. Ketone body elevation in placenta, umbilical cord, newborn and mother in normal delivery, Glycative Stress Research, 2016, Volume 3, Issue 3, Pages 133-140, Released on J-STAGE April 30, 2018, Online ISSN 2188-3610, Print ISSN 2188-3602, https://doi.org/10.24659/gsr.3.3_133https://www.jstage.jst.go.jp/article/gsr/3/3/3_133/_article/-char/en
  3. 国立がん研究センター:がん統計ー子宮がん年次推移

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