40Hz の刺激で頭が冴え渡るのか…

morning sun 科学技術

ここ数年で 40 Hz 程度のガンマ波と呼ばれる脳波と同じ周波数の光や音の刺激で、脳の中の掃除が進み、アルツハイマー型などの認知症に効果があるという研究結果が次々と出てきています。薬でないものに文字通り脚光が当たっています。

とても大事な脳波、ガンマ波

脳波にはいろいろありますが、今回の主役、ガンマ波もその一つです。きっちり 40Hz というわけではありません。26 Hz から70 Hz でばらつく脳波です。その中でも真ん中辺りの周波数の 40Hz が特に鍵になってきます。どうやら、この周波数で脳の中で知覚を司る部位同士が同期して情報を連携処理するようです。

アルツハイマー型認知症の方は、ガンマ波が弱くなり、周波数がばらつくことが知られています。脳の中で知覚を司る部位同士の同期が外れて、情報を連携処理できなくなるわけです。

健常な脳であれば、三塁ゴロを三塁手がボールを拾って二塁手に送り、続いて二塁手が一塁手に送って、ダブルプレーでゲームセットとなるところが、アルツハイマー型認知症の脳では、三塁手がボールを拾って二塁手に送っても、二塁手が明後日の方向を向いて受け取らず、ボールはどこかに飛んでいき、逆転サヨナラ負けしてしまう、と言えばいいでしょうか。

アミロイドβやタウタンパク質などのゴミが脳の中に溜まって、それらが脳神経細胞を傷つけてダメになってしまうと、脳神経細胞が持つ体内時計の機能が衰えてしまうためとされています。ある程度の担ぎ手が集まって、「ヨイショ、ヨイショ」という掛け声に合わせて神輿を持ち上げないと、街を練り歩くことはできません。心臓の心筋細胞などと同じなのですね。

点滅光と低音が頭に効く

脳神経細胞がダメになると、もうダメなのかと思いきや、外からガンマ波と同じ 40Hz の点滅光をマウスに見せると、何とその刺激に脳神経細胞が同期して 40Hz のガンマ波が増幅させることが分かりました。MIT の研究者たちがこの現象を論文で報告しました(1)。

それだけではありません。おまけに、脳の中の視覚野にあるゴミ、アミロイドβやタウタンパク質も減ることが分かりました。

目から入れた 40Hz の刺激で視覚野からガンマ波が出るようになって、掃除もされるのです。そうあれば、耳から入れた刺激でもそうなるのではないかと思うのが人情でしょう。同じMITの研究グループが実験結果を出しました。マウスに 40Hz のドスの効いた超低音を聞かせたところ、見事に聴覚野からガンマ波が出るようになりました。その上、今度は短期記憶を司る海馬からもガンマ波が出てきたのです(2)。

もちろん、40Hz の点滅光の時と同じように、聴覚野と海馬の両方でアミロイドβとタウタンパク質が減りました。

さらに、研究グループは 40Hz の点滅光と超低音の刺激を同時にマウスに与えました。そうしたところ、相乗効果がありました。意思決定に関わる重要な部分である内側前頭前皮質に対しても、同じ効果があったのです。五感の全てに 40Hz の刺激を与えれば、脳全体にガンマ波が広がり、ゴミ掃除もできることが期待できる結果です。

外からの 40Hz に同期して、脳が 40Hz のガンマ波を出して、ゴミ掃除もできたとしても、実際のところ、認知機能に対して効果があったのどうかが「なんぼのもの」です。確かにありました。マウスの迷路ゲームなどの認知機能テストの成績がよくなりました。早くヒトで試したくなるような結果です。

超音波で直接脳に 40Hz の刺激を与えてもよい結果

そんなに 40Hz の刺激が脳にいいのだったら、五感を介すというまどろっこしいことをしないで、直接脳を刺激したらいいではないかと考える人が出てきても不思議ではありません。

いました。米ワシントン大学の研究グループです。彼らの研究によると、2MHz の超音波に乗せて頭蓋骨から直接マウスの脳に 40Hz の刺激を与えたところ、アミロイドβが減ったのです(3)。

続けて、韓光州科学技術院の研究グループが、 300KHzの超音波に乗せて頭蓋骨から直接マウスの脳に 40Hz の刺激を与える実験をしました。米ワシントン大学の研究よりもさらに詳しいことが分かりました。彼らの論文によると、海馬でアミロイドβの量が減るだけでなく、実際に 40Hz の刺激に同期して、脳が自発的に 40Hz のガンマ波を出すようになるところまで突き止めました(4)。

迷路ゲームで認知機能が向上するところまで確かめて欲しかったですね。残念ながら、そこまでの結果はありませんでした。とは言え、別の研究者が実際の認知機能への影響を確認するのは時間の問題と思います。

ガンマ波と同じ40Hzの刺激は、触覚を使った振動として体に伝えても、頭蓋骨越しに脳に微弱な交流電流を流すtACS (transcranial Alternating Current Stimulation)、はたまた同じく頭蓋骨越しに脳に微弱な交流磁界を与えるTMS (Transcranial Magnetic Stimulation)を使っても、やはり認知機能を向上させる効果が確認されています。以上これまでの研究成果を一旦総集編としてまとめた論文が出ています。数十人から数百人規模の治験が数多く始まっているので、これは目が離せません(5)。

ということは、朝、木漏れ日の下歩くと、効果的では?!

ということは、何も直接脳に届ける刺激は、超音波でなくてもいいのではないかと思いました。「ボケ除けには赤い光」の回で赤い光が細胞内のミトコンドリアを活性化するという話を紹介しました。近赤外から赤の光は結構体の中まで届くことにも触れました。その中で、この仕組みを使って、認知機能を改善する医療機器を研究開発しているメーカがあることも触れました。

高音波は音波なので、脳神経細胞を物理的に 40Hz で揺さぶるとよいというわけです。それより安全な赤い光を脳の中まで届けてやって、脳神経細胞のミトコンドリアを活性化すれば、いいのではないかという発想です。40Hz でどうやって点滅させましょう。

ちょっと無理やりですが、あります。木漏れ日です。植物の葉っぱの生える間隔には規則性があります。葉っぱの生え方(葉序)については、たくさん研究されていて、数値シミュレーション・モデルもできあがっているぐらいです。

伊勢神宮にて

生物が成長する時の共通の仕組みとして、体の先端でホルモンを作って、体の中心に向かってホルモンを拡散させます。その時、濃度にグラデーションができます。体の先端が濃くて、体の中心に向かって薄くなっていきます。濃度に応じて、遺伝子のどれが発現するか決まっているのです。この仕組みを使って体に節やら関節やらを作るのです。

それが植物の場合には、枝の先端から幹に向かってホルモンを拡散させていき、濃度にグラデーションをつけます。ホルモンがある濃度になったところで反応する遺伝子があります。それが葉っぱを生やす遺伝子だったりするのです。そして、その場所から葉っぱを生やし出します。拡散という物理現象を使うので、だいたい一定間隔で葉っぱが生えてくるわけです。この植物のホルモンをとって「オーキシン仮説」と呼ばれています。

ということは、雑木林はどうなんだ、という話もありますが、大雑把に言ってしまうと、木立が茂るところでは、周期的に葉っぱが並んでいると見なせるでしょう。

木立の上から太陽の光が注がれると、木漏れ日になります。少し乱暴ですが、木漏れ日も周期性があるということになります。そこを人が歩けばどうでしょう。木漏れ日は周期的な点滅光となって、人を照らすでしょう。

もうお判りでしょう。朝8時から9時の間の太陽光が最も赤い光が多く含まれるのでした。その時間帯に外に出かけて、木漏れ日の中を散歩するのです。葉っぱが並んでいる間隔と歩く速度が大切です。

ところで、先ほどいろいろな論文を紹介する中で、言い忘れたことがありました。20Hz だと逆効果だそうです。むしろ脳の働きに悪さをするそうです。朝、木漏れ日の中を散歩するなら、速足にしておきましょう。

[参考文献]

  1. Iaccarino, H., Singer, A., Martorell, A. et al. Gamma frequency entrainment attenuates amyloid load and modifies microglia. Nature 540, 230–235 (2016). https://doi.org/10.1038/nature20587
  2. Martorell AJ, Paulson AL, Suk HJ, Abdurrob F, Drummond GT, Guan W, Young JZ, Kim DN, Kritskiy O, Barker SJ, Mangena V, Prince SM, Brown EN, Chung K, Boyden ES, Singer AC, Tsai LH. Multi-sensory Gamma Stimulation Ameliorates Alzheimer’s-Associated Pathology and Improves Cognition. Cell. 2019 Apr 4;177(2):256-271.e22. doi: 10.1016/j.cell.2019.02.014.
  3. Bobola MS, Chen L, Ezeokeke CK, Olmstead TA, Nguyen C, Sahota A, Williams RG, Mourad PD. Transcranial focused ultrasound, pulsed at 40 Hz, activates microglia acutely and reduces Aβ load chronically, as demonstrated in vivo. Brain Stimul. 2020 Jul-Aug;13(4):1014-1023. doi: 10.1016/j.brs.2020.03.016.
  4. Park M, Hoang GM, Nguyen T, Lee E, Jung HJ, Choe Y, Lee MH, Hwang JY, Kim JG, Kim T. Effects of transcranial ultrasound stimulation pulsed at 40 Hz on Aβ plaques and brain rhythms in 5×FAD mice. Transl Neurodegener. 2021 Dec 7;10(1):48. doi: 10.1186/s40035-021-00274-x.
  5. Blanco-Duque C, Chan D, Kahn MC, Murdock MH, Tsai LH. Audiovisual gamma stimulation for the treatment of neurodegeneration. J Intern Med. 2023 Dec 19. doi: 10.1111/joim.

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