10Hzの刺激で大人も3倍速学習

morning sun 科学技術

脳波のうち、アルファ波は学習に関わることは有名です。自分のアルファ波が分かると、それに同期して学習すると、3倍速で速習できることが分かってきたようです。そういう便利な機械が出てきたら、語学に是非取り入れたいです。

鍵はアルファ波

アルファ波はリラックスした時に現れる脳波だということをご存じの方も多いと思います。また、リラックスした時にこそ勉強がはかどるということもご存じでしょう。そのためもあって、YouTubeでもたくさんのアルファ波を出すための動画がアップされています。

今でもそうかも知れませんが、昔はクラシック音楽がよく、分けてもモーツァルトがよいなどと言われていました。自然が奏でる音、例えば、鳥のさえずりや川のせせらぎを聴くのもアルファ波を出しやすくなると言われてきました。

しかし、もっと積極的にアルファ波を増幅することができる方法が、今回紹介するケンブリッジ大学の研究です。「40Hz の刺激で頭が冴え渡るのか…」の回で認知機能を改善する方法として紹介した方法と同じです。点滅光です。今回はアルファ波と同じ8 Hz から12 Hzの点滅光を使います(論文1)。

アルファ波を増幅して、適切なタイミングでテスト

人為的に外からの刺激でアルファ波を増幅するにはコツがあります。そもそもアルファ波は人類皆共通の決まった波長があるわけではなく、周波数には幅があり個々人で千差万別です。それだけでなく、一人の人でもある時はこの周波数で、ある時は別の周波数と揺れ動いてバラツキがあります。

その辺を考慮して、先ず被験者それぞれのアルファ波の周波数と波の位相を脳波計で測定します。そして、アルファ波の振幅の山が来た時にフラッシュを焚いて光を見るように、オーダーメイドで目に刺激を与えること 1.5秒程度で下ごしらえが出来上がります。これだけで周波数は同じでも位相は合っていない場合に比べてアルファ波の振幅が倍近くになったのです。

こうして、元気よくアルファ波が出るようになったところで、次にテストです。テストは「ウォーリーを探せ」のような紛らわしものの中から正解の点を探すものです。このテスト、出題タイミングも大切なのです。さきほど被験者それぞれのアルファ波の周波数だけでなく、波の位相も測定しました。これが活きてきます。

出題タイミングを、アルファ波の山にするグループと谷にするグループとに分けました。そうしたところ、谷グループの正答率の方が高く、繰り返しテストすると、覚えるのも3倍速くなりました。その結果、8回繰り返したところで、最終的に正答率は山グループが6割程度で足踏み状態の中、谷グループは6.5割程度に向上しました。8回目でもトレンド線は上向きのままですので、学習効果の差は歴然です。

さらに言うと、脳波計で測定した脳波を詳しく見ていくと、谷グループでは視覚処理に関わる脳の部位の処理応答が早まっていたのです。

語学を究めるには音でアルファ波を爆上げしたいが…

論文は視覚を使った学習でしたが、著者は多分音でも同じことになるだろうと述べています。語学を究めるには、音の刺激でアルファ波を爆上げしたいところです。しかし、それは簡単な話ではないかもしれません。10 Hzの音というと、人間の可聴域の周波数以下だからです。

人間の可聴域は 20 Hzから2k Hz辺りと言われています。ですので、アルファ波の音は全く聞こえないでしょう。どこまで低い音を聞けるかは、耳の大きさに相関がありますので、人間よりも図体が大きな動物ということになります。ゾウの可聴域は低く、5 Hzから24 Hzの超低音を発して数km先の仲間とコミュニケーションするそうです(論文2)。これなら、アルファ波の音を聴くことができるでしょう。と言っても、ゾウのアルファ波はヒトのそれとは異なる周波数でしょうから、ゾウの学習効果が高いというわけでもないでしょう。

そうなると、耳ではなく、体表で10 Hz辺りの空気振動がどう脳に作用するかです。気圧がその周波数で変われば、血流に鼓動以外の周波数が乗ってくるになるでしょう。そうすると、脳に届く血流も10 Hzで揺らぐことになります。これがよい刺激になるかどうかです。今後、音の刺激でも研究が進むことを望みます。

自分で制御する方法として呼吸は使えないか

自分のアルファ波の周波数と位相に同期して脳に対して刺激を与えるのは、どう考えても人工的な方法でしか実現できそうにありません。

しかし、希望がないわけではありません。呼吸は普段は不随意運動で動いています。心臓と同じで随意運動でしか動かせなければ、片時も注意を逸らすわけにはいきません。ただ、呼吸の方は意識的に深呼吸できますし、ヨガや瞑想などは積極的に呼吸を整えることで心身を良い方向に誘導しようとする方法です。

呼吸を使って意識的にアルファ波を制御できるかも知れません。現に、射的の選手は呼吸を整えた後、息を吐き終わった瞬間に打つといいます。アルファ波の谷でテストするのが絶好のタイミングだという話をしました。それはアルファ波の谷では神経の興奮が一番鎮まっているタイミングだからで、脳内の電気ノイズが一番少ない瞬間だからだと解釈されています。

もしかしたら、意識的な深呼吸をして息を吐き終わった瞬間は、アルファ波を谷にできるのかもしれません。そう思ってこれから、意識的に息を吐き終わったその時を見計らって単語を覚えるようにしてみたいと思います。

[参考文献]

  1. Elizabeth Michael, Lorena Santamaria Covarrubias, Victoria Leong, Zoe Kourtzi. Learning at your brain’s rhythm: individualized entrainment boosts learning for perceptual decisions. Cerebral Cortex, 2022; DOI: 10.1093/cercor/bhac426
  2. 入江尚子, ゾウの音声コミュニケーション, 日本音響学会誌 70巻11一号(2014),pp.611−614

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