今回紹介する3本の論文と語学実践経験から改めて、語学も1週間単位で教材の1課をこなすのが最適で、寝る時は真っ暗にして熟睡し、朝起きたら朝日を浴びて体内時計が狂わないような習慣と共に身についていくものだと実感しました。
色の明るさは見る人によって違う
大阪公立大学の研究者によると、瞼を開いていても閉じていても、周囲の明るさを同じに感じる人が一定数いそうだということです(論文1)。大学生 33 人の被験者を募り、赤、黄、緑、青、白のそれぞれの色のLEDを擦りガラス越しにLEDの光を顔に当てて、瞼を開いている時と閉じている時とで同じ明るさに感じる時のLEDの光の強さを測定しました。こうすることで、寝ている最中に瞼を通る時にどれぐらい光が弱められるか求まります。
人体の造り上、一般的に長い波長の光(虹色の赤側)ほど瞼を通りやすく、波長が短い(虹色の紫側)ほど瞼を通りにくいです。それはそれとして、この研究で新しいことは、特に赤色 LED で瞼を開いている時と閉じている時とで同じ明るさに感じる人がいることが分かりました。
この人が他の人と特別違うかというと、そういうわけでもなく、瞼を開いている時と閉じている時の明るさの比を被験者ごとに測定して、その比を大きい方から小さい方へ順に左から右へ並べていくと、不連続に飛んだグラフにはならず、連続して右肩下がりのグラフになったのです。
また、瞼を開いている時と閉じている時とで同じ明るさに感じる人が、必ずしも赤以外の他の色でも同じような明るさの感じ方をしているかというと、そうでもないことも分かりました。つまり、個人差も大きければ、その個人の色に対する「感度」もまちまちだということが分かったのです。
どうしてそのようなことが起こるのかは、まだよく分かっていないそうです。しかし、これで言えるのは、人によって周囲が明るいと、瞼を閉じてもどうにもならないということです。これは深い眠りを妨げることにつながりますので、よく言われるように、スマホも電源を入れっぱなしにして枕元に置かない方がよいということです。特に赤色 LED は禁物です。日中の赤い光は正義の味方ですが、瞼を安々と通り抜けるので、寝る時には厄介者です。これを知ってか知らずか、スマホで夜光るLEDに赤色はありません。
冬でも決まった時間に朝日を浴びましょう
ワシントン大学の研究によると、24 時間+20 分で1日を刻む人間の体内時計は、朝日を浴びると、30分繰り上がり、夕日や夜間の人工灯を浴びると、15 分遅れるそうです(論文2)。
ということは、毎日ちゃんと朝日を浴びないと、毎日 20 分ずつ後ろにドンドンずれていってしまうということです。それに加えて、夜間に明るいところにばかりいると、さらに 15 分ずれるので、毎日35分ずつずれていくことになります。
睡眠障害はこういう生活で起きている場合もありそうです。特に冬は日が昇るのが遅くなりますので、ただでさえ朝日を浴びる時間が遅くなりがちになりまし、日光を浴びる時間自体も短くなりがちです。
季節を問わず、決まった時間に朝日を浴びるために外に出かけることを習慣にするのが、体内時計を狂わせないための秘訣と言えそうです。朝散歩や通勤・通学を一定の時間にするのが効果的でしょう。また、日光浴することで、特にインフルエンザなどの季節性疾患が多い冬に、免疫を高める効果があるビタミン D をしっかり作ることもできます。
スキルを身に付けるには熟睡が必要
カリフォルニア大学サンフランシスコ校のネズミを使った研究は、語学をしている人間の私が実感する音読の慣れと近いものです(論文3)。
ちょっと可哀そうですが、ネズミの脳の中の海馬、前頭前皮質、一次運動野と呼ばれる3つの部位に電極を取り付けます。海馬は短期記憶に関している部位です。前頭前皮質は計画実行を司る知性の源です。一次運動野は文字通り何か体を動かす時に最初に活動する部位です。
そして、スリットを入れた壁の向こう側にあるエサのペレットに前脚を延ばして取る練習をさせます。最初の4日間は試行錯誤をしてよく失敗するのですが、これが5日目頃から急にうまくエサを取ることができるようになります。その後は安定してエサを取ることができるようになります。
この間眠っている時の脳波を記録すると、面白いことが分かりました。練習を始めたばかりの頃は、Non-REM 睡眠と呼ばれる身動ぎせずに熟睡している時に、海馬から発せられるパルスが届くと、前頭前皮質と一次運動野が共に脳波を発するのです。まるでオーケストラで指揮者(海馬)が指揮棒を振るって、それに合わせて弦楽演奏者と打楽器演奏者が音楽を奏で始めるようではないですか。
それが5日目から6日目のNon-REM 睡眠時になると、海馬の指示がなくても(パルスに同期しなくても)、前頭前皮質と一次運動野がお互い脳波の調子を合わせ始めるのです。そして、起床後にまたエサを取る練習をさせると、成功率が急に高くなるのです。ここまでを速習(fast learning)と呼ぶそうです。一方、その後エサを食べておいしかったという満足感が学習効果を持続させることに関係しているようです。このフェーズの学習を遅習(slow learning)と言います。
しかし、壁のスリットから見えるエサのペレットの位置を左右反対側に移動させると、例えば右前脚を使ってエサを取ることができなくなり、反対の左前脚を使わざるを得なくなります。そうなると、最初は右前脚を使って取ろうともがくのですが、埒が明かないで、左前脚を使い始めて試行錯誤を栗化し始めます。これは学習棄却(unlearn)が起こっていると考えられます。今まで正しいと思っていたことを一旦忘れて、もう一度新しいことを学び直すわけです。
語学もしっかり熟睡、1週間に1課をこなすのが最適か
最近、毎日 Duolingo podcast をできるだけ速いスピードで音読する練習をしています。教材はブラジル・ポルトガル語の解説付きで英語の実話ドキュメンタリーです。ブラジル・ポルトガル語と英語の両方の日常表現が同時に学べる上に、頭を瞬時に別の言語に切り替える訓練にもなると考えたからです。
一つのエビソードを音読題材にして、土曜日から始めて金曜日に終わる1週間をサイクルにしています。大体、木曜日か遅くても金曜日の時点になると、あまり詰まらずにスラスラ音読できるようになります。先のカリフォルニア大学サンフランシスコ校のネズミ研究より1日遅いですが、6 日目から 7 日目にかけて急に音読が上手くなったと感じるようになります。音読も口という体の一部を使う練習だからなのでしょう。仕事が大変で寝不足が1週間続く時は、やはり木曜日ではなく、金曜日にならないと上手くなったという感覚を掴むことができません。
今回紹介した3本の論文と語学実践経験から改めて、語学も1週間単位で教材の1課をこなすのが最適で、睡眠負債を貯めないように、寝る時は真っ暗にして熟睡し、朝起きたら朝日を浴びて体内時計が狂わないような習慣と共に身についていくものだと実感しました。
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