体、特に手で扱うものを表す言葉は、手を使えない状態にすると、思い出すのが遅くなるそうです。海外では身振り手振りを交えながら話すのが普通です。日本人はあまり身振り手振りを使いませんが、日本の研究でも同じであることが明らかになりました。語学のお供にジェスチャーは欠かせませんね。
手で扱うものを表す言葉を思い出すにはジェスチャーが必要
“enbodied cognition / 身体性認知” という理論があります。言葉で考えることと身体感覚とは切っても切れないということです。「ジェスチャーを交えて単語を覚えると定着がよい…かもしれません」の回で、言葉を覚えるのにジェスチャーを交えて覚えると、思い出すにもジェスチャー交える方が思い出しやすく、ジェスチャーできないようにすると思い出しづらくなることを紹介しました(論文1)。
日本の研究者が、今度は手で扱うものを表す言葉を思い出す際に、手を使えないように邪魔したら、どうなるか実験しました。大阪公立大学の研究者たちです。大阪府立大学と大阪市立大学が合併してできた大学です。
実験結果は論文1の結果と同じく、手を使えないように邪魔したら、思い出すのに時間がかかりました(論文2)。しかし、今度はちょっと違ったところもあります。
論文1では、具体的なモノの他にも「民主主義」のような観念的な概念を表す外国語も身振り手振りを交えて覚えるという仕込みを行っています。その後の思い出す時に、身振り手振りができないように邪魔をしました。結果、具体的なモノの名前も抽象的な言葉もどちらも母国語に翻訳するのに時間がかかりました。
今回の実験で被験者が思い出すのは、日常使う母国語です。生活の中で自然に身についた言葉でした。この場合では、具体的に手で扱えるサイズのモノと手では扱えない大きなモノや抽象的なモノとの間で異なる結果になったのです。手では扱えない大きなモノや抽象的なモノの場合には、手を使えなくしてもほぼ影響なかったのです。
身体感覚が絡むモノはそのモノを扱う光景を思い浮かべることで、そのモノを表す言葉を思い出しやすくなるようです。この時、言葉の処理だけでなく身体活動に関わる脳の部位が活発に働くことも分かりました。きっと、頭の中のシミュレーターが、関連する画像情報やそのモノにまつわる過去の経験などを引っ張り出してきて、「ああ、これこれ」とやっているのでしょう。身体感覚を絡ませることができないものに対してはそれができないので、無反応なのでしょう。
ジェスチャーを使えば、抽象的なものも高速処理できる?!
今回は日本の研究だったので、そもそもジャスチャーを加えず言葉を使う文化ではありません。ですので、手では扱えない大きなモノや抽象的なモノに対する反応時間は影響を受けなかったのかもしれません。私がこの研究で一番注目したは、手を拘束しないで具体的に手で扱えるサイズのモノの言葉を思い出すのが最も反応時間が短い、という事実です。
論文1では、具体的な言葉も抽象的な言葉もどちらもジェスチャーを妨げると反応するのに時間がかかっていました。ということは、抽象的な言葉を身振り手振りを交えて覚えた後で、思い出す時に同じ身振り手振りをすれば、手で扱うモノを指す言葉と同じぐらい簡単にサッと思い出すことができるのではないかと思いました。
日本人が抽象的な概念を考えるのが不得意とは必ずしも思いませんが、言葉を操る際にジェスチャーを交えるように変わっていくと、さらに高速思考できるようになるのではないでしょうか。
早速、語学で実践へ
そう考えたので、早速今日から語学の際に、突っ立ってリーディングするのではなく、身振り手振りを添えながら読むことにしました。このような科学的エビデンスがいくつも積み上がってきているわけですので、学校教育に取り入れていけば、日本の外国語習熟度も変わっていくのではと思ってしまいます。
「外国語習熟度と母国語話者数との関係」の回で触れたように、必ずしも日本の英語教育が他国に比べて引けを取っているわけではないと思います。しかしながら、ヨーロッパ語系の母国語ではない中国の方が日本よりも EF 英語能力指数が高いのです。これは、もしかしたら、中国人の方がジェスチャー付きで話すことが多いからかもしれません。
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