脳血管性認知症予防は血管からです。血管年齢というと、何やら特別の測定器で測るイメージですが、何と言っても血圧が支配的なようです。今やスーパー銭湯のようなところにも置いてあるありふれた血圧計を使えば、間接的に自分の血管年齢が推定できるわけです。
脳血管性認知症≒脳卒中
認知症というと、先ず最初にアルツハイマー型認知症を思い浮かべます。厚生労働省の資料によると、全体の3分の2程度を占めます。その次に多いのが脳血管性認知症です。全体の5分の1程度です。この2つだけで全体の9割近くを占めます(1)。ですので、予防にはこれら大所に対して生活習慣として何を取り入れればよいかということになります。
アルツハイマー型認知症に比べれば、脳血管性認知症の方は何をすればよいか簡単明瞭です。脳血管を詰まらせない、痛めつけなければよいのです。つまり脳卒中予防とほぼ同じです。ということは、脳卒中予防として生活習慣をどう正せばよいかという話になります。
脳卒中は昔は日本人の死因第1位でしたが、最近はがんが1位です。これも厚生労働省の別の統計資料によると、全体の約4分の1を占めます。脳卒中(=脳血管疾患)はというと、それでも4位に食い込んでいて全体の6.8%です(2)。
おそらく医療技術の向上で即死は免れて一命を取り留めるも、脳の一部の機能が失われるということになるのでしょう。それが運動機能の場合には身体に麻痺が残ることになり、記憶機能の場合には認知症になるということでしょう。
ということは脳血管を労われば、脳卒中で死ぬことも脳血管性認知症にも罹らなくて済むということになります。とはいっても、脳血管だけを労わることなどできるはずもなく、結局体中に広がる血管全体を労わる必要があります。
攻めの血管を強く方法
では、血管を強く方法はあるのでしょうか。有効性のエビデンスを積み上げ中の方法で期待できるものはあります。
これまで調べた中では、手っ取り早い例として例えば、チェダーチーズやブルーチーズを食べるというものです。血管内壁にある内皮細胞から一酸化窒素(NO)が分泌するのを促して血管壁をしなやかにすると報告する研究があります(3)。
その他にカカオも同じように血管内壁にある内皮細胞から一酸化窒素(NO)を分泌させます。カカオは食品の中で最も多くエピカテキンという物質を含みます。これが作用するそうです(4)。
上の2つの例は食事に関わる生活習慣でしたが、運動も有効です。特に有酸素運動は同じく血管内壁にある内皮細胞から一酸化窒素(NO)が分泌するのを促す効果があるそうです(5)。とにかく運動は万能薬のようなので、運動習慣を取り入れることは血管性疾患に関わらずすべての死因を下げる効果があるので、取り入れましょう。
守りの血管を労わる方法
血管を強くする方法が攻めだとすると、守りは血管を労わる方法になります。国立がん研究センターのコホート研究が参考になります。10年間で脳卒中を発症する確率を求める予測モデルを作っています。この予測モデルで「血管年齢」を導き出しています(6)。
血管年齢というと、何やら特別の測定器で血管の硬さを測るイメージですが、このような直接測る方法ではなく、普通の定期健康診断の範囲内の指標から簡便に導き出すことができます。
- 年齢
- 性別
- 喫煙有無
- BMI
- 糖尿病有無
- 血圧
の6つの指標です。
このうち年齢と性別は如何ともしがたいです。喫煙している方は禁煙すれば血管年齢を下げられます。糖尿病は予備軍の段階であれば、糖質制限ダイエットなどを生活習慣に取り入れることで正常血糖値範囲に戻すことはできるはずです。糖尿病は血糖値の測定が必要ですが、それ以外は問診票の質問レベルです。
そして、最後に残った血圧が何と言っても支配的なようです。血圧計は今やスーパー銭湯のようなところにも置いてあります。このごくありふれた血圧計を使えば、必要な指標が全て揃い、自分の血管年齢が推定できるのです。
実年齢を原点にして、そこから年齢、喫煙有無、BMI、糖尿病有無、そして血圧の5つのリスク要因を点数付けして加点していきます。減点はありませんので、残念ながら実年齢よりも若い血管年齢にはなり得ません。論文ではなく手っ取り早くリスクスコア算出方法を確認したい方は、国立がん研究センターの本研究を紹介したページがありますので、参考にしてください(7)。
ちなみに私は…
ちなみに私の場合は、たばこを吸いませんし、やせ型で、何とか努力して糖尿病には至っておらず、ここまでのリスクスコアは0です。最後に残る血圧は、収縮期血圧と拡張期血圧がそれぞれ120 mmHgと80 mmHgを下回っているので、血圧もリスクスコアが0です。したがって、血管年齢=実年齢になります。
頑張っていると思いませんか?塩気がどうしても欲しい場合は、食塩を止めて岩塩にするか、そうでなければ、大豆発酵食品の味噌や醬油で味付けるのが無難です。特に女性は血圧を上げず、逆に下げるという研究もあります。男性では統計的に有意な結果は得られませんでしたが、女性に右に倣えがよいでしょう(8)。
では、乾杯しましょう。いやいや。国立がん研究センターの論文を読むと、指標にはなぜかアルコールは入っていません。しかし、飲酒量が多くなるにつれて確実にリスクが高まることが統計的に有意な結果として示されています。飲酒習慣は血圧と相関があるので、同じ要因を2つ足し込むのを避けたかったからでしょう。週にどれぐらい飲酒するか聞き取るよりも血圧を測定する方がより客観的です。リスクには違いありませんので、乾杯も控えめにしましょう。
[参考文献]
- 厚生労働省老健局:認知症施策の総合的な推進について(2019)
- 厚生労働省:人口動態統計月報年計(概数)の概況(2022年版)
- Masafumi Kitakaze, Tetsuo Minamino, Koichi Node, Kazuo Komamura, Yoshiro Shinozaki, Hidezo Mori, Hiroaki Kosaka, Michitoshi Inoue, Masatsugu Hori and Takenobu Kamada. Beneficial Effects of Inhibition of Angiotensin-Converting Enzyme on Ischemic Myocardium During Coronary Hypoperfusion in Dogs. Circulation. 1995;92:950–961. DOI: https://doi.org/10.1161/01.CIR.92.4.950
- Osakabe N. Flavan 3-ols improve metabolic syndrome risk factors: evidence and mechanisms. J Clin Biochem Nutr. 2013 May;52(3):186-92. doi: 10.3164/jcbn.12-130. Epub 2013 Apr 19. Erratum in: J Clin Biochem Nutr. 2013 Jul;53(1):73. PMID: 23704807; PMCID: PMC3652297. DOI: 10.3164/jcbn.12-130
- Tsukiyama Y, Ito T, Nagaoka K, Eguchi E, Ogino K. Effects of exercise training on nitric oxide, blood pressure and antioxidant enzymes. J Clin Biochem Nutr. 2017 May;60(3):180-186. DOI: 10.3164/jcbn.16-108
- Hiroshi Yatsuya, Hiroyasu Iso, Kazumasa Yamagishi, Yoshihiro Kokubo, Isao Saito, Kazuo Suzuki, Norie Sawada, Manami Inoue and Shoichiro Tsugane. Development of a Point-based Prediction Model for the Incidence of Total Stroke. Stroke. 2013;44:1295–1302. DOI: https://doi.org/10.1161/STROKEAHA.111.677534
- 国立がん研究センター:10年間で脳卒中を発症する確率について -リスク因子による個人の脳卒中発症の予測システム
- Nozue, M., Shimazu, T., Charvat, H. et al. Fermented soy products intake and risk of cardiovascular disease and total cancer incidence: The Japan Public Health Center-based Prospective study. Eur J Clin Nutr 75, 954–968 (2021). DOI: https://doi.org/10.1038/s41430-020-00732-1
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