脳腸相関を直接示す証拠、見つかる

腸内フローラ 科学技術

脳腸相関ということばを最近よく耳にしませんか?脳と腸とは迷走神経でつながっていて、この神経を使って双方向で情報をやり取りしていることが知られていました。今回紹介する論文は、血液に乗せて腸から脳にメッセージを送る方法を解き明かしています。

脳と腸は迷走神経でつながる

名前があまりよろしくありませんが、脳と腸は迷走神経という神経でつながっています。腸は長く、大人の小腸の場合、平らに広げるとテニスコート1面分にも達するほど広いので、迷走神経の腸につながる先の方は複雑なつながり方をしているようです。それもあって、「迷走」という不名誉な名前が付けれられてしまいました。

だからと言って、何もしなかったり、遊んでいるわけではありません。多くの迷走神経がつながっていることから腸は第2の脳と呼ばれて、重要な役割を担っています。正確にいうと、腸そのものというよりも、そこの住人である腸内細菌が生み出す代謝物が、といった方がいいでしょう。

まだ詳しくは分かっていないところも多いですが、腸内細菌が生み出す代謝物が迷走神経を伝って、脳に届いていることは間違いないようです。エサとなる水溶性食物繊維を消化する時に、腸内細菌は代謝物として酪酸を作ります。この酪酸は直接大腸のエネルギー源になります。その他にも、「ボケ除けには断然、水溶性食物繊維」の回で紹介した論文が示すように、脳の炎症を抑えてくれます。酪酸が迷走神経に作用して、電気信号として腸から脳に働きかけています。

他にも、腸内細菌の代謝物として、たくさんのホルモンが作られて、迷走神経を伝って腸から脳に届いています。その代表的なものがセロトニンです。セロトニンは昼間は精神を安定させてくれるホルモンですが、体内でメラトニンに変わっていき、メラトニンになったら、眠りにいざなってくれる大事なホルモンです。脳内ホルモンが実は腸でも作られて、神経を伝って運び込まれるとは驚きです(参考文献)。

血液に乗って腸から脳に達する「ムロペプチド」

上で紹介した腸から脳への働きかけの方法は以下の2つでした:

  1. 腸内細菌の代謝物が迷走神経経由で電気信号として腸から脳へ伝える方法
  2. 腸内細菌の代謝物=脳内ホルモンが迷走神経を伝って腸から脳へ達する方法

その他にも、

  1. 腸内細菌の代謝物が血管を伝って腸から脳へ達する方法

があります。

今回紹介する論文の中でパスツール研究所は、具体的に何が何に作用するのかを見つけました。それが「ムロペプチド / muropeptide 」と呼ばれる物質です。腸内細菌の細胞壁の材料です。ラテン語で壁を意味する “murus” に “peptide” をくっつけた造語です。ポルトガル語やスペイン語でも壁は “muro” なので、ピンと来ました。

タンパク質はアミノ酸が数百から数千個結合してできています。ペプチドも同じですが、タンパク質ほどの数のアミノ酸ではなく、せいぜいが数個程度です。ということで小さいので、直接腸壁から体内に吸収されて、血管の中に入って全身を駆け巡ることができます。脳に異物が入って行かないように、脳血管の目は特別細かくなっています。血液脳関門といいます。しかし、ムロペプチドの分子サイズは小さいので、血液脳関門もすり抜けて、脳の中に入って行けます。

当然ながら、体の中を警備している免疫細胞が見逃すはずがありません。ムロペプチドを鍵とすると、免疫細胞はその鍵穴を持っています。こうやって、異物であるムロペプチドを捕まえるのです。

実は、同じムロペプチド用の鍵穴を脳神経細胞も持っていることが分かりました。特に鍵穴が多いのが視床下部です。視床下部は原始的な脳の一部で、呼吸、鼓動、食欲、体温調節など体の自律機能を一手に引き受けているところです。

視床下部の脳神経細胞にムロペプチドが取りつくと、神経の興奮が抑えられます。つまり、息が上がったり、鼓動が高鳴ったりしていたら、落ち着く方向になります。食欲は抑えられ、体温は下がります。試しに、視床下部の脳神経細胞にあるムロペプチド用の鍵穴がないマウスを使って実験を行ったところ、食欲は止まらなかったそうです。

腸内細菌と食べるものが、その人の性格を決める

腸内細菌と食べるものが、その人の性格を部分的に決めているということになります。今回分かったのは、視床下部に関することでした。脳の他の部位にも作用しているかについては、今後分かってくるでしょう。

どの辺まで関わってくるのかよく分かりませんが、親から受け継ぐのは、遺伝子の他に、腸内細菌もあります。特に日本人はお風呂に入ります。お風呂を通じて家族の腸内フローラが似てくるそうです。シャワーだけで済ますお国柄には見られないような、日本人の同質性はこんなところからも育まれているのかもしれません。

生活においしくグルテンフリーを取り入れる」の回でも、肥満や自閉症が腸内フローラに関係することに触れました。外見だけでなく内面にも影響する腸内フローラは、健康を考える上で一番気遣う必要があることは間違いないでしょう。腸活スペシャル4連発(「豆乳ヨーグルトの巻」、「海藻キムチ納豆の巻」、「チェダーチーズの巻」、「豆乳オートミールの巻」)も参考にして、腸への気遣いを習慣化していただければ嬉しいです。

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