脂肪と砂糖の黄金コンビにご用心

科学技術
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ヒトの脳は脂肪と砂糖がたくさん入った食べ物には目がないようです。固い意志ではどうにもならないのです。脂肪・砂糖依存症から抜け出したいなら、目に入れないことしか打ち勝つ方法はないと心得ましょう。もしかしたら、米国で逆フリン効果と騒がれている統計上のIQ低下現象と関係があるかもです。

脂肪と砂糖は黄金コンビ

これまでの研究でも脂肪と砂糖の組み合わせは脳をバグらせてしまって、ある意味中毒にさせられてしまうことが分かっています。そのことを改めて思い知らされる論文が発表されたので紹介します。

実験では、被験者に2種類のプリンを8週間毎日食べてもらいました。2種類のプリンは①高脂肪で砂糖多め、②低脂肪で微糖です。①を食べる被験者は26名、②を食べる被験者は23名でした。被験者な20代の若者で小規模な実験です。

この結果、被験者に何が起こったかというと、①の高脂肪・砂糖過多のプリンを食べ続けた被験者は、低脂肪食品への嗜好が低下したのです。砂糖の方は①のプリンでも②プリンでも関係なく、みんな大好きなことは変わりませんでした。それだけ砂糖の魔力は凄いのですが、そこに脂肪がたっぷり加わると、脂肪に対しても依存性を示すようになったわけです。これではメタボまっしぐらですね。

ちなみに実験では、体重、BMI、血糖値など健康診断でよく測定する基礎的なデータが試験中に変わらないように、プリン①と②で総カロリーが同じになるように調整されています。

さらに、①の高脂肪・砂糖過多のプリンを食べ続けた被験者は、高脂肪食品のミルクセーキを見た時の脳の反応が速くなったのです。脳神経回路が配線し直されて、報酬系=ドーパミン系の回路が強化されたことがfMRIの画像診断で明らかになりました。簡単にいうと、脳みそが肉食系に変わってしまったということです(1)。

脂肪と砂糖の黄金コンビは、ヒトの脳の構造を変えて肉食系の人格に変えてしまうほどのリーサルウェポンなわけです。ちょっと恐ろしいですね。ドーナッツ、パフェ、バタークッキーは極悪三人組ですね。私も昔は大好きでしたが、今ではまるで関心がなくなってしまいました。

もしかしたら、逆フリン効果に関係しているかも

最近発表された別の論文で、米国の成人を対象としたIQテストの統計を2006年と2018年(一部2011年と2018年比較)と比べると、成績が悪くなっているということで「逆フリン効果」と言われて少し話題になっています。

元々の「フリン効果」というのは、年代を下るにしたがってIQテストの成績がよくなっていく現象のことです。原因は不明ですが、栄養状態の改善から教育水準の向上まで諸説あります。米国だけでなく世界各国で見られる傾向です。

その根底にあるのは、脳が大きくなってきているためと見られます。マサチューセッツ州フラミンガムを舞台に行われた定点研究が明らかにしています。1930年から1970年に生まれた3,226人の被験者を対象に、1930年生まれと1970年生まれとで同年代時点のMRI画像を撮影して、脳全体の体積、記憶を司る海馬の体積、大脳皮質の表面積を比較しました。そうしたところ、脳全体の体積は6.6%、海馬の体積は5.7%、大脳皮質の表面積は14.9%大きくなっていることが分かりました(2)。物凄いことです。

しかし、ここに来てその逆でIQテストの成績が下がってきているというのです(3)。こちらも原因が不明でカロリーだけは足りている必須栄養素が不足した食事にあるだとか、ビデオゲームやスマホ脳の影響などこちらも諸説が百家争鳴状態です。

この論文のおもしろいところは、単にIQテストの成績が総じて悪くなったというわけではなく、4種類の違う角度のテストのうち、言語的推論、行列推論、文字・数列の3つは成績が下がったのですが、1つだけ上がったのです。それは三次元回転の図形問題です。

一見すると、ビデオゲームやスマホ脳の影響かとも思いますが、私は食事から摂る栄養の質に変化があったからではないかと見ています。それが高脂肪・砂糖過多なメニューの増加です。

論文が食品業界のマーケティングに活用されている可能性

最初に紹介した論文の結論は、高脂肪・砂糖過多な食事は脳をバグらせて、脂肪依存症の肉食系の脳回路に配線が変えてしまうということでした。この論文が引用する論文の論文数を年代順数え上げて並べたものが下のグラフです。

論文1の引用論文発行数推移

21世紀に入って論文発行数が右肩上がりに上がっていき、もう一つの論文でIQテストの成績が悪くなったとされる比較年の2006年と2018年との間に、垂直立ち上げ状態で急激に研究が進んでいることが見て取れます。先ほど相談したマサチューセッツ州フラミンガムの定点研究をこの頃に生まれた世代に当て嵌めたら、脳が縮んできているのかもしれません。

脂肪、砂糖、脳の報酬系の関係がこの時期に明らかになってきたわけで、この知見を食品業界が活用しようと考えてとしても不思議ではありません。

そして、肉食系の脳は茂みの中に潜む獲物を見つけたり、どの方向から近づけばあの果物を手に入れることができるか思案するという狩猟採集生活に適しています。つまり、三次元図形を頭の中で角度を変えてみることができるのです。

しかし、肉食系の脳は後先を考えずに刹那的な行動をしてしまいがちです。それがその他の3つのIQテストの数値を押し下げているのかもしれません。この傾向は、おそらく米国だけの話ではないでしょう。

[参考文献]

  1. Sharmili Edwin Thanarajah, Alexandra G. DiFeliceantonio, Kerstin Albus, Bojana Kuzmanovic, Lionel Rigoux, Sandra Iglesias, Ruth Hanßen, Marc Schlamann, Oliver A. Cornely, Jens C. Brüning, Marc Tittgemeyer, Dana M. Small. Habitual daily intake of a sweet and fatty snack modulates reward processing in humans. Cell Metabolism, 2023; DOI: 10.1016/j.cmet.2023.02.015
  2. Charles DeCarli, Pauline Maillard, Matthew P. Pase, Alexa S. Beiser, Daniel Kojis, Claudia L. Satizabal, Jayandra J. Himali, Hugo J. Aparicio, Evan Fletcher, Sudha Seshadri. Trends in Intracranial and Cerebral Volumes of Framingham Heart Study Participants Born 1930 to 1970. JAMA Neurology, 2024; DOI: 10.1001/jamaneurol.2024.0469
  3. Elizabeth M. Dworak, William Revelle, David M. Condon. Looking for Flynn effects in a recent online U.S. adult sample: Examining shifts within the SAPA Project. Intelligence, 2023; 98: 101734 DOI: 10.1016/j.intell.2023.101734

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