英語と中国語は語尾変化なしで名詞を動詞にできます。それもそのはず、基本的に動詞独特の語尾がないからです。スペイン語、ポルトガル語、それに日本語は語尾変化が必要なためできません。そのため、前者では文に主語があるのが普通ですが、後者では主語なし文もありです。
Prime Minister egged by protester
以前、当時のオーストラリア首相 Scott Morrison 氏が 20 代の女性に後ろから頭に卵をぶつけられました。その見出しが “Prime Minister Scott Morrison egged by protester” です。あまり品のいい抗議行動ではありません。卵を投げつけることを “egg” と言います。英国の国営メディア BBC も “Australia PM Scott Morrison egged on campaign trail” という見出しを打っています。
特にオーストラリアの方言でも、英国を旧宗主国とするコモンウェルスの国々に共通の用法でもなく、かつて英国と独立戦争で喧嘩別れした米国でも使われます。私が語学のお供に使っている Duolingo podcast でも出てきます。家庭環境に不満を持った主人公が腹いせに自宅に卵を投げつけました:
I egged my own house.
Duolingo podcast Episódio 23: Family Changes (Mudanças na família)
次の例は米国特有というかニューヨークだけに通じる方言として、同じく Duolingo podcast で以下の文が出てきます:
After I tried four or five times to stoop something, I finally did it!
Episódio 21: Secondhand Treasures (Tesouros de segunda mão)
“stoop” というのは本来の意味は、道路からアパートなどの建物の入口通じる階段を指します。ニューヨーク市内では、”Take me home” などと貼り紙をして要らなくなった家具をここに置いておく行為を “to stoop” と呼ぶのだそうです。よそ者が上の文を見ると、ぱっと見では動詞と思わず頭に「?」が湧いてくるわけです。
日本語で「ググる」と言いますが、英語圏の人も “to Google” は普通に使います。これも Duolingo podcast の例文を引用しましょう:
I wanted to have a big goal, so I Googled world records for traveling.
Duolingo podcast Episódio 5: Road Trips (Viagens de carro)
中国語の場合は動詞から名詞の場合も
中国語でも名詞の動詞化は普通です。”内卷 (nèi juǎn)“ は「過当競争」を意味する流行語です。これが動詞としても使われて、中国のテック系情報サイト 36Kr の記事見出しに “AI也内卷?新ChatGPT登场 ” (AIも過当競争か?新ChatGPT登場) とあります。
“内卷“ と真逆の意味で “躺平 (tǎng píng)” という言葉もあります。こちらは「過当競争から降りる」という意味です。こちらはそもそも “躺” が動詞なので、元から動詞です。 “躺平” を名詞化して使うことも多く、“躺平族” というと、古くて恐縮ですが、植木等の『ドント節』の主人公のことを指すというと言い過ぎでしょうか。高度成長期真っ只中の在りし日の日本と重なる状況であることが流行語にも滲み出ています。
“躺平” と同じように、中国語の場合は動詞から名詞へ転じるのは普通です。英語で言う動名詞や不定詞的な用法です。例えば、“淘宝” は本来は “去古玩市场淘宝” という使い方で、骨董市に行って「掘り出し物を見つける」という動詞の意味ですが、今ではすっかり専ら “淘宝网” のことを指す名詞使い方ばかりです。
英語では曲がりなりにも、三単現の ‘s’ 、規則動詞としての過去形、動名詞の “-ing”、不定詞の “to” などの語尾変化等がなくはありません。一方、中国語では上記の例のように全く語尾変化がありません。ですので、構文の中で置かれた位置で名詞なのか動詞なのかを判断するしか術はありません。
スペイン語、ポルトガル語、日本語は動詞独特の語尾を持つ
スペイン語、ポルトガル語、日本語は動詞であることを示す語尾を持ちます。したがって、見聞きするだけでたちどころに動詞であることが分かる仕組みになっています。
特に日本語は助詞を駆使して、語順を融通無碍に変えることができます。そういうこともあり、「する」、「打つ」、「踏む」などのように、基本形を五十音表のう行で終わらせて、語尾を規則的に活用させることで動詞であることを示す必要があるのです。
スペイン語とポルトガル語も少し事情が似ています。基本形は必ず “r” で終わり、不規則活用もありますが、規則的な活用を基本として動詞であることを示します。
つまり、スペイン語、ポルトガル語、日本語の場合は、名詞を動詞化する場合には、必ず最後に動詞であることを示す語尾を付け加えます。先ほど英語の説明のところ持ち出した「ググる」が典型的な例でしょう。
残念ながら、スペイン語やポルトガル語では “googlar” などとは言わないようです。
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