睡眠中に脳波を同調させると、記憶力がよくなる

横向き寝 科学技術
Image by Samson Jay from Pixabay

UCLAの研究結果で、ヒトの脳に電極を埋め込んで、睡眠中に脳波を積極的に同調させると、記憶が正確になることが分かりました。これまでは、脳波の同調が乱れると、記憶力が低下することは知られていました。その逆も然りというわけです。

予想通りの結果

UCLAの研究グループが、18名のてんかん患者から合意を取って、脳に電極を埋め込んで、睡眠中に電気刺激を与えることで記憶の定着がよくなるか実験しました。この電極は電気刺激を与えるだけでなく、脳波計にもなるものです。ですので、フィードバック制御ができるのです。

良質の睡眠について説明した回で紹介したように、ノンレム睡眠と呼ばれる熟睡状態の時に、大脳新皮質が発振源の徐波と視床が発振源の紡錘波とが同調できないと、物覚えが悪くなるのでした。大脳新皮質はヒトを「考える葦」たらしめる部位で、大脳の一番外側を包んでいるところです。視床はというと、考える脳=大脳と知覚とを橋渡しする役割の部位に当たります。

徐波と紡錘波が同調できないと、物覚えが悪くなるというなら、物覚えを良くするには、徐波と紡錘波を同調させればいいだろうと当然考えます。しかし、マウスならさておき、ヒトに対して実験するのは倫理的に難しいところがあります。今回治療中のてんかん患者さんたちに協力を得て初めて実現したということになります。

寝る直前に覚えたことを起床後にテストしたところ、紡錘波が発生するに合わせフィードバック制御して、徐波に相当する電気刺激を大脳新皮質に与えると、果たして、正答率がアップしたのです(1)。

覚えたことが海馬から大脳新皮質へ

どうやら海馬が日中に貯め込んだ短期記憶を大脳新皮質に長期記憶として刻み込む過程は以下のようなもののようです:

  1. 視床が紡錘波を発する
  2. 海馬が自身の脳波で変調して日中に覚えたことを発する
  3. 大脳新皮質が徐波を発して受信する

視床と海馬はご近所さんで昔からオーケストラを組んで活動しているので、同調しているのですが、大脳新皮質は新参者のジャズバンドで所帯もひと際大きいので、同調しにくいのでしょう。これを外から「まぁ、まぁ、お互いコラボすれば Win-Win になりますよ」とばかりに同調させてあげると、素晴らしいフュージョン曲を奏でる=記憶力がアップするというわけです。

波を同調させると凄いことが起こる

周期的な波が同調すると凄いことが起こります。脳の記憶の仕組みはホログラフィックメモリかもしれないという仮説を紹介しました。ホログラフィ技術を使うと、三次元画像を宙に浮ばせて再生させることができます。

これは詰まるところ、時間を逆回転させていることと同じなのです。プールや湯船に石を投げ込むと、波紋が広がって、その後波紋が鎮まったように見えますが、そのうち波紋が逆回転して、ちょうど石を落したところに波紋が収束するのを見たことがあるかもしれません。Time Reversal 現象と呼ばれるものです(2)。下の例では、水槽の壁にさざ波が反射して戻って来て、一旦ちょっとずれた位置(虚像)に波紋が収束しています。

しばらく待っていると、元の大きさよりかなり減衰してしまいますが、元の位置に小さな波紋が再び収束するはずです。YouTubeにプールに重しを投げ入れてさざ波を起こし、しばらくすると元の位置に再び水柱が立つ動画が上がっています。(3)。

記憶を呼び起こすというのも、実はこういうことなのではないかと思いました。

認知症治療機器になるか

パーキンソン病患者の脳にペースメーカを埋め込む治療があるのをテレビで見たことがあります。一見普通の人に見えるのですが、ペースメーカの電源を切ると、手も足もバラバラに動いて制御ができなくなってしまいます。ペースメーカの電源を入れると、元通りに普通に生活できるようになりました。YouTubeで”parkinson’s disease deep brain stimulation videos”で検索すると、いくつも動画を見つけることができます。

論文の最後に今後の可能性として触れた一節で、同じように、アルツハイマー型認知症患者の脳にペースメーカを埋め込むようなことを考えているようです。将来治療手段としてありえそうです。

とは言え、一生ペースメーカのお世話になるのも何ですので、今のうちから規則正しい生活習慣を身に付けて、概日リズムあるいはサーカディアンリズムと呼ばれる一日のリズムを整えるのがよいと個人的には思います。

[参考文献]

  1. Maya Geva-Sagiv, Emily A. Mankin, Dawn Eliashiv, Shdema Epstein, Natalie Cherry, Guldamla Kalender, Natalia Tchemodanov, Yuval Nir, Itzhak Fried. Augmenting hippocampal–prefrontal neuronal synchrony during sleep enhances memory consolidation in humans. Nature Neuroscience, 2023; DOI: 10.1038/s41593-023-01324-5
  2. K.J.Ray Liu and Beibei Wang, Wireless AI WIRELESS SENSING, POSITIONING, IoT, AND COMMUNICATIONS, pp.1-15, Cambridge, Cambridge University Press, 2019
  3. Pedro Cardoso de Mello, Time reversal of water waves in TPN – USP wave tank, YouTube, https://youtu.be/XDbLi2YGQn8

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