煮干しに含まれるセリンでボケ防止

煮干し 科学技術

脳の視床下部にあるニューロンが持つメニン (menin) というタンパク質が D-セリンというアミノ酸を作るのに深く関わっており、それが不足すると、老化が進んだり、認知症を発症したりすることが最新の研究で分かってきました。メニンやD-セリンは食事では摂れませんが、L-セリンなら摂れます。

老化に深く関わる視床下部ニューロンのメニン

PLOS Biology に発表された論文によると、脳の部位の一つ視床下部にあるニューロンのメニンと呼ばされるタンパク質が老化に深く関わっていることが分かったそうです。視床下部はヒトを含む動物の自律機能の中枢です。その視床下部の中でも腹内側核という部分があり、そこにあるニューロンが持つメニンが今回の主人公です。

今回の論文の肝は、D-セリンと呼ばれるアミノ酸を生成するのに、このメニンがなくてはならないものだということを示した点です。腹内側核ニューロンでメニンができなくなるように遺伝子操作したノックアウト・マウスでは、D-セリンが減ってしまい、若くして老化し、認知症の症状も現れたのです(参考文献1)。

先ず、脳内の炎症レベルが上がり、皮膚が薄くなり、尻尾も筋が弱くなり、骨量も落ちました。まさに老化の典型的な現象です。さらに、物覚えが悪くなって、迷路を通り抜けるのに時間がかかるようになったのです。こちらも典型的な認知症の症状です。

逆にメニンやD-セリンを視床下部に直接注入すると、老化、認知症の症状がともに抑えられたのです。

メニンもD-セリンも食べ物からは摂れない

メニンはタンパク質なので、食べ物から摂取するとどうかと考えてしまいます。しかしいろいろ調べましたが、メニンを含む食べ物というものは今のところ見つかっていません。第一、タンパク質なので食べたところで、消化吸収する時にアミノ酸に分解されてしまいますので、元も子もありません。

メニンは年を取ると段々減っていくので、そこを何とかしたいですが、今のところその方法は見つかっていません。Lifespan のデビッド・A・シンクレア教授が上手く喩えています。遺伝子をCDに見立てて、CDを長年使っていると、読み取り面に傷がついて光学ピックアップが読み取れなくなるように、遺伝子に余分なゴミが段々くっつき、上手く読み取れなくなって、必要なタンパク質を合成しにくくなるのだと(参考文献2)。メニンについても、おそらく似たようなことが起きているのでしょう。

一方のD-セリンも自然界ではほとんど存在しません。アミノ酸は光学異性体というものがあります。構成する元素は全く同じなのですが、分子の立体構造が異なるL型とD型の2種類の異性体です。ちょうど鏡で照らし合わせたような鏡面対称になっているので、「光学」異性体と呼びます。なぜそんなに偏りが生じてしまうのか不思議でなりませんが、自然界にはほぼL型しか存在しません。

しかし安心してください。ヒトの脳内にはL-セリンをD-セリンに変換するラセミ化酵素があり、必要なD-セリンを生合成できます。

目下のところは煮干しでL-セリンを摂るべし

以上から、メニンもD-セリンも直接どうこうできないわけなので、目下のところはL-セリンに頼るしかありません。L-セリンはタンパク質豊富な食材なら何にでも含まれます。

しかし、同じく老化や認知症防止に効果的な16時間断食と合わせてやる場合は、摂取に効率が悪いと不都合です。そこで、乾燥あるいは水分が少なくてタンパク質が豊富な食材がお勧めになります。

植物性タンパク質を多く含む食品では、大豆製品であれば、高野豆腐やきな粉はいかがでしょうか。可食部分に含まれる量としては多い部類です。他に海苔にも多く含まれます。動物性タンパク質ならば、鰹節か煮干しといった乾燥魚が最適です。

もう一つ大切なのが、体内に取り込んだL-セリンをラセミ化してD-セリンに生合成するときには、別のアミノ酸が必要になります。それがグリシンとトレオニンです。こちらも動物性タンパク質に多く含まれます。

ということで、セリン、グリシン、トレオニンの全てを豊富に含み、スナックとして手軽に口にできる食べる煮干しが一番補助食としてはよいのではないかというのが私の結論です。ですので、昼食の10分前に補助食として6~7匹毎日頬張っています。参考に、文部科学省の食品成分データベースを基にして、煮干し、きな粉、海苔それぞれの可食部分100gに含まれるセリン、グリシン、トレオニンの量をグラフにしたものを以下に示します。煮干しにはさらにマグネシウムも豊富に含まれています。マグネシウムも認知症予防に効果的のようです。

煮干し、きな粉、海苔それぞれの可食部分100gに含まれるセリン、グリシン、トレオニンの量

昼食の10分前というのは、糖質を食べる10分前にタンパク質を食べておくと、先にインスリンの血中濃度を上げておいてくれるので、いざ糖質を食べた時に血糖値スパイクを起こさずに済むからです。ご自分でもこの食べ方を試してみるとよいでしょう。

[参考文献]

  1. Lige Leng, Ziqi Yuan, Xiao Su, Zhenlei Chen, Shangchen Yang, Meiqin Chen, Kai Zhuang, Hui Lin, Hao Sun, Huifang Li, Maoqiang Xue, Jun Xu, Jingqi Yan, Zhenyi Chen, Tifei Yuan, Jie Zhang. Hypothalamic Menin regulates systemic aging and cognitive decline. PLOS Biology, 2023; 21 (3): e3002033 DOI: 10.1371/journal.pbio.3002033
  2. David A. Sinclair, Lifespan (Simon & Schuster, Inc., 2019)
  3. 文部科学省, 食品成分データベース

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