李永乐老师の動画講義は中身が濃いです。数学、物理だけでなく経済ネタ、はたまは数理系だけでなく生物系も含めた最新テクノロジーの話まで板書書きで計算・図解しながらていねいに説明してくれます。口癖で「对不对?/いいですか?」と言います。金八先生を彷彿とさせます。
李永乐老师とはそもそも何者?
李永乐老师の中国語ネイティブ・スピードのしゃべりにまだ付いていけていませんが、字幕を見ながらでも結構楽しめます。彼が視聴者に問いかけるようによく口癖で「 … 、对不对?/いいですか?」と言います。金八先生を彷彿とさせます。金八先生より圧倒的に早口ですが…
そもそも何者かというと、 李永乐老师というのはハンドルネームでも何でもなく、実際に人民大学付属中学・高校の数学と物理の先生です。日本でいうと筑駒の先生に当たるでしょうか。その傍ら Tick Tock の親会社、字节跳动 / ByteDance 傘下で、Youtubeのような比較的長い動画を扱っている「西瓜视频」に数学、物理だけでなく経済ネタや最新テクノロジーの話まで黒板で板書書きしながら分かりやすく授業する動画を流しています。そして同じコンテンツをYoutubeにも流しています。
れっきとした中国の公務員のはずですが、フリーコンテンツ以外に会員制コンテンツも流していて兼業しています。でもお上からお叱りではなく、農村部の教育に貢献しているとお褒めに与っています。日本の国家公務員法の感覚でいると、この辺どうなっているのか不思議です。意外と副業収入に大らかなのでしょうか。
中国の全国物理オリンピックで優勝した縁で北京大学に進んで物理学の学士を取った後、精華大学で経済学の学位を取っています。絵に描いたようなエリートですが、国立中高一貫校の一教師です。詳しい経歴は百度百科やWikipedia中国語版サイト维基百科をご覧ください。中国では結構な有名人です。
数学は実数からブロックチェーンまで
数学は実数の有名な問題「0.999… = 1」の証明をする動画があります。x < 0.999…(9が無限に続く無理数)の集合とx < 1の集合に属する任意の数は、結局どちらの集合にも属するということを中学生レベルの簡単な数式で証明しています。動画の終盤に畳みかけるように証明し終わって、最後にチョークを教壇の机の上に置くのが彼のスタイルです。毎回見ていて痛快です。
そうかと思うと、ブロックチェーンを解説して、ビットコインとはどういうものか説明している動画もあります。ブロックチェーンはサトシ・ナカモトという何者か未だに不明な人が提唱した暗号技術というか、信用を生み出す仕組みです。誰か完全無欠の神のような絶対者(貨幣でいうと中央銀行)が信用を生み出すようなことに期待せずに、参加者みんなで暗号技術で作った証明書が正しいかどうか監視することで信用を生み出す仕組みです。
そう聞くと、リバタリアン(自由至上主義者)が飛びつきそうですが、中国がブロックチェーンを使って貨幣をなくしていくような動きを始めたことから、各国の中央銀行も先を越されないように導入検討を始めたり、今後社会全体に大きな影響を与える可能性があるので、この動画を見て勉強しておくと、暗号技術も分かってためになると思います。
物理は光が持つ波と粒子の性質から核融合発電まで
光が波の性質と粒子の性質の両方を持つことは物理の教科書に書いてありますが、歴史を交えて説明しています。プリズムを通すと光が7色に分かれる分光や反射・屈折・干渉という波の性質の持つ話から始まります。そして、干渉によって同じ波長の光が波が揃って強め合う位相と波が打ち消し合う位相があって、強め合う位相しかポツポツと離散的に生き残る性格から粒子の性質も持つという話につなげていきます。これはよくある説明ですが、分かりやすく説明しているなーという感じです。
核融合発電は中国が力を入れていて、世界各国と協力して ITER という実験炉プロジェクトを推進しているのとは別に、自国でも「EAST」という名前の実験炉を作って実用化にまい進しています。ITER もそうですが 、EAST もトカマク型と呼ばれるドーナッツのような形をした超電導コイルを使って、2021年の段階で1億2000万℃のプラズマ温度を101秒間持続し、2021年時点の世界新記録です。もしかしたら、世界で一番乗りで核融合発電をし始めるかもしれません。この「EAST」がどういう動作原理で動いているなのか説明しています。
経済はバブル経済崩壊を解説
4部構成の動画になっています。どの動画も Youtube で100万回以上の再生回数を記録するヒット動画です。見ごたえ抜群です。
1話目がオランダで起こったチューリップの球根取引が歴史上最初に起きたバブルとその崩壊の話です。今では信じられないことですが、バブルが弾けた時にチューリップの球根1個で全財産を失うようなことが起きました。正気に戻って振り返ると「なんでこんなものに大枚払ったのか…」となるわけですが、バブルの最中には明日もまた上がると思って、今のうちに買っておこうとみんなが考えてしまうのでしょうね。
2話目が株式会社の誕生の話です。世界史の教科書に載っている東インド会社が最初の株式会社です。所有権を分割して複数の権利者が所有するという株式会社誕生の物語です。株式会社の誕生によって、みんなが払える程度出資をかき集めて塵も積もれば山となるよろしく大事業ができる仕組みができました。株式会社と似たような時期に起きた産業革命とが上手く歯車がかみ合った結果、人類は今の繁栄を築けたです。
チューリップの球根バブルと東インド会社の話は “A Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing” も詳しいです。モダンポートフォリオ理論を勉強して正しくリスクを取ってゆっくり豊かになる知識を得たい人は参考にしてください。画像リンクをつけておきます。
3話目はネズミ講とマルチ商法の話です。チャールズ・ポンジーという詐欺師が、どのようにして最初にネズミ講の仕組みを生み出したか説明しています。「国际回信邮票券/国際返信切手券」という小切手というか手形というかを使って、為替差益で高利回りにできるという触れ込みで人から投資を募り、最初の出資者に後からの出資者の金を利子として支払って一時的に運用利回りが本物と思わせてさらに出資者を募って、自電車操業になった時点でドロンするという手口です。最後は2011年に多くの被害者を出したMMMピラミッドという仮想通貨取引という皮を被った詐欺の話で終わります。最初のポンジーはあくまで自分だけが詐欺行為を行っています。一方、MMMピラミッドは名前が示す通り、被害者であるはずの出資者も運用利回りが本物かどうかより、ピラミッドの頂点に近いほど儲けが大きいことを知っていて他の出資者を勧誘することで、ピラミッドの下層に向かってミイラ取りがミイラになってドンドン金を巻き上げる仕組み=ピラミッド・スキームになる話です。
最後の4話目は日本の不動産取引に始まった1980年代のバブル経済とその崩壊を説明しています。土地神話という言葉は当時飛び交っていました。日本経済に与えた後遺症は深く、癒しがたい感じで今も続いています。再生回数が抜きん出て多く、中国の皆さんが多分同じことを起こさないように他山の石とするつもりで見ているのでしょう。しかし、恒大集团の報道を見ると、中国の不動産取引もちょっと雲行き怪しくなってきています。
話題が多岐にわたり、中身が濃い
専門分野の数学・物理・経済だけでなく、生物の話もあります。例えば、CRISPR/cas9がどういう仕組みで遺伝子組み換えを実現するのかを非常に詳しく説明しています。話が長くなってしまったので、今回はここまでにしておきますが、これまで説明してきたように、話題が多岐にわたり、しかもそれなりに歴史を遡ってどのように展開してきたか分かる構成になっています。
しかもその上、数式をバンバン使い、黒板に手書きの絵を描いて詳しく説明するので、かなり勉強になります。中国ではこのように教養系動画コンテンツが非常に充実していて、他にも樊登、罗振宇、吴晓波、李善友という四天王と呼ばれる人たちが歴史やビジネススキルに関する教育コンテンツを会員制で提供して活躍しています。ギリシャ・ヨーグルト並みに中身が濃いです。知識のプロテインをたくさん摂取して、「Cognitive reserve/認知予備力」を高めてボケ防止に努めましょう。日本の教養系Youtuber のコンテンツも大変優れていると思います。同じような話題を取り上げた動画と見比べるのもおもしろいです。
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