日本では認知症は減り、フレイルは増えるそうです

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東大が中心になったグループの未来シミュレーションでは、日本では2043年まで認知症は減っていき、逆にフレイル(歳で体が弱ること)は増えていくそうです。そして、日本でも高等教育を受けたか受けていないかで、認知症発症になるリスク度合いが大きく違うことが分かりました。

日本では高学歴化で認知症発症率が減少していく

今回紹介する論文は日本の東大を中心とするグループのものです。高齢化する日本を未来予測するためにシミュレーションを行いました。シミュレーション結果によると、日本では2043年まで認知症は減っていきます。この結果はよいことです。反対に悪い結果も出ました。歳を重ねることで身体機能が衰える現象は増えていくそうです。最近、フレイルと呼ばれるようになったものです。

これまでにも同様のシミュレーション事例がありましたが、認知症が増えるという結果でした。では、今回のシミュレーションが以前のものと違う結果になったのでしょうか。それは、高学歴化と心血管系疾患の減少という現代日本のトレンドを取り込んだことです。

特に注目は高学歴化の影響です。2043年時点での75歳以上の認知症発症率は推計で、大学以上の高等教育を受けた層の男性では2%程度、同じく女性で18%程度である一方、そうでない層では、男性で53%程度、女性で51%程度と高率です。

高学歴化は生活水準が向上すると、必然的に起こります。そして、「中国でも少子高齢化が深刻です」の回で説明したように、下図の理屈で国/地域、文化、宗教に拘らず、例外なく国は少子高齢化します。

生活水準が向上すると、少子高齢化する

ですので、高学歴化する前の世代が老齢期にある現在は認知症発症率が高いが、高学歴化した後の世代に置き換わっていくと、認知症発症率が下がっていくと読むことができるでしょう。

またしても「Cognitive reserve」仮説を支持する結果

論文著者は触れていませんが、またしても「ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止あれこれ(その2)」の回で紹介した「Cognitive reserve hypothesis; 認知予備力仮説」を支持する結果です。この結果に対して、個人的には大学以降で、①英語以外に第2外国語を学ぶ、②外国語(主に英語)で発信する機会が増える、という2つが原因している可能性があると考えています。

マルチリンガル化の効果です。この辺については、「4つ以上の言語を話す修道女の6%しか認知症を発症しなかった」の回、「マルチリンガルが新しい言語を学ぶ時、脳の視覚野も使う!?」の回や「作文力があると、認知機能が衰えても戻って来られる」で詳しく説明していますので、どうぞご覧ください。

ただし、男性よりも女性の方が高学歴化の恩恵を受けにくいように見えるのはなぜでしょう。この現象について、論文著者は日本特有の現象とみているようです。男性よりも強いストレスに晒されて、健康も害しているからではないかとコメントしています。この性差を解消するために社会参加を後押しする政策的なてこ入れが必要と述べています。

しかし、フレイルは増えていく

一方、フレイルは増えていきます。論文では触れていませんが、おそらく、現代社会の生活の中では身体的ストレスが減少傾向だからなのだと思います。デスクワークが増えて、座っている時間が長くなったのがその原因でしょう。特に日本人は世界で一番座っている時間が長いそうです。

足腰の筋肉は体の中で最も大きな筋肉ですので、使わなくなるとどうなるでしょうか。当然、足腰が衰えて、平らなところを歩いても足をつまづいて転ぶなどということも起こりかねないですよね。まさにフレイルです。

フレイルについても、同じく男性優位の傾向がシミュレーション結果では現れています。女性の方が骨粗鬆症になりやすいですが、閉経後の女性ホルモンの減少によるもの、というのが一般的な説明です。フレイルの方は、学歴よりも根底にある要因として、ホルモンバランスが関係しているのかもしれません。

認知症にもフレイルにも立って歩くのがよい

認知症とフレイルのどちらにも効果的なのが運動です。「ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止あれこれ(その2)」の回で紹介した論文でも、運動習慣が身についている人ほど認知症を発症しにくいという結果でした。特に効果的なのが有酸素運動という話でした。ですので、息が少し荒くなる程度に毎日せかせかと速足で歩くように心がけるのはよいことでしょう。

私も大体一日1万歩程度歩いています。スマホを万歩計代わりにして毎日その日何歩歩いたか確認してから寝ています。最近は1万歩は脚を酷使しすぎで、7,000歩程度がちょうどよいという論文がありますので、必ずしも歩けば歩くほどよいわけではないことは確かでしょう。こちらの論文は心血管系の病気になるリスクを下げることができるという述べています。血行がよくなれば、文字通り頭の血の巡りにもよさそうです。

私は他にも何をするにもできるだけ立ってやるようにしています。ヒトが二本の脚で立って歩くようになってから、相当な年月同じような狩猟採集生活をしてきたわけです。ですから、立つ・歩くというのがヒトのデフォルト設定なのだと思います。「確かにそうかもね」と思った方は、「立って仕事をし始めました」の回にも是非お立ち寄りください。

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