日中で同義だが表記が微妙に違う四字熟語

YinYang 語学

日本語と中国語で意味はほぼ同じですが、表記が微妙に異なる四字熟語(四字成語)を集めてみました。歴史を紐解くと、中国と日本で相互に外来語として取り込まれ、その土地柄に合わせてアレンジが加えられた結果、表記が変わっていった様子が分かります。

古代

  • 日新月异(rìxīnyuèyì):日進月歩と意味合いが重なります。前漢時代の『礼記・大学』で最初にお目見えしました。日本語では、言葉として日新月異もありますが、圧倒的に日進月歩の方を使うでしょう。中国語では “日进月步” とは言いません。
  • 津津有味(jīnjīnyǒuwèi):興味津々の意味です。”有味” は由緒があり、前漢時代の《洞箫赋》が出典です。”津津” の方も古く、荘子に出てきて現在とほぼ意味で使われていました。
  • 流言蜚语(liú yán fēi yǔ):日本語では流言飛語です。”流言” は前漢時代の『礼記・儒行』に登場します。”蜚语” の方は『史記』に出てきます。日本語では “蜚语” ではなく、「飛語」ですが、中国語でも音も意味も同じなので、 “飞语” と表記する場合もあるようです。

中世

  • 安身立命(ānshēn-lìmìng):安心立命と同義です。かたや身体、かたや心が安らぐと違いはありますが、言いたいことは同じです。中国語の方は、使われ始めたのは宋朝時代まで遡ります。これが日本に伝わって来て、心身一如とばかりに「心」に文字を入れ替えられたのではないでしょうか。
  • 光明正大(guāngmíng zhèngdà):公明正大と同義です。宋朝時代の朱子と弟子の語録集の中で初めて出てきます(文献1)。日本に伝わってきて、公明に変えた方がしっくりくるということになったのではないかと想像します。
  • 一目了然(yīmùliǎorán):まさに「一目瞭然」です。何を隠そう “了” は “瞭” の簡体字なので、実は意味も表記も全く同じです。日本語の「了解」も 中国語の “了解(liǎojiě)” も本を正せば “瞭解” なのです。何のことはありませんでした。

近代

  • 异想天开(yìxiǎngtiānkāi)奇想天外と意味だけでなく、音もよく似ています。清時代に書かれた小説《镜花缘》で初めて使われました。奇想天外の方も似たような時期に、『兎糞録』に初めて使われています(文献2)。どちらかがどちらかを見つけて、少し変えたのかもしれません。
  • 优胜劣汰(yōushèngliètài)優勝劣敗と意味は同じです。出典は不明ですが、「適者生存」や「弱肉強食」と同じくダーウィンの進化論から来ていると思われます。中国語の方も同じと思われます。中国語でも「適者生存」は “适者生存” で、「弱肉強食」は “弱肉强食” なのですが、どういうわけか “优胜劣汰” だけは最後の文字が異なります。
  • 欣喜若狂(xīn xǐ ruò kuáng):欣喜雀躍と意味は同じです。清時代から使われ出しました。欣喜を強調するために、他に何を持ち出すかの違いです。中国語の方は狂おしいばかりという様で表現し、日本語の方はスズメが飛び跳ねる様で表したわけです。

現代

  • 多姿多彩(duōzī duōcǎi):多種多彩とほぼ同じ意味です。中国の7年生が使う国語教科書に載っている《第一次真好》に初めて使われたそうです。姿かたちも彩りも様々という意味合いが出ていて、中国語の方が味があります。
  • 全心全意(quánxīnquányì):全身全霊と言いたい意味合いは同じです。中国語の方は、日中で表記も意味も同じ「誠心誠意 / 诚心诚意」をもじったのだと思います。《鼓吹集》(1959年) で初お目見えします。

日中で同型同義の四字熟語も多い

日本語と中国語で同型同義の四字熟語も多いです。東奔西走 / 东奔西走(dōng bēn xī zǒu)などは、その典型的な例です。日本語の四字熟語をたくさん知っていると、中国語の勉強もそれだけ有利だと思います。

今回紹介した四字成語たちは、微妙に違うので、少し戸惑ってしまうところがありますが、こうやって見ていくと、自分でも覚えやすいかと思い、まとめてみました。

[参考文献]

  1. 陳澧 編『朱子語類日鈔』,文求堂,昭和16. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1034070/1/4
  2. 和田垣謙三 著『兎糞録』,至誠堂書店,大正2. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/947480/1/121

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