摂れる、作れる若返り万能薬のタウリン

Headbanging rats 科学技術

コロンビア大学が行った動物実験でタウリンがどうやら生活習慣病などの老化現象の全てに関係していることが分かりました。栄養ドリンクに入っているあのタウリンです。口から摂ってよし、運動して自分で作ってもよしです。

タウリンとは

どこかで名前は聞いたことがあるタウリン。そうです、栄養ドリンクに入っています。栄養ドリンクに入っているぐらいですので、疲労回復効果があったり、お酒を嗜む方向けには肝臓を労わるものというイメージです。

しかし、それほど特別のものではありません。アミノ酸の一種です。必須アミノ酸はイソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジンの9種類です。ということは、タウリンは必須アミノ酸ではないことが分かります。体内で作ることができる種類のアミノ酸ということが分かります。

ネコ科の動物以外は、動物なら自分で作れることもあり、食品から摂る場合も比較的簡単かつ安価に手に入ります。シーフードミックスに入っているようなタコ、イカ、貝類に多く含まれています。他には動物の内臓にも多く含まれます。効率よく他の栄養も摂れるので、レバーが費用対効果絶大です。

ところが、疲れた時や二日酔いの時に効くだけでなく、どうやら、現在知られている老化現象の全てを遅らせることができるほどの物凄いパワーを持っていることが分かりました。万能薬といっても過言ではないでしょう。

脳機能、骨粗しょう症、肥満、三高、抜け毛…何でも効く

コロンビア大学の研究グループが行ったマウスの動物実験によると、生後14か月(ヒトの45歳相当)のマウス 250匹を2つのグループに分けて、1つのグループには毎日タウリンを含む「栄養ドリンク」を与え、もう1つのグループにはタウリンを含まない「栄養ドリンク」を与えました。その結果、タウリン入り栄養ドリンクのグループは、雌の場合は平均して 12 %、雄の場合でも 10 % も寿命を延ばしたのです。実月齢では 3 〜 4 か月です。ヒトの 7 〜 8年に相当します(文献1)。

ヒトと近縁のアカゲザルの実験でも、体重が減り、血液検査で血糖値と炎症レベルが下がり、肝機能に関係する数値が下がりました。骨密度測定では骨密度が上がる効果が確かめられました。

しかも細かく見ていくと、脳機能、骨粗しょう症、肥満、高血圧、高血糖、高脂血、抜け毛…と数えればきりがないほどの老化に関わる現象の全てを抑制する効果があることが分かりました。個人的に面白いと思ったのが、マウスの握力が高まった点です。最近、握力の低下は認知症の初期症状を判断する材料として注目されています。

細胞レベルでは、腸と毛根の幹細胞の染色体が持つテロメアが伸びて若返りました。テロメアとは、靴紐の先についているブラスチックの部品のようなもので、染色体を束ねています。それが擦り減ってなくなってしまうと、染色体がバラバラにほどけて細胞死に至るのです。細胞が分裂する度に擦り減っていくので、細胞の寿命を決める細胞分裂回数券と呼ばれることもあります。しかし、単に擦り減ってばかりいるわけでなく、テロメラーゼという酵素はテロメアを伸ばすことができます。タウリンはこのテロメラーゼの働きを助けているようです。

細胞器官レベルでも、ミトコンドリアの働きが活発になることが確認できました。ミトコンドリアの働きがよくなると、エネルギーを作り出す過程で酸素も必要になり、副産物として活性酸素が発生してしまうのですが、タウリンには活性酸素を抑制する効果もあるようです。

遺伝子レベルでも、DNA にメチル基が結合してしまうメチル化が進むと、遺伝子の読み取りエラーが生じて、正しくRNAが遺伝子を読み取れずに、必要なタンパク質を作れなくなってしまうのですが、そのメチル化も抑制します。

オートファジーと呼ばれる、生物が持つ細胞の部品リサイクル機能を活性化するということも示されました。老化が進むと、本来なら自然死を迎えるべき細胞がゾンビのように生き長らえてしまい、体にとって悪さをする場合があります。がん細胞が最たるものです。我田引水で自分が都合がいいように血管を引っ張ってきて増殖します。そのようなゾンビ細胞に死亡宣告をする機能がオートファジーです。

単に寿命を延ばすだけでなく、健康寿命を延ばすのです。まさに、タウリンを万能薬と言わずして、何を万能薬と呼べばいいのかというほどです。

運動によって自分で作れる

ビタミンDは食べ物からも摂れますが、日光浴でも体が自分で作ることができます。同じように、タウリンも生合成できます。ただし、メカニズムはまだ分かっていませんが、年を取るにつれその生成能力が衰えていきます。

ヒトの場合も、上で挙げた老化現象と体内のタウリンの減少に相関があることが示されています。因果関係の証明はこれからのようですが、上記の動物実験や肝機能向上効果など既に分かっていることから察するに、ヒトでもタウリンの量を増やせば、老化を遅らせることができることが期待できます。

ではどうすればよいでしょうか。1つには魚介類や牛・豚・鶏のレバーを食べることです。もう1つが運動なのです。アスリートと日頃座って過ごしている人とでは効果が異なりますが、特に短距離走のアスリートで効果が顕著で、バイク漕ぎ運動をすると、血中のタウリンに関係する代謝物が 1.28 倍も増えました。

まとめ

  • ヒトでの因果関係の証明はこれからだが、動物実験ではタウリンに老化を遅らせる効果が認められた
  • タウリンは食物で摂るなら、魚介類もしくは肉のレバーがよい
  • 運動をすることで、自分で生合成することもできる

もう自転車に乗りまくるしかないでしょう。

[参考文献]

  1. Parminder Singh, Kishore Gollapalli, Stefano Mangiola, Daniela Schranner, Mohd Aslam Yusuf, Manish Chamoli, Sting L. Shi, Bruno Lopes Bastos, Tripti Nair, Annett Riermeier, Elena M. Vayndorf, Judy Z. Wu, Aishwarya Nilakhe, Christina Q. Nguyen, Michael Muir, Michael G. Kiflezghi, Anna Foulger, Alex Junker, Jack Devine, Kunal Sharan, Shankar J. Chinta, Swati Rajput, Anand Rane, Philipp Baumert, Martin Schönfelder, Francescopaolo Iavarone, Giorgia di Lorenzo, Swati Kumari, Alka Gupta, Rajesh Sarkar, Costerwell Khyriem, Amanpreet S. Chawla, Ankur Sharma, Nazan Sarper, Naibedya Chattopadhyay, Bichitra K. Biswal, Carmine Settembre, Perumal Nagarajan, Kimara L. Targoff, Martin Picard, Sarika Gupta, Vidya Velagapudi, Anthony T. Papenfuss, Alaattin Kaya, Miguel Godinho Ferreira, Brian K. Kennedy, Julie K. Andersen, Gordon J. Lithgow, Abdullah Mahmood Ali, Arnab Mukhopadhyay, Aarno Palotie, Gabi Kastenmüller, Matt Kaeberlein, Henning Wackerhage, Bhupinder Pal, Vijay K. Yadav. Taurine deficiency as a driver of aging. Science, 2023; 380 (6649) DOI: 10.1126/science.abn9257

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