授業で使うといいかもー脈拍数の揺らぎで分かる傾聴の度合

心臓 科学技術
Photo by Alexandru Acea on Unsplash

注意して見聞きしているかどうかは、観衆・聴衆の心拍数の揺らぎが似ているかどうかを調べれば分かるそうです。お互い意思疎通しなくても、たとえ場所や時間が違っても、同じ映像・音声を見聞きすると、同じ場面や言葉で同じ反応として心拍数が似た動きをするのだそうです。語学に活用できるでしょうか。

Tetsu Sunさんによるフィットネストラッカーを着けると… コミック・ストリップ

聞き上手は物覚えもよい

今回は Cell Press に掲載された興味深い論文を紹介します。簡単に言ってしまえば、聞き上手は物覚えもよいということです。

映像でも音声でも注意して見聞きしているかどうかは、観衆、聴衆の心拍数の揺らぎが似ているかどうかを調べれば分かるそうです。ヒトは似たようにできているので、会話するのではなくても、たとえ場所や時間が違っても、同じ映像・音声コンテンツを見聞きすると、同じ場面で心拍数が似たように揺らぐのだそうです。

始めに「注意して見聞きしているか」と書いた通り、上の空で見聞きしていたのでは、このような心拍数の揺らぎが同期して起こることはありません。注意して意識的に見聞きすることが必要で、語学で言うと、映像や音声コンテンツをつけ流し、聞き流ししているのでは起こらないだろうことは想像に難くありません。

そして、この映像・音声コンテンツの場面と心拍数の揺らぎの同期は、内容を覚えているかどうかとも密接に関係しているそうです。 心拍数の揺らぎが同期していた人たちは内容に対する質問の正答率が高く、一方同期していなかった人たちは正答率が低かったのです。

やはり意識した音読やシャドーイングが効果的なのです。

先生にとって朗報かはたまた悲報か

学校や研修の場に持ち込むと、生徒、受講生の理解度チェックのツールにすることができそうです。最近スマホが普及して腕時計を身につける人が少なくなってきましたが、今度は腕時計の跡地となった手首にフィットネストラッカーを巻いている人をチラホラ見かけるようになりました。

生徒さんたちにフィットネストラッカーを着けてもらって授業をすれば、先生の話をよく聞いていた生徒さんたちの集団ではフィットネストラッカーで測定した脈拍数の揺らぎ(=心拍数の揺らぎ)が同期して、そうでない生徒さんたちは同期しないのが、リアルタイムでモニタできそうです。

すると、中間・期末テストの成績もおそらくそれぞれの集団と一致してくるのではないでしょうか。

しかし、先生にとっては諸刃の剣でしょう。フィットネストラッカーで測定した脈拍数の揺らぎが同期している生徒数が多いほどよく話を聞いてもらえていることが分かりますが、「良い先生」かそうでないかの物差しにされかねないからです。

昏睡状態の患者が回復するか手軽に分かる

昏睡状態の患者が回復するかどうかは脳波計、fMRI、PETなどの大掛かりな医用画像診断装置で脳内の状態を診れば診断できます。しかし、そのような仰々しいものを使わなくても、〇△ウォッチを患者さんの手首に巻いて、ヘッドホンで音声コンテンツを聞かせたときの脈拍数の揺らぎを診ることで診断できる可能性があり、論文の著者はその方向を探っているようです。以下論文からの引用です。

These results suggest that the patients’ ISC-HR might carry prognostic information with a specific emphasis on conscious verbal processing. To test this hypothesis, we first correlated the patients’ ISC-HR to the CRS-R improvement after 6 months of the initial assessment.

Pauline Pérez, Jens Madsen, Leah Banellis, Bașak Türker, Federico Raimondo, Vincent Perlbarg, Melanie Valente, Marie-Cécile Niérat, Louis Puybasset, Lionel Naccache, Thomas Similowski, Damian Cruse, Lucas C. Parra, Jacobo D. Sitt. Conscious processing of narrative stimuli synchronizes heart rate between individualsCell Reports, 2021; 36 (11): 109692 DOI: 10.1016/j.celrep.2021.109692

興味深いのは、昏睡状態の患者さんが意識を回復したときに、言葉を話せるまで回復するかどうか脈拍数の揺らぎで分かるようです。意識が回復しても言葉を話せない患者さんの場合は、他の昏睡状態の患者さんと同じように脈拍数の揺らぎが見られないそうです。意識と言葉が使えるかは不即不離の関係にあるようです。何だか、意識はどこにあるのかというミステリーの答えに近づいていますね。

心拍数に揺らぎを与えると、物覚えがよくなるのか?

この論文が見つけたのは単に心拍数の揺らぎと見聞きしたことをよく覚えているかどうかの間に関係があるということです。まだ「風が吹けば桶屋が儲かる」という次元です。因果関係の方向までは分かっていません。人の話を意識して聞いているので、心拍数が揺らいだり、物覚えがよいのでしょうか。リズムに乗って心拍数が揺らぐので、人の話を意識して聞けて、物覚えがよいのでしょうか。その辺はまだよく分かっていないようです。

心拍は自律神経が司っています。無意識の支配下にあるわけです。なのになぜ意識と関係しているのでしょうか。無意識と意識どちらがどちらに作用しているのでしょうか。

人間の行動の多くは心拍、呼吸、歩行など無意識の行動の方が多く、しかも反応が早いことが知られています。意識は無意識がやった行動を追認しているだけか、最後の最後に無意識の行動を寸前で止めるだけの役割だと考える学者さんもいます(参考となる動画です)。それを考えると、心拍数が揺らぐので記憶できるという因果関係なのかもしれません。

本論文では、 映像や音声コンテンツを見聞きする時の呼吸数の揺らぎも実験しています。心拍は関係あるのに、何と呼吸の方は関係がないそうです。心拍数を上げる/下げるは体の各部に酸素をより多く届けられるかに関係していそうです。ですが、この実験では関係がなかったのです。謎は深まります。

もし心拍数が揺らぐと、よく記憶できるとします。ツールを使って意図的に不整脈を起こすのは体にとってよくないと思います。しかし、今勉強している外国語が苦労せずにスッと頭に入ってくるのであれば、ちょっとだけ試してみたい気もします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました