意識とはエピソード記憶の一部?

脳 科学技術
Photo by Robina Weermeijer on Unsplash

ヒトの意識とは何かについて、かなりスッキリと説明した論文を見つけましたので、紹介します。ズバリ意識とはエピソード記憶の一機能だというのです。ヒトに限らず動物は無意識に行動しますが、その時に昔の記憶を呼び出して意思決定の参考にします。それが意識というのです。

意識するまでに 0.5 秒かかる

大胆な説明に思えますが、意識とはエピソード記憶の一機能とする論文がありました(論文1)。これまで積み上げられてきた膨大な心理学実験の結果をある程度矛盾なく説明できるものです。エピソード記憶とは、「あの時、隣の家の犬に追いかけられて、必死で逃げたな」というようなストーリー仕立ての記憶のことです。

やはり歩きスマホは止めときましょう」の回で触れたように、ヒトは意識する前に、五感で得た情報をインプットにして、無意識に処理して、体を動かしています。そして、あたかも自分で決めて行動しているように思い込んでいる(錯覚している)のです。実験で実証されていて、見たり聞いたりして、意識が認識する約 0.5 秒前に事はなされているのです。

ですので、無意識に野球でバットを振ったり、楽器を奏でているのです。プロ野球の場合、ピッチャーがマウンドからボールを投げて、バッターボックスに届くまでに 0.5 秒もかかりません。したがって、どう考えても意識してボールの行方を見ながら、筋肉の動きを意識的に調整してボールを打つことなどできないのです。ミスタージャイアンツ、故長嶋茂雄が選手を「スーッと来た球をガーンと打つんだ」と言って指導したという嘘か本当か虚実不明の都市伝説が残っていますが、あながち嘘ではないでしょう。その人の脳と体に刻み込まれたものなので、どうしようもないのです。

楽器でもそうです。生前ジャズ界を牽引したピアニストに故チック・コリアがいます。彼が弾く “Spain” という曲を聴くと、よくあんなに速く指が動くものだと感心してしてしまいます。一音一音意識が介在して弾いていたら、速くても 0.5 秒ごとにしか弾けないはずです。何とも緩慢で退屈な楽曲になることでしょう。

意識は単なるフライトレコーダ?

では、意識とは何のためにあるのでしょうか?論文著者は「意識とはエピソード記憶の一機能」だと答えます。0.5 秒前に見て聞いて無意識に行動した顛末を「そうかそうか、そういう結果になったか」と、記憶に留める役割をしているのです。無意識が AI ロボットで、その結果を記録するフライトレコーダーかドライブレコーダーが意識なわけです。

しかし、単なるレコーダーであれば、無用の長物です。コンピューターの世界でも Read Only Memory (ROM) はありますが、Write Only Memory (WOM?) は存在しません。 フライトレコーダーかドライブレコーダーでさえ、事故が起きた時に何が起きたか後で事故検証するための道具だけではなく、今ではパイロットやドライバーの操縦/運転の仕方やコース取りなどを分析して、一番燃費がよい方法を指導したりするのに使われています。

エピソード記憶、つまり論文著者が述べる「意識」も、次に同じようなことが起きた時に呼び起こされて、無意識= AI ロボットが次に判断して行動する時の決定条件として参考にするのです。無意識は報酬無意識で報酬系の刺激で学習して、より性能がよくなるのですが、意識=エピソード記憶が持ち出すケーススタディーも参考にして、「あの時は失敗したが、この時は上手くいった。今はこういう状況だから、この時に似ているな、だったらこうしよう」という意思決定をするようです。

意識とは脳で行う選挙の有権者の一人にすぎない

これが意識=エピソード記憶なのではという実験があります。 被験者が Youtube 動画を視聴している間と視聴終わった後にその動画を思い起こしている間のそれぞれで脳血流の動きを fMRI で撮影しました。その結果、両者の脳血流の動きはほぼ同じだったのです。さらに、Youtube 動画を視聴している間の脳血流の動きを参考にして、動画を思い起こしている時の脳血流の動きを使って、相当粗いですが、 Youtube 動画を再構成することに成功したのです。”Human brain mapping and brain decoding.” もしくは Jack Gallant 氏の名前で検索してみてください。相当驚くと思います。

意識とは、選挙で一票を投じる有権者のような存在なのです。自分が持つ経験から意中の人に投票するけれども、他の今現在の五感からのインプットの信号処理の結果と合わせて得票率が最も高かった人が当選するのです。そして、その投票結果を記憶に留めて、次回の選挙でまた一票投じるのです。

自由意志、意思力などいう言葉がありますが、論文著者の言い方に従えば、意識は単なる一有権者程度の地位なのです。他の動物の実験では見られないような高度な意識をヒトが持っているにも関わらずです。

だから語学に音読、シャドーイングが欠かせない

だから、語学に音読、シャドーイングが欠かせないのです。有力な一票を投じるエピソード記憶を作るためです。自分が興味を持てるコンテンツを使って、目と耳を使い、身振り手振りや指なぞりをすることで、生き生きとしたエピソード記憶になればなるほど、声の大きな有権者になることでしょう。

言葉と身体感覚は切っても切れない仲」の回、「ジェスチャーを交えて単語を覚えると定着がよい…かもしれません」の回、「指なぞりで記憶力が向上する」の回が参考になると思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました