座っている時間が 10 時間以上の熟年層でメタボの人は必見です。約1時間だけ座っている時間を短くして、代わりに歩くなどの軽い運動をするだけで、2型糖尿病と心疾患のリスクを下げ、肝臓機能が改善できるそうです。
座ると楽ですが…
「立って仕事をし始めました」の回で、私が立って仕事をするようになった経緯を紹介しました。その記事の中で、WHOが座り過ぎは心臓病を始めとする生活習慣病や腰痛・肩こり・関節痛に至るまで様々な病気に関係しているという声明を出していることを書きました。
その後の各種研究でもそれを裏付けるデータが出ています。今回紹介する論文はその1つです。運動が体によいのは、常識なので、「今さら何を言っているのか」という話の向きもあろうかと思います。しかし、この研究は、実際に被験者に加速度センサを着けてもらい、3か月間活動状況をクラウドにアップロードして常時モニタしているので、信頼のおける結果だと思います。被験者は、40歳から65歳までの熟年層で、病気にはなっていないが、メタボという 64 人の方々です。
被験者の半数は約1時間だけ座っている時間を短くして、その代わりに軽い運動や立ったりしてもらいます。もう半数の被験者は今まで通りの生活をしてもらいます。加速度センサで常時モニタしているので、噓をついてもすぐにバレてしまいます。ですので、実際に座る時間を短くする効果を測るための被験者の数は32人と少ないです。そのため、統計の歪みがありそうなところが多少気になりますが。
メタボ改善効果高い
空腹時インスリン、HOMA-IR (インスリンが効きにくいことを示す指標)、 HbA1c (血中のヘモグロビンに糖がくっついて働きが悪くなっていることを示す指標)という2型糖尿病リスクを示す指標が、今まで通りの生活をしていた被験者に比べて、座る時間を短くした被験者の方が軒並みよくなりました。3つの指標とも数値が小さい方がよいものです(1)。
それに加えて、肝機能の良し悪しに関わる、アラニンアミノトランスフェラーゼと呼ばれる酵素の数値もよくなったのです。この酵素は肝細胞が壊れると、血中に流れ出るものなので、数値が小さい方がよいものです。
その他、歩数が多いと、胴囲が細くなり、立っている時間が長いと、体重が減るという相関関係があることが分かりました。歩けばウエイトが引き締まるのは分かるとして、メタボの人は立っているだけで体重が減るのですね。この研究はフィンランドで行われたものですので、日本人にそのまま当てはまるかははっきりしたことは言えません。しかし、参考にしても損はないでしょう。
立っているだけでも2型糖尿病リスクを下げられる
同じ論文著者が、今回の論文とは別に、立っているだけでも何かの足しになるのか分析した論文を書いています。方法は同じで、加速度センサを被験者に身につけてもらい活動状況を常時モニタする方法です。これも興味深い結果です。立っているだけで2型糖尿病リスクを下げられるそうです(2)。
立っている時間を 1.5 時間未満、1.5 時間から 2 時間の間、2 時間以上の3パターンで振って調べたところ、立っている時間が長いほどインスリンが効きやすくなる、つまり血糖値を下げやすくなる、という結果になりました。
2型糖尿病リスクを下げられるということは、「ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止あれこれ(その1)」の回で触れたように、認知症発症リスクも下げることができるということです。
国民がみんな、「Huaweiはスマートウォッチで本腰入れて医療分野へ」の回で紹介したようなスマートウォッチを身につけて、活動状況を常時モニタされる時代が来るかもしれません。そして、座っていると、「医療費がかからないように、立ってください」と注意されるんでしょうね。
しかし、自分で実践してみた結果は無残
この話を知る前から、ここ1年ほどほぼ一日中立ったままの生活を続けていますので、自分が被験者になったつもりで、定期健康診断で血糖値がどうなったか報告します。私の場合、残念ながらHbA1cは逆に上昇しました。2021年から立ったままの生活を続けていますが、最新の2023年の結果では、5.5が上限値のところ、若干上回って5.6になってしまいました。
16時間断食と糖質制限を継続中ですので、食生活の影響ではないと思います。立っている時間が長ければ長いほどよいというわけではなく、効果が収穫逓減するのかもしれません。
空腹時血糖値はこの間正常範囲のど真ん中辺りを推移していますので、考えられる要因として、食後血糖値スパイクをうまく抑えられていないのかもしれません。食後直ぐに立って歯磨きをして、その後昼寝をしていました。それを変えて、立つだけでは不十分と見て、階段上りの運動を取り入れてみることにします。短時間歩くことで食後血糖値を17%も下げる効果があることが、メタアナリシス研究で分かっているからです(3)。
2型糖尿病と認知症は相関が強いとされていますが、実際、加速度センサを装着した被験者49,841人のデータを使ったメタアナリシス研究でも歴然です。被験者平均の座位時間9.27時間/日を基準にして、認知症発症リスクは10時間/日の群で1.08倍、12時間/日の群に至っては1.63倍に達します。チョコチョコ立つとよいとする都市伝説もありましたが、完全否定されています。この研究では実際に加速度センサを用いて座っている延べ時間こそが認知症発症リスクを決めると結論づけています(4)。
[参考文献]
- Taru Garthwaite, Tanja Sjöros, Saara Laine, Henri Vähä-Ypyä, Eliisa Löyttyniemi, Harri Sievänen, Noora Houttu, Kirsi Laitinen, Kari Kalliokoski, Tommi Vasankari, Juhani Knuuti, Ilkka Heinonen. Effects of reduced sedentary time on cardiometabolic health in adults with metabolic syndrome: A three-month randomized controlled trial. Journal of Science and Medicine in Sport, 2022; DOI: 10.1016/j.jsams.2022.04.002
- Taru Garthwaite, Tanja Sjöros, Mikko Koivumäki, Saara Laine, Henri Vähä-Ypyä, Maria Saarenhovi, Petri Kallio, Eliisa Löyttyniemi, Harri Sievänen, Noora Houttu, Kirsi Laitinen, Kari Kalliokoski, Tommi Vasankari, Juhani Knuuti, Ilkka Heinonen. Standing is associated with insulin sensitivity in adults with metabolic syndrome. Journal of Science and Medicine in Sport, 2021; DOI: 10.1016/j.jsams.2021.08.009
- Buffey, A.J., Herring, M.P., Langley, C.K. et al. The Acute Effects of Interrupting Prolonged Sitting Time in Adults with Standing and Light-Intensity Walking on Biomarkers of Cardiometabolic Health in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Med 52, 1765–1787 (2022). https://doi.org/10.1007/s40279-022-01649-4
- Raichlen DA, Aslan DH, Sayre MK, et al. Sedentary Behavior and Incident Dementia Among Older Adults. JAMA. 2023;330(10):934–940. doi:10.1001/jama.2023.15231
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