知能テストを提供するフィンランドのWiqtcom社が、2024年夏に国別平均IQランキングを公表しました。見事、日本が1位に輝きました。一見よいことに見えますが、少子化してマルチタスクが減ったことが要因の一つではないかと疑っています。
未婚と少子化が進む日本
日本では未婚率が上昇し、少子化も進んでいます。隣国の中国でも深刻です。韓国も輪をかけて深刻です。本ブログの「中国でも少子高齢化が深刻です」の回で紹介しました。この中で、生活水準が向上すると、少子高齢化する因果関係について説明しました。因果関係について詳しく知りたい方は、そちらをご一読ください。
世界銀行が提供している2022年の統計データは、日本の合計特殊出生率(女性1人が一生の間に生むとしたときの平均子ども数に相当)は1.26です。中国がそれよりも少なく1.18で、韓国はさらに少なくて0.78です。世界全体で2.26です。日本では人口維持するには2.07ないといけないと叫ばれているので、この先世界全体としても人口がほぼ横ばいに推移するものと考えてよいわけです。
日本の話に戻すと、確かに子どもの数が目に見えて減っています。第二次ベビーブーム世代も適齢期を過ぎてしまい、少子化傾向を反転させるのはほぼ絶望的に見えます。自然の摂理で何事も暴走しないようにうまくできているのかもしれません。
日本が国別平均IQランキング1位に
そんな中で、知能テストを提供するフィンランドのWiqtcom社が、2024年夏に国別平均IQ(知能指数)ランキングを公表しました。見事、日本が1位に輝きました。一見よいことに見えます。しかし、これには少子化が関係しているのではないかと疑いました。
そこで、世界銀行の2022年の合計特殊出生率統計データとWiqtcom社の国別平均IQランキングを突き合わせたのが下のグラフです。
トレンドラインである赤い線を見ると、子どもの数とIQに逆相関があるように見えます。
妊娠・出産・育児の過程で母親の脳の海馬や前頭前皮質の容積が小さくなり、併せて認知能力が下がることが知られています。海馬は短期記憶を司り、前頭前皮質はヒトの思考回路を司ります。また、それが長期に渡るということが脳のMRI画像で分かっています(1)。また一方で、感情を司る扁桃体は大きくなり(2)、愛情ホルモンであるオキシトシンで作動する系が活発になるそうです(3)。これらの現象を総称して “mommy brain” と呼ぶそうです。
しかも驚いたことに、妊娠・出産を担わないのですが、似たことが父親にも起こるのです(4)。母親と父親とで共通するのは「親」ということです。単に生物的な親ではなく、子育てをする役割としての親になると、どうやら脳の構造自体が変わるというわけです。
子育て=マルチタスク?
子育てすることによって、自我(≒認知能力)を殺して子供に愛情を注ぎこむという効果だけであれば、一家の子どもの数が増たとて、効果は0,1で効きそうなものです。ところが、図1をもう一度眺めていただくとお分かりのように、子どもの数が増えるに従って、IQが下がっていくように見えます。
ここからは私の仮説ですが、子育てがマルチタスクだからなのではないかと思うわけです。子どもですから、食事の用意から保育園・幼稚園の送り迎えだけでなく、熱が出たり、学校から職場に電話がかかってきたりすることに対して、間髪を入れずに最優先処理しなければなりません。まさにマルチタスクそのものです。
子どもの世話がタスクと考えれば、子どもの数が一人、二人と増えていくと、共通処理は多少ありますが、タスクも増えるというものです。子どもの数だけタスクの多重度が上がっていきます。
実際に、ある種のマルチタスクが脳の形態行動モニタリングおよび行動調節に関わる領域、社会的認知に関わる領域、および情動に関わる領域に与える影響を示す研究もあります。マルチタスクをすると、前帯状皮質と呼ばれる脳の部位が小さくなることが確認されています(5)。行動モニタリングおよび行動調節に関わる領域、社会的認知に関わる領域、および情動に関わる領域を含む部位なので、認知能力に影響を与えるでしょう(6)。
以上から、年代が下るに従って世界のIQが上がってきているフリン効果も、世界全体の
生活水準向上 ⇒ 少子化 ⇒ 子育て期間短縮 ⇒ マルチタスキング減少 ⇒ IQ高止まり
で説明できるのではないでしょうか。
子育てをしなくなった日本人が歩きスマホでマルチタスク
懸念されるのは、少子化で子育て機会が少なくなった日本人が、このままシングルタスクで行けば、世界IQランキング1位を維持できるのかもしれませんが、別のことでマルチタスクをしてしまえば、元の木阿弥です。
実際、道を歩いていると、歩きスマホをしている人ばかりです。「やはり歩きスマホは止めときましょう」の回で歩きスマホの危険性に触れました。スマホであまりに複雑なことをやりながら歩くと、これぞマルチタスクそのものですから、危険な目に遭うばかりでなく、若い頃には認知能力が低下して仕事に差し支え、おいては認知症を招き入れる可能性があります。マルチタスクを習慣にするのは止めときましょう。
[参考文献]
- Hoekzema E, Barba-Müller E, Pozzobon C, Picado M, Lucco F, García-García D, Soliva JC, Tobeña A, Desco M, Crone EA, Ballesteros A, Carmona S, Vilarroya O. Pregnancy leads to long-lasting changes in human brain structure. Nat Neurosci. 2017 Feb;20(2):287-296. doi: 10.1038/nn.4458. Epub 2016 Dec 19. PMID: 27991897.
- Barba-Müller E, Craddock S, Carmona S, Hoekzema E. Brain plasticity in pregnancy and the postpartum period: links to maternal caregiving and mental health. Arch Womens Ment Health. 2019 Apr;22(2):289-299. doi: 10.1007/s00737-018-0889-z. Epub 2018 Jul 14. PMID: 30008085; PMCID: PMC6440938.
- Kim S, Strathearn L. Oxytocin and Maternal Brain Plasticity. New Dir Child Adolesc Dev. 2016 Sep;2016(153):59-72. doi: 10.1002/cad.20170. PMID: 27589498; PMCID: PMC5181786.
- Magdalena Martínez-García, María Paternina-Die, Sofia I Cardenas, Oscar Vilarroya, Manuel Desco, Susanna Carmona, Darby E Saxbe, First-time fathers show longitudinal gray matter cortical volume reductions: evidence from two international samples, Cerebral Cortex, Volume 33, Issue 7, 1 April 2023, Pages 4156–4163, https://doi.org/10.1093/cercor/bhac333
- Loh KK, Kanai R. Higher media multi-tasking activity is associated with smaller gray-matter density in the anterior cingulate cortex. PLoS One. 2014 Sep 24;9(9):e106698. doi: 10.1371/journal.pone.0106698. PMID: 25250778; PMCID: PMC4174517.
- 岩田 潤一, 嶋 啓節, 虫明 元. 前帯状皮質. 脳科学辞典. DOI:10.14931/bsd.854
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