少々古いですが、Katy Perry の “Chain to the Rhythm” という曲が意味深なので、謎解きしてみました。非常にダンサブルな軽いレゲエ調の曲です。YouTube に上がっているミュージック・ビデオをご覧になって、歌詞を読むと、明るい曲調に秘められた強いメッセージ性に驚いてしまいます。
Katy Perry とは誰?
Katy Perry は米国のシンガーソングライターです。牧師の家庭で育って、子どもの頃に教会でゴスペルを歌っていたそうです。というわけで、最初はゴスペル歌手としてプロの道を歩み出しましたが、鳴かず飛ばずで、その後ポップミュージシャンに転身したようです。
著名な音楽プロデューサー Max Martin との出会いが、彼女を原石から光り輝くダイヤモンドに変えたのだと思います。Max Martin は当代一のヒットメーカです。Taylor Swift の “Shake It Off” や The Weeknd の “Blinding Lights” のような化け物的なヒット曲も、この人が手がけました。
かたや Max Martin の方も Katy Perry に負うところが多く、彼がプロデュースして全米チャート1位を獲得した楽曲の中で、Katy Perry の曲が “Part of Me”, “Roar”, “Dark Horse” など実に8曲、全体の3分の1を占めます。ビジネス・パートナーとして、二人は最強のコンビなわけです。
商業的には予想外の結果
そのゴールデンコンビが満を持して、2017年にアルバム “Witness” をリリースしました。そして、最初のシングルカットとして世に送り出したのが、この “Chain to the Rhythm” です。邦題は “チェーン・トゥ・ザ・リズム~これがわたしイズム~” です。
この曲には、実は Sia も作曲に加わっている上に、バックで歌っています。Sia は Sean Paul と組んだ “Cheap Thrills” で全米チャート1位を獲得したことがある実力派シンガーソングライター兼プロデューサーです。曲調は味があるものが多く、日本でいうと、中島みゆき的な存在かと思います。
それに加えて、Skip Marley をフィーチャリングしています。レゲエの生みの親 Bob Marley の孫です。
これでもかというぐらい音楽界の重鎮を結集して、世に問うた楽曲でしたが、US Billboard Hot 100 で最高 4 位に終わりました。思うに、Katy Perry にしろ Max Martin にしろ、不本意な結果だったでしょう。この結果は、メッセージ性が強すぎたために、現在の米国社会では好き嫌いがはっきり分かれてしまったからではないかと思います。
ミュージック・ビデオが問う課題
ミュージック・ビデオは先ず Katy Perry が扮する Rose が、”Oblivia” という名前の遊園地を訪れます。「忘却の彼方へようこそ」とでも言いたいのでしょう。一人でやってきます。遊園地に一人で来る人もあまりいないと思いますが。
入場券をチェックするでもなく、遊園地のゲートを通るところで、”Are we crazy? Live our lives through a lens” と歌い始めます。「みんな色眼鏡で物事を見ていませんか?」と言っているのでしょう。
ゲートを通り抜けてすぐに、トレッドミルの真ん中にドングリ目をしたマウスが鎮座するモニュメントが見えてきます。これがビデオの最後を暗示しています。ここで以下の節が続きます: “Trapped in our white-picket fence / Like ornaments.” 「マウスのように、誰かに飼われて飾り物のように生きていませんか?」と問うているのでしょう。
少し中を歩いていくと、セルフィーを撮る集団に出くわします。ここで以下の一節が被ります:”So comfortable, we live in a bubble, a bubble / So comfortable, we cannot see the trouble, the trouble”「みんな自分のことしか考えていないんじゃない」とでも言いたいのでしょうか。
また少々歩いたところで、キノコ雲の形をした綿菓子を持った女性と危うくぶつかりそうになります。曲は続きます:”Aren’t you lonely? Up there in utopia” おそらく、核戦略における危うい恐怖の均衡は、偶発的なことで簡単に一触即発の事態になるんだよ、ということを言いたいのだと思います。
続いて、遊園地の中にバラが植えてあり、彼女がバラの花の香を嗅ごうと茎を持って引き寄せようとしたところで、棘が刺さって指から血が滲み出てしまいます。茎をよく見ると、それは何と有刺鉄線でできているではありませんか。
しかし、そんなことはあまり気にするところではないかのように、次に場面が変わります。この時、曲は言います:”Where nothing will ever be enough / Happily numb” 「小事が起きているのになかったことのようにやり過ごして、平和ボケしていませんか?」と言っているように聞こえます。改めて観ていて、ロシアによるウクライナ侵攻を思い浮かべてしまいました。
遊園地の中にはいろいろなアトラクションがあります。”The Great American Dream Drop” は、幸せそうなカップルをアメリカの一軒家を模したゴンドラに乗せて、高いところに引き上げてストンと落とします。米国で2008年のリーマンショックの引き金になったサブプライムローン問題を彷彿とさせます。
根深い米国社会の問題を暗示
”Love Me” というジェットコースターがあり、Rose が見知らぬ白人男性 Simon と隣り合わせになり、乗り込みます。途中、レールがない区間を飛んだりするので、ちょっと乗りたくない乗り物ですが、無事に終点まで辿り着きます。
最後によくある写真撮影があって、相手への好意を示す点数と思われる数字が書かれています。何点満点か分かりませんが、Simon の点数は 8,402 点に対して、Rose の点数はたったの 15 点です。残念ながら、Simon は Rose の意中の人にはなりえなかったようです。よく見ると、他のカップルは黒人と白人の組み合わせだったり、様々ですが、Simon と Rose は白人同士の組み合わせです。
ここに “We’re all chained to the rhythm” が被ります。「君たちの組み合わせが常識なのに、Rose、何が不満なんだ」と言っているようにも読み取れます。
“No Place Like Home” というアトラクションは、巨大なアームが乗客をすくい上げると、そのまま遊園地を囲む白いフェンスの外に放り投げてしまいます。よく分かりませんが、おそらくヒスパニック系の乗客と思われます。
そうだとすると、「ここは君たちのいる場所ではない、移民は帰れ」といいたいのでしょう。追い出されて宙を舞うカップルの映像に被る歌詞は、”Thought we could do better than that” です。ちなみに、リリース当時トランプ政権の只中でした。
“Inferno H2O” という名前で、ガソリンスタンドの見てくれをしたドリンクバーがあります。炎をたたえた青い液体をみんなが飲んで、口から火炎を放ちます。
何を暗示しているのか汲み取るのがちょっと難しいですが、私の解釈は「湯水のように資源を使っていて大丈夫?」というものです。どうでしょうか。ちなみに水も立派な資源です。被ってくる歌詞は “Drink, this one is on me” です。「私のおごりだからジャンジャンやってよ」という感じです。
そしてクライマックスへ
この後、 Rose は米国の幸福な白人核家族を描く 3D 映画 “Nuclear Family Show in 3D” を見るために映画館に行きます。ここがクライマックスです。
場面が変わります。映画館の外では、一番人気アトラクションのトレッドミルに乗るために長蛇の列ができています。トレッドミルに乗る客が次々と転びまくります。よく見ると、最初にこけるのが黒人男性で、次に転ぶのがアジア系の女性です。
場面が再び映画館に戻ります。3D 映画の幸せな家族をよそに、その家庭の部屋に置いてあるテレビの中から「ちょっと待てよ」と言わんばかりに Skip Marley が現れます。そして語ります:”It’s my desire / Break down the walls to connect, inspire / Up in your high place, liars / Time is ticking the empire / The truth they feed is feeble / As so many time before / They greed over the people / They stumbling and fumbling and we’re about to riot / They woke up, they woke up the lions.” 一言でいうと、「目覚めよ、Rose」です。
Occupy Wall street やら #Me too やら Geoge Floyd 事件など、この曲がリリースされた時代背景にある一連の出来事と重なります。
そして、最後に Rose その人が例のトレッドミルに乗り走り出します。いくら走っても転ぶことはありませんでした。先ほど、黒人男性とアジア系女性は転びました。Rose は女性ですが、白人です。今現在の米国社会というトレッドミルは、大体このぐらいを境にしてふるいにかけるということを暗示しているのでしょう。
この楽曲に関係したとして上に挙げた人物は、Katy Perry 以外はみなさん外国人です(Max Martin はスウェーデン人、Sia はオーストラリア人、Skip Marley はジャマイカ人)。外国人から自国のことをとやかく言われたくないという心理も働いたのかもしれません。Katy Perry はこのあと、音楽シーンであまりパッとしなくなりました。
しかし、米国は世界から常に注目されています。「米国が変われば、世界も変わるのだから、何とかしてくれ」という応援歌として見ることもできます。いろいろ賛美両論がある曲ですが、音楽シーンで記憶に残る1曲だと思います。
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