大人の脳はやはり母国語ファースト

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言語を母国語として習得するのに臨界期があるとよく聞きます。仮説の域を出ていません。DARPAが外国語を学ぶときの脳内の動きを捉えました。頭の中に母国語のコミュニティが先に出来上がると、外国語は居場所を探してニッチな場所を見つけ出して住み着く動きをするそうです。

DARPAが関心を示している

今回はScienceDaily.comで見つけたカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者が発表した論文で、アメリカの成人が第二外国語として中国語の発音を学ぶ時に起こる脳の変化をリアルタイムに記録したものを紹介します。UCSF自体の発表記事と内容は同じなので、興味がある方は図が入っていて分かりやすいUCSF発表記事の方を参照してください。

10人のてんかん患者の方々に開頭手術した際に、256個の電極を設置させてもらい、この研究を行ったそうです。DARPAというアメリカ国防省の研究機関が資金援助している国家プロジェクトです。DARPAが興味を示しているからには、何かその手の技術転用を考えているのかもしれません。

みんなつまづく中国語の声調

それはさておき、『取っつきやすい言語と取っつきにくい言語』の回で説明しましたように、中国の発音は日本語やヨーロッパ語と異なる点があります。声調と呼ばれる4種類の抑揚です。妈 mā(母)、麻 má(麻)、马 mǎ(馬)、骂 mà(罵る)は声調によってそれぞれ意味の違いを表現します。

中国語の勉強

日本人にとっては特に第二声と呼ばれる中ぐらいの音階から上の方の音階に音のトーンを上げて発音する声調が難しいです。 麻 má です。UCSFの記事の中にどのような音の違いなのか体験できる音源がありますので、是非聞き分けできるか試してみてください。

そんな声調ですが、中国語を知らない被験者10人(先ほどのてんかん患者のみなさん)に聞いてもらってトレーニングをして、脳の発話に関わる部位にどのような変化が起きるかをリアルタイムで先ほどの電極で読み出したそうです(文献1)。

リアルタイムに試行錯誤する脳

最低20回聞いてもらった後に、200回まで聞いてもらい、4つの声調を正しく聞き取れるかテストしました。そうすると、個人差はあるものの毎回脳の中に変化が起こり、ある時は正しく聞き取れるけれども、別の時には正しく聞き取れない場合があり、それが波のようになりながら正答率が徐々に上がっている傾向を示します。

そして細かくそれぞれの電極の信号の動きを見ていくと、 トレーニング回数が増えていくと、妈 mā、麻 má、马 mǎ、骂 mà それぞれに反応して信号が大きくなる脳神経の塊、逆に信号が小さくなる塊、そして全く信号の大きさが変わらない塊の3つのグループに分かれていくそうです。

研究者は、それぞれの脳神経塊が餅は餅屋で特定の音に反応するようにグループが分かれていくのだが、時にそれぞれのグループが出す信号が今度は母国語を受け持つ脳神経グループとかち合ったりすることが起きると言っています。

それはやり過ぎだから今度は信号を引っ込めるように脳神経が試行錯誤しながら変化していき、徐々に母国語を受け持つグループと住み分けて自分の居場所を固めていくような動きをするそうです。これが声調トレーニングで見られた聞き取りの正答率の浮き沈みの波が起きる原因だとしています。競合しつつ多様性を持っていくというところが、雑木林を思わせます。

Respeto A La Diversidad Cultural

大人になると頭の中は母国語ファーストになる

要するに、先住民の母国語がどっしりと脳の中に座り込んでいるので、第二外国語はそれに迷惑をかけないように隙間を見つけて住み着いていこうとするのでしょう。

たとえて言うならば、ちょうど見知らぬ土地に引っ越してきて、ごみ出しルールが分からずに燃えるゴミの日にプラスチックを入れて出したら、自治会の役員さんに「この地区ではプラスチックは燃えないゴミの日に出してください」と叱られて、次回のゴミ出しから気をつけるような感じでしょうか。

そんなことを繰り返すうちに住み慣れていくというのが、外国語を身についていくということだと思いました。

言語を母国語として習得するのに臨界期があるとよく聞きます。現在も仮説の域を出ていませんが、この記事を読むと、頭の中が母国語ファーストで出来上がってしまうと、外国語を身につけるにはそれなりに苦労が必要というは否めないと思いました。そんなことで気を揉んでいても前に進みませんので、普通に自然と口が動くようになるまで慣れるしかありません。では、Let’s get started!

Let’s get started.

[参考文献]

  1. Han G. Yi, Bharath Chandrasekaran, Kirill V. Nourski, and Matthew K. Leonard. Learning nonnative speech sounds changes local encoding in the adult human cortex. PNAS. September 2, 2021; 118 (36) e2101777118. DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.2101777118

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