外国語を学ぶと音感も良くなる

No Music, No Life 科学技術
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言葉と音楽は互い影響し合うようです。音感がよい⇒言葉の上達も早いだろうということは想像に難くありません。ところが、ヘルシンキ大学の記事によると、その逆に外国語のリスニングやスピーキング力を鍛える⇒音感がよくなる効果の方が大きいのだそうです。

言葉と音楽は互い影響し合う

考えてみれば当たり前のことだと思えますが、言葉と音楽は互い影響し合うようです。音感がよいと、言葉の上達も早いだろうということは想像に難くないと思います。同じ音の性質(大きさ、長さ、音階、音階の上げ下げ、間)を使って表現したり理解したりするわけですから至極当然と言えます。

実際、そのような研究もいくつかされていて、違う処理もありますが、重なっているところが多いのはやはりそうですかというのが正直にところです。

ところがです、ヘルシンキ大学の記事によると、音感を鍛える⇒外国語のリスニングやスピーキング力がよくなるというのはこれまでも言われて来た通りですが、その逆に外国語のリスニングやスピーキング力を鍛える⇒音感がよくなる効果の方が大きいのだそうです。

語学の方が脳の音の処理に対する影響が強い

北京在住の8歳から11歳の中国人児童 85人(最初123人が集まりましたが、途中で離脱あり)を対象にした研究です。

ちなみに最近の研究は中国人を対象にしたものが多く見かけます。一定の性質の人をたくさん集められることが理由の一つです。

彼らを

  • 英語を学ぶグループ
  • 音楽を学ぶグループ
  • 英語でも音楽でもない別のものを学ぶグループ

の3つのグループに分けて、1年間かけて課外活動として学んでもらいました。

学習を始める時と1年後とに脳波計で測定して変化を調べてみたところ、特に言葉で関するところでは音階(=音の周波数)と聞き慣れない音に関する感度が

英語を学んだグループ  > 音楽を学んだグループ > その他を学んだグループ

となりました。

また音感に関わるところでは、楽器の音色の違いと音の弾き間違いに気付けるかという課題に対して、やはり同じく

英語を学んだグループ  > 音楽を学んだグループ > その他を学んだグループ

の順に成績がよい結果になりました。

なおこの試験は子どもたちに無声映画を見せながら行っているので、子どもたちの意識は映画に向けられて、試験音声は単に「聞こえてくる」だけのものなので、無意識で脳が反応した結果です。習慣化した学習の効果が意識から外出しされて無意識に脳の中で処理されていることがよく分かります。

中国語の声調バイアスがあるかも

この実験は中国人を対象にしているため、声調の影響がある可能性があります。声調とは4種類の音階の上げ下げを使って同じ音でも違う単語として認識するための仕組みで、中国語独特のものです(もう少し詳しく声調の話を知りたい方は『大人の脳はやはり母国語ファースト』をご覧ください)。

ですので、中国人にとって外国語である英語を学ぶ時にもイントネーションなどに自然と注意が向いて、母国語である中国語と対比させて学んでいるために、言語の間の違いをより精密に見つけ出すように音階の違いを学習している可能性があります。

この辺は別の言葉を母国語としている人を対象に同じ実験をするのがよいですが、なかなかまとまった人数の被験者を集めるのが難しいと思います。

アメリカやブラジルのような多民族国家の場合は、粒揃いの被験者を集めること自体が難しいでしょう。ブラジルによく出張に行っていた時に思い知りましたが、アメリカ以上に「人種のるつぼ」です。誰一人として同じ肌の色の人はいないほど混血が進んでいます。それは言葉の違いには影響しないかもしれませんが、人が集まる大都市は貧富の差が激しいので、社会階層ごとの言葉づかいは影響してくるかもしれません。

話は逸れますが、このような一見社会階層など関係なさそうな論文でもその違いに注意を払ってアンケートを取っています。

The demographic information collected included children’s gender and age, parents’ age, and family socioeconomic status (SES). To measure family SES, we collected the educational level of both mothers and fathers, from no education to the doctoral level.

Mari Tervaniemi, Vesa Putkinen, Peixin Nie, Cuicui Wang, Bin Du, Jing Lu, Shuting Li, Benjamin Ultan Cowley, Tuisku Tammi, Sha Tao. Improved Auditory Function Caused by Music Versus Foreign Language Training at School Age: Is There a Difference? Cerebral Cortex, 2021; DOI: 10.1093/cercor/bhab194

なお、原論文はオープンアクセスなので、興味がある方は当たってみることをお奨めします。

老いた脳にも同じ効果はあるのか?

今回紹介した論文は発達途中の若い脳に与える影響に関する研究ではあります。ですが、老いた脳にも一理あるはずと思っています(いや、そう思いたい)。私はこの論文を読んだ後、外国語を学ぶと音楽がもっと楽しくなるのだと思い、学習意欲がさらに上がりました。

さて息抜きに、Ed Sheeran の “Bad habits” でも聞きますか。では、今日はここまです。

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