ポルトガル語の “perguntar” とスペイン語の “preguntar”。意味は「尋ねる」で同じです。しかし、綴りが微妙に違います。どうやら、先祖のラテン語では “percontor” なので、ラテン語⇒ポルトガル語と来て、スペイン語で音が変わったようです。
こんなに違うスペイン語とブラジル・ポルトガル語
私はブラジル・ポルトガル語を先に勉強した関係で、スペイン語作文練習をする時に、最初のうちはどうしても
(西) Le perregunté cuándo volvía por la noche. / 夜いつ帰って来たか彼/彼女に聞いた。
“perguntar” としてしまいがちでした。スペイン語から入った人は逆にブラジル・ポルトガル語を学び始めのうちは、以下のように綴りを間違ってしまうことでしょう:
(萄) Eu lhe preerguntei quando ele voltava à noite. / 夜いつ帰って来たか彼/彼女に聞いた。
ここで脱線して、上記の例文ブラジル・ポルトガル語とスペイン語の違いに触れると、
「彼/彼女を」がスペイン語では “le(レ)” で、ブラジル・ポルトガル語では “lhe(リェ)” になります。
「いつ」がスペイン語で “cuándo” に対して、ブラジル・ポルトガル語は “quando” です。疑問詞の頭が英語では 5W1H (When, Where, Who, What, Why, How)でしたが、スペイン語では順に Cuándo, Dónde, Quién, Qué, Por qué, Cómo となり、ブラジル・ポルトガル語では Quando, Onde, Quem, O quê, Por que, Como になります。英語が 5W1H なので、一番まとまりがよいですね。
「帰る」はスペイン語では “volver” と -er 動詞ですが、ブラジル・ポルトガル語では -ar 動詞の “voltar” で活用の系列が違います。
「夜に」では前置詞の考え方が違って、スペイン語では “por” を使って、ブラジル・ポルトガル語では “a” を使います。 ちなみに、前置詞の “a” と女性名詞の “noite” につく定冠詞の “a” が続くと必ず “à” になります。
他にも、動詞の活用でスペイン語とブラジル・ポルトガル語どちらも「私」は特定できるので、スペイン語では「私」に当たる “yo” は省略しがちです。一方ブラジル・ポルトガル語では、”eu” を省略可能ですが、間接目的語の “lhe” が文頭に置かれることはなく、”eu” を省略する場合は、動詞の後にハイフン付きで付いて、”Eu lhe perguntei” ⇒ “Perguntei-lhe” になるか、”Perguter a ele” と英語の “ask to him” のような言い方になります。彼なのか彼女なのか性別がはっきりするので、後者の方がむしろ一般的です。
兄弟言語という人もいますが、勉強してみると、こまかい違いが結構あり、発音もかなり異なるので、お互いに母国語を使って話し合っても理解できないわけです。
Perguntar vs Preguntar
さて、話を戻します。ポルトガル語の “perguntar” とスペイン語の “preguntar” の意味は「尋ねる」で同じです。語源を遡ると次のことが分かってきました:
- ラテン語で “contus” という「竿」を意味する単語がある
- ラテン語の接頭辞 “per-” には「~を通じて」あるいは「~を使って」という意味がある
- これら2つの語が組み合わさり、”per” + “cuntus” で「竿を使って探す」という意味が生まれた
- それが転じて、2つの言語の先祖に当たるラテン語 “percontor / 尋ねる” という動詞が誕生した
これらのことから、あくまで仮説ですが、
- ラテン語の “percontor” の “con” が、ポルトガル人には濁って “gun” に聞こえた
- ポルトガル語の動詞の不定詞語尾は -ar/-er/-ir のいずれかなので、”tor” は “tar” になった
- こうしてポルトガル語では “percontor” が “perguntar” になった
お気づきのように、ここまでは接頭辞が “per-” のままです。ラテン語の語源の一説が正しいと考えると、ポルトガル語の方が正統な意味の後継者と言えそうです。
“per” と “pre” は聞くとよく似ています。おそらく、まだ活字がない時代に、スペイン人が間違えて “preguntar” と聞き取ったのでしょう。慣用語の一つだと思います。”pre-” という接頭辞は、ラテン語でもポルトガル語でもスペイン語でも「前に」を意味します。ですので、じっくり活字で眺めようものなら、すぐにスペル間違いに気づくと思います。
言葉は生き物、生き物バンザイ
言葉は生き物なので、どう進化するかはそれぞれの環境によって適者生存に対する条件が異なり、ケースバイケースです。この事情は、生物の進化の歴史と似ていると思います。言葉もコード、生物の DNA もコードで同じです。環境の多様性が生物も言葉も多種多様にしているのでしょう。
言葉の探求はおもしろいです。
[参考文献]
- Wiktionary “per-“: https://en.wiktionary.org/wiki/per-#Latin
- Lexicon – Online Latin Dictionary “contus”: https://latinlexicon.org/definition.php?p1=1003585
- Lexicon – Online Latin Dictionary “percontor”: https://latinlexicon.org/definition.php?p1=1011675
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