大の大人が新しい外国語を学び出すためには、取っつきやすさが必要です。他人との相性と同じで親近感が持てると付き合いやすいので、その点を考察してみました。
発音・単語・文法が日本語と近いかどうかがカギ
新しい外国語を学び始めるきっかけはいろいろあると思います。相性は重要でしょう。相性がよい方が長続きするはずです。人付き合いと同じです。外国語との相性も人との相性と同じで、自分に近いかどうかがカギではないでしょうか。
人の場合には見た目、性格そして話の内容辺りが自分に近いと親近感が持てると思います。外国語でそれらに当たるのが、発音・単語・文法でしょう。これらが近いと取っつきやすいと言えるでしょう。
発音はスペイン語とポルトガル語が日本語に近い
Hは発音しないなどごく少ない独特の発音がありますが、それ以外ではほぼ例外なく、ローマ字を読む感覚で読めるのがスペイン語とポルトガル語です。特にスペイン語は母音の数が日本語と同じ5つですし音自体もだいたい日本語と同じでよいので、発音に関しては取っつきやすいことこの上ありません(ポルトガル語は “e” と “o” に開口音と閉口音があり7つです)。
ポルトガル語でナイフを意味する “faca” は「ファカ」と発音します。ですので、日本人にとってテキストをみて音読練習がしやすい点がこの2つの言語に共通した利点です。 発音面でスペイン語とポルトガル語 の両者の違いは、”r” と “j” です。スペイン語では “r” は大雑把に言ってラ行の読み方であるのに対して、ポルトガル語ではハ行です。”j” はスペイン語ではハ行で、ポルトガル語ではジャ行の読み方をします。
それに比べると、英語は発音しない文字が多かったり、ローマ字読みできない文字が比較的多いです。先ほどのナイフの例で言うと、 “knife” の “k” や “e” は発音しないわけですし、スケジュール= “schedule” は人によって「スケジュール」と読んだり、「セジュール」と読んだりするなど、ローマ字読みできないだけでなく、発音の仕方が二通りあったりする基本単語もいくつかあります。ですので、それぞれの単語の発音記号を辞書で調べるなり、Weblioなどのオンライン英和和英辞典で音声を確認して練習する必要があります。
一番厄介なのが中国語です。文字にすると日本語と見た目が同じ漢字で意味まで同じ単語も少なからずありますが、漢字の読み方が日本語の音読みと全くといっていいほど異なります。ピンインと呼ばれる、アルファベットを借りてきた発音記号を頼りに発音します。
母音も日本語とは少し異なり、7つあるだけならまだしも、複母音というものがあって、一見見た目は似ていますが、異なる発音をするものがあります。例えば、”ian” と “iang” は最後に “g” があるかないかの違いだけで似たように見えますが、カタカナで表記するとすれば「イエヌ」と「イアン」という発音になります。
おまけに声調と呼ばれる4種類の抑揚が加わります。妈 mā(母)、麻 má(麻)、马 mǎ(馬)、骂 mà(罵る)は、”a”の上にある声調記号がなければ、全て同じ表記になり発音も同じになってしまいますので、区別がつかなくなります。それだけ声調の違いは重要なのですが、漢字それぞれについて覚えていくのが大変です。
単語は中国語と英語が日本語に近い
単語に関しては、英語と中国語は日本語に外来語として取り込んでいるものが多く、取っつきやすいです。西洋の概念を日本語に訳した言葉が、中国で外来語として取り込まれているものも多いです。例えば、「文化」や「哲学」などです。英語と中国語に共通することとして上の発音のところで触れましたが、文字表記だけではどう発音するか分かりませんので、ちゃんと発音記号や音声を確認しましょう。
一方、スペイン語とポルトガル語の単語は、日本史で学んだ種子島に鉄砲伝来以降の交易で入ってきた言葉が外来語として定着しているものもありますが、例えばポルトガル語の “bolo” (ボーロ)はケーキの意味であるなど意味が違ってきているものも多いので、あまり助けにはなりません。
ですので、日本語からは遠いです。しかし英語には近いです。特にラテン語由来の単語は語幹が同じで語尾が違うという感じです。しかし、そういう単語に限って、外来語として日本で定着しているものは少ないです。それもあり、英語という下地をしっかり作った後に取り組むことがお奨めです。どうせ学校教育で嫌でも英語を習わされていて、そこからの再スタートですので、一から始めるよりは気が楽だと思います。
それから、地理的にイベリア半島のお隣同士である関係からか、スペイン語とポルトガル語は全く同じ表記をする単語が数多くあります。ただし、発音は発音のところで触れたように異なるものもあります。それでも規則的ですので、 “r” と “j” の発音の違いなどの規則さえ押さえれば問題ありません。
文法はどれも日本語から遠いので、諦めて覚える
最後の文法ですが、英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語どれも日本語からは遠いです。英語も中国語も語順は S+V+O 文構造をしており、日本語のような助詞がなく、前置詞がある点も共通しています。中国人の場合は日本語を学ぶよりも英語を学ぶ方が習得が早いのではないでしょうか。
スペイン語とポルトガル語も英語と同じヨーロッパ語なので、文法構造が似ています。しかし、直接目的語や間接目的語が指示代名詞になると、動詞の前に置かれたり、時制とは別に接続法という英語にはない法があります。時制も英語と異なり、過去形が2種類になったり、完了形の意味合いが英語と若干異なるなどの違いがあります。
スペイン語とポルトガル語は発音と単語ばかりでなく、文法も似通っていますので、どちらから一方をかじっていると、非常に取っつきやすいです。私の場合は、ブラジルに出張することが多かった時期があり、その時ブラジルのポルトガル語を勉強してある程度分かるようになっていたので、最近始めたスペイン語は取っつきやすかったです。
親しみやすさは中国語、英語、スペイン語、ポルトガル語の順
上で触れた中国語、英語、スペイン語、ポルトガル語それぞれの特徴を踏まえて、少し乱暴ですが、自分の学習経験から独断と偏見で日本語との親しみやすさを発音・単語・文法という観点で0から3までの4段階でレーティング(数が小さいほど近い)してみたのが、下のグラフです。
一つ発音で3がついていますが、総合得点では中国語が一番親近感が持てると思います。そのあとは英語、スペイン語、ポルトガル語と続きます。スペイン語とポルトガル語は統合点が同じなのですが、スペイン語の方が発音が日本語に若干近いという点を買って、スペイン語が僅差の3位です。
英語からみた学びやすさは、スペイン語、ポルトガル語、中国語、日本語の順
これが英語から見ると、学びやすさは、スペイン語、ポルトガル語、中国語、日本語の順になるそうです(1,2)。
日本語から見た時の風景の裏返しになっていることがよく分かります。このことから言えるのは、第1外国語として英語を学ばざるを得ない日本人にとって、英語をマスターできれば、英語を橋頭保としてスペイン語、ポルトガル語と進めることで、比較的平たんな道を伝って言語習得できるでしょう。
ですので、ポルトガル語とスペイン語を学ぶのに、英語との対比で解説してくれている“Essential Portuguese Grammar”や“Essential Spanish Grammar”、Duolingo、Duolingo podcast、Span¡shD!ctionary.comを活用するのは、的外れではないと思っています。
一方、中国語は漢字という地の利を生かして、もちろん日本語から直接行くのがいいでしょう。『Why?にこたえるはじめての中国語の文法書』は非常に質が良い文法書だと思います。
[参考文献]
- “Which languages take the longest to learn?“. The Economist. 18 Sep 2023.
- “Foreign Language Training“. U.S. Department of State
コメント