「酒は百薬の長」という言葉があります。ところが、2018年に世界3大医学誌の1つ The Lancet に発表された論文と引用論文によれば、アルコールは一滴から死亡リスクを上げるそうです。コロナ禍もあって、私はノンアルコールワインに切り替えました。
さよなら「酒は百薬の長」伝説
飲み会でよく交わされる会話です:
「『酒は百薬の長』だから、少々の風邪ぐらいなら、体が温まるしアルコール消毒になるよ。」
いや、怖いですね、知らなかったということは。2018年に世界3大医学誌の1つ The Lancet に発表された論文と引用論文によれば、題名 “No level of alcohol consumption improves health” 通り、アルコールは一滴から死亡リスクを上げるそうです。
引用論文は世界 195 の国と地域にまたがって、15 歳から 95 歳を対象に 2,800 万人のデータを集めてメタアナリシス(同等のデータとできる研究を集めて、大規模な統計データとして分析する方法)したものです(論文2)。統計的に十分信用に値します。
「酒は百薬の長」ダメでも、「フレンチ・パラドックス」は?
こちらも有名な「フレンチ・パラドックス」という言葉があります。フランス人はあんなにコテコテの脂ぎった料理を頬張り、昼間からワインを水代わりに飲んでいるのに、なぜ他国よりも心疾患が少ないのかーというものです。
先ほどの論文で引用されている別の論文は、195の国と地域にまたがって15歳から95歳の人たちを対象にしています(論文2)。2,800 万人のデータを基にしたメタアナリシス(同等のデータとして扱える研究を集めて統計数を増やして解析する方法)です。十分信用するに値します。
この引用論文でも、やはり「フレンチ・パラドックス」に近い傾向が読み取れます。ガンや結核などの死亡リスクが高い疾患23つの中で、心疾患と糖尿病だけは少量であれば、死亡リスクを下げる効果がありました。
どれぐらい少量でしょう。現在の1日当たりの標準飲酒量は純粋なエタノールにして10g です。アルコール度数 5% のビールであれば、500ml 缶1本です。心疾患と糖尿病による死亡リスクを最小にする適量は標準飲酒量の 8 割から 9 割です。500ml 缶は諦めて、350ml 缶で我慢する必要があります。
しかし、心疾患と糖尿病による死亡リスクを最小にできたとしても、他がいけません。死亡リスクが高いその他 21 の疾患が黙っていないのです。すべてのリスクを勘案すると、結局、アルコール1滴から量が増えるに従って一貫して死亡リスクが増える結果になりました。
アルコールは脳にとって徹頭徹尾悪い
“Nature Communication” に掲載された研究で、UK Biobank に収められた 3.7 万人の健常な白人被験者の脳画像データを解析したところ、これまで適量とされてきた飲酒量(純粋エタノール 8g もしくは 10ml)の1倍から2倍程度であっても、脳を萎縮させたということが分かりました(論文3)。
飲酒量が多ければ多いほど脳の萎縮もひどくなる傾向も確認できました。脳の萎縮は神経細胞の数が減るだけでなく、神経細胞同士の接続も減ります。
アルコール代謝能力が高く、酒に強いはずの西洋人を対象にした研究でこの結果です。ましてや、下戸が多い東洋人ではより少ない量でも影響が表れる可能性があります。
脳に対するアルコールの長期的影響ではありませんが、日本でも短期的な影響を調べた研究がありました。酒気帯び運転の危険性を物語るものです(論文4)。
日本では飲酒運転の厳罰化が進んでいます。2022年4月からは社用車における運転前後アルコール確認も施行されました。現在の道路交通法では、呼気1リットル当たりのアルコール濃度が 0.15mg 以上で罰則対象になります。
法改正に乗じて商機を見出そうとしてしている企業もたくさんあります。普通に呼気のアルコール濃度を測定するものからスマートウォッチ型まで、各種出回っています。
呼気1リットル当たりのアルコール濃度を 0.15mg 未満に止めるには、350ml 缶ビール1本が関の山でしょう。それでも脳の働きは鈍ります。
オープンアクセスでないので、論文の中身は読めませんが抄録によると、10分、30分、50分、70分と時間の経過ごとに脳波を取っていくと、何と 70分後でも正常時に比べて明らかな劣化が見られるそうです。
長期的と短期的とで時間の長さは異なりますが、脳に与える影響という点では、先ほどの “Nature Communication” の論文と軌を一にする結果です。アルコールはたとえ少量であっても、短期的だけでなく長期的にも人体に悪影響を与えるのです。
ノンアルコールでも十分楽しめるノンアルコールワイン
酒を飲む目的が酔いたいからであれば、アルコールがないと目的を果たせませんが、ビールやワインの風味を味わいたいのであれば、話は別です。世の中よくできたもので、最近ノンアルコールビールやノンアルコールワインが酒屋さんやスーパーに定番として置かれるようになりました。
私のお気に入りは “Vintense Merlot” というノンアルコールワインです。メルロー種のブドウから作った赤ワインからアルコールを 0% になるまで除去しています。それだけではワインの味わいに欠けるようでいくつか添加物を入れているようです。
最初のうちはアルコールの香りがしないので、違和感がありましたが、すぐに慣れて、今ではアルコールに邪魔されて赤ワイン本来の風味が分からなかったのではないかと思えてきました。
健康効果という面でも、ポリフェノールが豊富です。アントシアニンがたくさん摂れて目の健康を保つのに持って来いです。その他タンニンやカテキンなどのポリフェノールも豊富にあります。
一時期不老長寿の薬かと騒がれたレスベラトロールは、飲んでもそのままの形でほとんど消化吸収できないそうですし、半端でない量を飲まないとはっきりした効果が出ないので、最近はブームが下火になっています。ですが、健康にとって多少なりとプラスのはずです。ノンアルコールならば、ガブガブ飲めます。ですので、私は仕事前に毎朝飲んでいます。アルコールが入っていないからこそできる技です。
コロナ禍もあり、酒の席はめっきり減りました。アルコール断ちするにはよい機会です。アルコールがないと、酒を味わえないということもありません。これを機会にノンアルコールビールやノンアルコールワインで乾杯しましょう。
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