中文の簡体字化で一つになった違う漢字たち

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今回は中国語の勉強をしていて、「ちょっとこの扱いはかわいそうだな」と思った簡体字の漢字たちをまとめました。見た目や聞こえが似ているからと、企業の M&A よろしく、簡単にされた挙句、違う漢字が一つにされた例です。

簡単な漢字に意外と多い

元々簡単な漢字が既にあって、その漢字を旁にしている漢字たちが、簡体字化の過程で十把一絡げにされた例が多いです。もちろん、中には「全然違うけど」というものもあります。しかし、簡体字を導入した歴史背景からとにかく画数を減らそうとしたわけですから、無理もありません。

しかし、後から勉強する身にとっては、「何でこの漢字でこういう意味なんだ?」という疑問がふつふつと湧きます。こういうこともあるので、ルーツである繁体字も併せて勉強しておいた方がいいかもしれないと思います。

Weblio 中国語辞典や百度百科は、そのような簡単にされた挙句一緒くたにされた簡体字の漢字たちのルーツを確認できるようになっています。「何でこの漢字でこういう意味なんだ?」という簡体字に出くわしたら、私はこれらのオンライン辞書を活用してルーツを確認しています。

谷(谷、穀)

1つ目は「谷」です。日本語でも中国語でも「峡谷/峡谷」の谷という意味は問題ないでしょう。しかしこれが、穀物を意味する「穀」とピンインも声調も同じ読みだからということで「谷」に統一されています。あまりに「ご無体ないな」と感じる極めつけの例です。

そのため、五穀豊穣を意味する中国語は「五谷丰登」になります。始めて「五谷丰登」を見た時、「五つの谷が起伏に富んでいて登るのが大変??なるほど、四文字成語はなかなか味があるな」と思ってしまいました。「五〇丰〇」と2文字は分かる漢字なので、穴埋め問題よろしくそこで気付くべきでした。

こういう小さな失敗で印象に残る体験をすれば、エピソード記憶として長く覚えていられると思います。

发(發、髮)

これも「無茶な」と思ってしまう一本化です。「發」は日本の漢字の「発」と同じ意味です。ピンインで書くと「fā」と第3声です。

これに対して、「髮」は日本語の漢字の「髪」です。元々の繁体字の旁に簡体字化後の「发」に似ているので、あえなく一本化されたそうです。こちらのピンインは「fà」と第4声です。声調れべるでは読み方が違うのですが、その違いも認められなかったのでしょう。

ということで、発動機、つまりエンジンを意味する「发动机」の「发」は「発(fā)」です。一方、頭髪を意味する「头发」は「髮(fà)」です。ちなみに、「头发」として発音する時は「fa」と軽声になります。

机(机、機)

ちょうど先ほどおあつらえ向きの例が出ましたので、もう一度登場してもらいます。エンジンを意味する「发动机」です。

「机」は古くは田畑で肥料に使う木の名前だったそうです。それが「機」の簡体化で「机」の文字を使うようになったそうです。日本語では机(つくえ)ですが、元々の古い中国語の漢字の意味にはその意味はありません。

使われなくなっていた「机」の文字を日本語でもほぼ同じ意味の「機」の簡体字として使うようになったとはおもしろい話です。漢字のリサイクルですね。

系(系、係、繫)

今度の「系」は、3つの漢字が1つにまとめられた例です。3つの繁体字「系(xì)」、「係(xì)」、「繫(jì)」は何れも日本語の漢字の意味とほぼ同じです。「系」は中国語/日本語で同じ「系统/系統」の意味ですし、「係」も中国語/日本語で同じ「关系/関係」を示します。「系」と「係」は親戚の感じですから、百歩譲って同じ漢字にまとめるのも分からなくはありません。

ところが、「繫」は日本語では「繋ぐ(つなぐ)」ですが、中国語では「繋ぐ」の意味の他に「結ぶ」の意味もあります。「ネクタイを結ぶ」は中国語で「系领带」と言います。

意味も違えば、読み方も全く異なります。糸の字が入っているので、親戚関係かもしれませんが、ルーツを辿れば同じ家系だと分かったという程度の関係程度です。

ここまで来ると、元の漢字を想像できないぐらい変形してしまっているので、日本語のひらがなやカタカナに近い印象です。

着(着、著、招)

「着」も「着」、「著」、「招」の3つの漢字が1つになったものです。とは言え、簡体字導入後も「著」と「招」はまだ現役バリバリで活躍している漢字です。元々「著」、「招」それぞれが多義語だったのが、ある意味では「着」という簡略化された文字を使うようになったようです。

zháo、zhe、zhuó、zhāo と4つも読み方があり、意味ごとに読み方が異なるのもこの「着」の特徴です。「着」は「著」の俗字です。「著」の方が正字だそうです。ですので、「著」も4つの読み方があります。

とは言え、「着」を使っている単語で正字の「著」を使っているものは見たことがありません。日本語でも「著者」の「著者 (zhùzhě)」を「着者」と書いている文献を見たことがありません。逆に日本語でも「着衣」の意味の「着衣 (zhuóyī)」を「著衣」と表記する文献にお目にかかったこともありません。

「着 (zháo)」は日本語の「着火」に相当する「着火 (zháohuǒ)」で使います。「慌てる」意味でも「着急 (zháojí)」の読みです。

zhe の読みは、「他走着呢。/彼は歩いている。」という文のような、持続のアスペクトを表現する時に使います。

zhāo という読み方は、他に別の漢字「招 (zhāo)」からも来ています。将棋の手を表す数量詞として、この「着 (zhāo)」を使います。

その他 并、干、尽、表

他にもあります。「并」は併せるの「併」と並べるの「並」という読み方が同じ「bìng」の漢字たちが元の字です。「干」は何かをする場合に使う動詞の「干 (gàn)」と乾燥の「乾 (gān)」が由来です。「尽」は日本語で「儘(まま)ある」という時の「儘 (jǐn)」と尽く(ことごとく)の「盡 (jìn)」が起源です、「表」は日本語で使う「おもて」や「表(ひょう)」などの意味の他、「錶 (biǎo)」から来た携帯する時計の意味があります。腕時計を意味する「手表」が格好の例です。

「的」、「地」、「得」もそのうちまとめられるか

「的」、「地」、「得」も助詞として使う場合、読みが似ていて、「的」は形容詞を作るための助詞、「地」は副詞を作るときの助詞、「“得” が作る様態補語は事実度外視の大げさ表現」の回で触れた「得」は程度/様態/可能補語を作る時の助詞として使われます。

時代が下ると、発音が同じ軽声の「de」で助詞という点でも「チャラ被りしているので、統合しましょう」とならないとも限らないと密かに思っています。

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