中国語文法書の決定版『Why?にこたえるはじめての中国語の文法書』

中国語の勉強 語学

中国語の文法をちゃんと勉強したければ、いの一番に『Why?にこたえるはじめての中国語の文法書』に取り組むことをお勧めします。文法書という形態をとっていますが、音声解説やドリルもあり、本書は実質的に総合教材に限りなく近く、体系立てて中国語を学べる良書です。

文法書の枠に止まらない実質的には総合教材の良書

『Why?にこたえるはじめての中国語の文法書』は文法書を名乗っていますが、ピンインと声調を始めとする発音を解説するところから始まっていて、初めて学ぶ人が見ると疑問に思うでしょう。しかし、文法解説だけに止まらず各課の最後にドリルが設けられていて、穴埋め、誤り訂正、日⇒中訳と中⇒日訳といった問題の他に、ピンインを声を出して読んで簡体字に書き下すという練習問題も随所にあって、ピンインや音から漢字を思い出す練習になります。音経由で文字を思い浮かべる練習(要はディクテーションということですね)は、マルチリンガルの脳がやっていることなので、マルチリンガルを目指す人は是非取り組むとよいと思います。本サイトの記事『マルチリンガルが新しい言語を学ぶ時、脳の視覚野も使う!?』も参考にしてみてください。

このように、文法書という形態をとっていますが、本書は実質的に総合教材に限りなく近く、体系立てて中国語を学べる良書です。

中国語の文法は比較的とっつきやすいが…

他の言語に比べれば、中国語の文法はとっつきやすい方でしょう。ヨーロッパ語全般に見られる以下のような傾向がありません:

  • 英語などのヨーロッパ語のように主語の人称によって動詞が語尾変化しない
  • 英語以外のヨーロッパ語で見られるような名詞に男性、女性、中性などの性別がない
  • 英語以外のヨーロッパ語で見られる名詞の性別に語尾変化しない
  • 英語以外のヨーロッパ語で見られる主語の性別に形容詞が語尾変化しない
  • ヨーロッパ語や日本語にある動詞の現在形、過去形、未来形に果ては何とか完了形などの時制がない

それでは、本書の「第19課 談話室 中国語ってどんなことば?」とわざわざ課を別にして、注意すべき中国の特徴を解説していますので、かいつまんで以下で紹介します。

中国語の特徴その1:語順は割と固定している

語順は英語に似ていて S(主語)+ V(動詞)+ O(目的語)の語順です。語順が割と固定していることも英語に似ています。しかし、目的語が主語の前に出る時もあります。目的語を強調したいときなどです。本書では下のような例を挙げています。

我看过这本书。Wǒ kànguo zhè běn shū.

(僕はこの本をよんだことがある)

→这本书我看过。Zhè běn shū wǒ kànguo.

(この本は僕は読んだことがある)

相原 茂, 石田 知子, 戸沼 市子『Why? にこたえる はじめての 中国語の文法書』

英語にはあまり見られませんが、この特徴は日本語にもあるので、日本人には違和感がないでしょう。

中国語の特徴その2:補語が発達している

英語では “I keep the window open.” という文の “open” が目的格補語と呼ばれて、”the window” の状態に補足説明を加えるはたらきをしています。一方、中国語で英語の目的格補語に当たるものは、ひたすら「…的」と「…」の部分に形容詞なり関係詞なりを連ねて頭につけます。

中国語で補語というと、動詞や形容詞といった用言を補足説明するものです。結果補語、方向補語、様態補語に分かれていて、本書の例をとると下のようなものです。

  • 吃饱了(食べ飽きた)の「 饱 」が結果補語で、食べて食べてもう飽きたというニュアンス
  • 吃下去(食べ続ける)の「下去」が方向補語で、食べて食べて食べ続ける感じのニュアンス
  • 吃得哪儿也不想去(食べて動きたくなくなった)の「哪儿也不想去」が様態補語で、食べて食べてもう動けないというニュアンス

日本語でも「食べ飽きた」や「取り下げる」などと言いますので、結果補語と方向補語は分かる気がしますが、最後の様態補語はとっつきにくいです。「得」の後ろに文が丸ごとくっついて、前の動詞を補足説明します。

中国語の特徴その3:テンスとアスペクト

また、冒頭でも触れましたが、中国にはヨーロッパ語や日本語にある動詞の現在形、過去形、未来形というテンス(時制)がありません。基本的には時間を示す副詞や文脈からいつの話をしているのかを判断します。代わりにアスペクトというものがあります。

「吃了」の「 了 」で「食べ終わった」と食べている状態からの変化のアスペクト(相)を表します。その他「吃着」なら、「(まだ)食べ続けている」という持続のアスペクトを表しますし、「吃过」なら「食べたことがある」という経験のアスペクトを示します。日本語の時間に対する考え方とも違うし、ヨーロッパ語の複雑に分類して動詞を活用する時間の捉え方とも違いますね。

よくできた機械翻訳のDeepL翻訳などはこの辺の事情をよく弁えていて、私の拙い中国語作文練習の答案を翻訳にかけると、ちゃんと「几年前…/数年前に…」という書き出しから過去形を使って翻訳してくれます。なお、DeepL翻訳の使用感などの紹介記事は『DeepL翻訳の翻訳は優れものです』をご覧ください。

中国語の特徴その4:助詞がない、 副詞は大事

中国語には助詞がありません。助詞はどちらかというと日本語に特徴的であって、中国語はヨーロッパ語と同じように助詞を使うところを語順でカバーして簡潔な構造にしています。日本語は日本語で「てにをは」を使うことで、語順を融通無碍に変えることができるので、強調したいものを簡単に文の最初に持ってくることができる素晴らしい長所があります。

大抵比較的長い文には動詞の前に副詞が付きます。中国語ではいつの話かを説明することで過去・現在・未来を表しますので、「曾经/かつて」や「快/もうじき」などの副詞は重要です。ほぼほぼ動詞のすぐ前に副詞を置いて、時間だけでなく程度、頻度、可能性などを表現します。副詞+動詞の語順が固定なのは英語とは違いますね。英語の場合は副詞が動詞の前に来る場合もあれば、文頭や文末に来ることもしばしばです。

最後に…音声コンテンツが欲しいが、総じて〇

どの類書よりも使いやすく、ドリルを解いて間違えた問題は文法説明に戻って覚え直すということを何回も繰り返せば、力が付いたと実感が持てます。私もドリルを3巡しました。総じて〇です。

1つ物足りなさを感じるのが、付属の音声コンテンツがないところです。最近ではどの言語も文法書であっても音声CDや音声ダウンロードが付いています。それが本書には付いていません。今さら後付けしてもということもあるのでしょうが、せっかくドリルで音声の訓練を意識して、ピンインから漢字文字として起こす問題があるぐらいなのですから、それを音声で出題すれば、学習効果がより高くなるはずです。もし将来改版の計画があるのでしたら、是非検討いただきたいと思います。

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