中国でコストコの「会員制」の強さ再認識

Costco 習慣

会員制、最近はやりの言葉でいうと、サブスクリプションの強さに注目した記事がありました。コロナ禍下でアマゾンやウォルマートなど他の量販巨人たちが四苦八苦している中、日本でも会員制量販店舗チェーンを展開しているコストコが増収増益を果たした強さに迫っています。

非常に単純な話ですが、顧客の全てが年会費を払っているためです。これがコロナ禍やウクライナ情勢などリスクオンの時代をものともしない強さの秘訣です。36Kr.com の記事をヒントに詳しく見ましょう。

強さの秘訣その1:収入に占める固定部分の割合が高い

当たり前ですが、年会費を前受けしているので、収入に占める固定部分の割合を高くできます。財務に詳しい人ならよくお分かりでしょう。キャッシュフローの観点でも、自由に使える現金が多いので、リスクオンの時代で臨機応変に手を打ちやすいのです。

最近やはりのサブスクリプション・モデル=会員制は何も真新しい話ではなく、昔から好例がいくつもあります。

例えば、昔 NTT が売っていたテレフォンカードがそうです。当時 The Economist がテレフォンカードが上手いところを記事にしていました。テレフォンカードは通話料を前払いする仕組みです。

企業が借入金・社債や株券を売ると、金融機関に手数料を支払わなければなりません。その上、債権者や株主に利子や配当を支払う必要があります。カードを作る費用は若干かかりますが、その点、テレフォンカードは無利子・無配当でよいのです。初期費用として金型代がかかったでしょうが、貨幣と異なり、どの金額のカードも形が全く同じなので、瞬きする間に償却できたことでしょう。

おまけに、カード表面にデザインを施せましたので、デザインがよいと通話しないのにテレフォンカードを買って集めるコレクタが現れました。彼らは、NTT に貢いでいたわけです。

転売市場もできました。人気のカードは額面以上の価格で取引されることもありました。通話すると、通話料に応じてパンチ穴が開く仕組みです。パンチ穴が開くと、高値で取引されることはありませんでした。切手収集と同じです。つまり、使われないまま死蔵されるテレフォンカードが積み上がっていったのです。当時、The Economist はこの無利子で発行する「債券」が NTT が持つ財務の強さだと報じていました。

強さの秘訣その2:対メーカ価格交渉力が強い

顧客から前払いで年会費を受け取り、現金を見せた上でメーカに直談判できます。そして、これという商品に絞ってドカンと大量に仕入れます。そのため、メーカもサプライチェーンが不安定な時期に納期維持が大変かつ、物価も高騰している最中でも、コストコを第一に考えて、価格を据え置いて安定供給してくれているようです。

現ナマのチカラ様様です。ビックカメラなどの家電量販店でも、決済方法で安い順もしくはポイントが多い順は、現金⇒デビットカード⇒クレジットカードの順です。

先ほどのキャッシュフローの考え方を取れば、当然の話です。現金を手にするまでの時間が長いほど、「こちらはその分を別のことに投資していれば、ちょっとの時間でも、利子なり投資なりで稼げたはずだから、その分余計に頂きますよ」というわけです。

加えて、「朝三暮四」的な心理が働いてきます。結果は同じでも、近い将来、このご時世何が起きるか分からないので、確実にもらえるものは先に多くもらっておこうと考えるわけです。行動経済学でいうプロスペクト理論でしょうか。コストコも相手を騙しているわけではありませんが、巧みに心理をついているとは言えるでしょう。

ちなみに、中国由来のこの「朝三暮四」という成語ですが、現代中国では意味が変わってしまっています。『标准教程 HSK 5 上』(北京語言大学出版)に元の意味が逸話とともに収められていますが、現代の意味は「一个人对感情不专一 / 気持ちが揺れ動く」ことを指すそうです。

場合によっては、前払いが得な場合もある

世の中には、逆の場合もあります。投資利回りの相場から考えて、前払いした方がどう考えても得だというものがあれば、積極的に前払いした方がよいでしょう。

例えば、国民年金保険料です。国民年金機構の「国民年金保険料の2年前納制度」のページを見ると、月々支払う場合が2年間で総額 397,320 円ですが、保険料を2年分前納すると、15,790 円の割引を受けられます。2年間の利回りが 3.97% です。金融機関に預貯金しても普通口座の場合、せいぜいが 0.001%です。国債でも変動金利10年物で表面金利が 0.16% です。安全資産という位置づけで金融商品として「買う」のであれば、預貯金でも国債でもなく、「国民年金保険料2年前納」です。

さらに言えば、国民年金保険料2年前納とは別に、「付加保険料制度」というものもあります。これは、毎月の月額保険料に +400 円を付加保険料として支払うと、年金給付を受ける際に、「200円×付加保険料納付月数」を付加年金として上乗せ給付が受けられるようになります。亡くなるまで永続してです。2年以上にわたって年金給付を受ければ、元が取れる仕組みなので、3年目以降たるや 50%, 100%, 150% …という驚異的な利回りです。

日本国の将来自体を憂うなら、米国 ETF か全世界 ETF を買えばよいです。最近はやりの FIRE ムーブメント (Financial Independent, Retire Early Movement) は米国 S&P 500 ETF と米国国債を 75:25 で構成したポートフォリオを前提としています。研究によると、このポートフォリオの過去実績は年利回り 5% です。これを 年 4% で取り崩して慎ましい生活をしていけば、資産を減らさずに永続的に経済的自由を得られるという寸法です。

この理論が将来に渡って正しいかどうかは長期に渡る追跡検証が必要です。しかし、ここで言う 5% を一つの目安にするのであれば、「国民年金保険料2年前納」という金融商品はまんざらでもありませんし、「付加保険料制度」は断然買いです。

顧客に継続して会員費を払ってもらえる仕組みがある

脇道に逸れたので、コストコの話に戻します。コストコの場合は会員費なので、商品やサービスが悪ければ、当然人心は離れていきます。そうさせない何かを持っていると考えるのが自然です。

典型的なサブスクリプション・モデルをとる Netflix の会員数がコロナ情勢が落ち着くにしたがって減ってきました。学校や職場に人々が戻ったので、巣ごもりしてコンテンツを見る時間がなくなったこともありますし、見飽きた面もあるでしょう。何人かがグループになって、1つのアカウントを使い回すようになったのも原因の1つとしています。

しかし、コストコが提供する商品やサービスは、Netfix のような娯楽ではありません。食品や日用雑貨なので、飽きることはありません。典型的消耗品ビジネスです。

とは言え、娯楽の要素がなくはありません。私も幕張に日本最初の店舗を開設した時に早速見に行きました。驚きました。肉牛が枝肉の状態でぶら下がっているではないですか。ポリバケツサイズのポップコーンが売っているではないですか。それがパレットを何段も重ねて堆く積んであったのです。ハーゲンダッツのアイスクリームもバケツサイズです。

米国のスーパーマーケットは、客がピックアップトラックで乗り付けて買って、ドデカい商品を荷台に乗せて帰るのがごく普通です。しかし、ここは日本だが…と思ったことを記憶しています。Ikea もそうですが、驚きと興奮を与えてくれる演出には違いありません。コストコが店舗を構える街に訪れた際は、是非立ち寄りください…と言っても、その前に会員券を作らなければなりません。

その会員券には本人写真が必要です。選ばれし者のみその門をくぐることができるのです。したがって、Netfix のようにアカウントの使い回しはできません。18 歳以上の同居家族1人だけ会員費無料会員として追加ができます。配偶者を想定した規定でしょう。何れにせよ、ユーザの特定が可能なのです。

コストコは一般消費者向け小売業を主戦場としています。この業界の性格が、実店舗に行かないと話が始まらず、会員本人であることを都度確認できる仕組みを持っていることが強みとなっています。会員費未払いの無銭飲食やただ乗りはすべからく捕捉されます。

その他にも会員費前払い効果として、「使わにゃ損」という心理を挙げることができるでしょう。アマゾン・プラムもそうです。2時間予約制の食い放題・飲み放題店で呑気に仲間と談笑しているのはもったいなくて、ついつい腹いっぱいになるまで飲んで食べてしまうのと同じ効果でしょう。

会員とも Win-Win

コストコが会員制によって随分得をしているのではないかと思えますが、実は会員の方にももちろんメリットがあります。百貨店をウィンドウショッピングする向きとは真逆のシンプルライフを送る人にとっては強い味方なはずです。他の小売巨人たちと同じく、コストコも実店舗だけでなく、オンラインショッピングも可能になっています。会員誌があって、四季折々のライフスタイル提案もしています。もちろん、商品を買ってもらうためですが。

記事にありました。「上海全面解封 / 上海のロックダウンが全面解除」後のことです。

解封日,一半人去上班,一半人去Costco。

36Kr.com “Costco为什么打败了世界第一”

誇張した言い方ですが、ロックダウン解除の日、半数の人は職場へ、もう半数の人はコストコに行った、という SNS の書き込みです。コストコに行くというのが一種の習慣化された行動なのでしょう。コストコは中国の地にもしっかり根付いて、地元の人々を魅了しているようです。

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