非常に簡単に食品から摂ることができるマグネシウムによって、脳の萎縮を防ぎ、認知症を予防できる可能性が見えてきました。メカニズム解明までにはまだ至っていませんが、おそらく脳内の炎症レベルを下げることに一役買っているようです。
マグネシウムの摂取量が多いほど脳の萎縮が少ない
オーストラリア国立大学の研究グループが UK Biobank に参加した 6,001 名の被験者のデータを基に、マグネシウムの摂取量と被験者のMRI画像から脳の灰白質と海馬の萎縮度との関係を明らかにしました。脳の灰白質はまさに脳神経細胞(ニューロン)がぎっしり詰まっている部分全般を指しています。海馬も同じですが、特に短期記憶を司ることでよく知られている脳の部位です。左と右に分かれています。
その結果によると、通常のマグネシウム摂取量(~350 mg / 日)の人と比較して、マグネシウム摂取量の上位4分の1の人(≧550 mg / 日)は、脳の灰白質が~0.20 %、右海馬が~0.46%大きいということが統計的に明らかになりました(参考文献1)。6,001 人分のデータの統計値ですので、十分信頼性が高い結果でしょう。
老齢期には、老化の影響で脳が萎縮していくのは避けがたいです。ですが、マグネシウムを大量摂取すると、脳の萎縮つまり脳細胞の自然死のスピードを遅らせることが可能だということです。
マグネシウムの効能はメカニズムがまだはっきりしない
これまでも、マウスの実験により、マグネシウムの量を多くすると、脳の老化スピードを遅らせることができることは示させていました。The End of Alzheimer’s という書籍の中でも赤血球中のマグネシウム量を 5.2-6.5 mg / dL に保つことで海馬を健康に保つことができることが記されています(参考文献2)。
この本の中で引用されている論文によると、Neurocentria 社が治験中で MMFS-01 と呼ばれるアルツハイマー型認知症治療薬が出てきます。シナプス密度を上げる効果が期待されている薬です。この薬は脳の中のマグネシウム濃度を上昇させるのです。
簡単にいうと、必須アミノ酸の1つであるトレオニンとマグネシウムの塩です。これまた必須アミノ酸のセリンで認知症を予防できるという話を以前紹介しました。この時も、トレオニンが出てきました。そうなのです、トレオニンは脳の健康によいものと連れ立って脳血管関門を通り抜ける仕事をするのです。脳にやたら異物が入って行かないように、脳血管関門でチェックが入るのですが、連れがトレオニンだと、安心して通してくれるのです。
ここまでは解明されているのですが、脳に入ったマグネシウムがどんな活躍をするのかは、はっきりとは分かっていないのです。酸化を防止し、脳内の炎症レベルを下げるのだろうという仮説が有力ですが、そのメカニズムまでは解明できていないのが実情です。
再び煮干しでマグネシウムとトレオニンを両方摂る
マグネシウム単独では脳血管関門を簡単には通らないが、トレオニンと連れ立ってなら簡単に入れるのでした。ということは、マグネシウムとトレオニンが両方含まれる食品が効果的であることが分かります。
煮干し、きな粉、海苔それぞれの可食部分100gに含まれるセリン、グリシン、トレオニンの量の棒グラフにマグネシウムも加えてみたのが下のグラフです。マグネシウムの量は3つの食品の中では煮干しが一番少ないですが、食べる煮干しとして摂れば、他の2つの食品よりも量を摂ることはできるでしょう。
煮干しは他にも、オメガ3脂肪酸の代表格で、こちらも認知症予防に効果が高いDHAを多く含みます。やはり煮干しは中高年にとってスーパーヒーローです。ちなみに私は、海藻と煮干しを酢に浸したものを納豆に混ぜて毎朝の朝食に食べています。ボケ撃退最強トリオです。
[参考文献]
- Khawlah Alateeq, Erin I. Walsh, Nicolas Cherbuin. Dietary magnesium intake is related to larger brain volumes and lower white matter lesions with notable sex differences. European Journal of Nutrition, 2023; DOI: 10.1007/s00394-023-03123-x
- Bredesen, Dale. The End of Alzheimer’s. (Ebury Publishing, 2017)
- Liu, G., J. G. Weinger, Z. L. Lu, F. Xue, and S. Sadeghpour. Efficacy and safety of MMFS-01, a synapse density enhancer, for treating cognitive impairment in older adults: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Journal of Alzheimer’s Disease 49: 971–990, 2016; DOI: 10.3233/JAD-150538
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