ボケ除けには赤い光

カメは万年 科学技術

ブルーライトは睡眠障害の元として邪険にされていますが、レッドライトつまり赤い光の方はどうでしょうか。とやかく言われていないので、悪者ではなさそうです。正義の味方でしょうか。いくつかの文献に目を通したところでは、どうやら正義の味方のようです。

赤い光は体によい

夜の時間帯にブルーライトを浴びると、概日リズムやサーカディアンリズムと呼ばれる体内時計を狂わせてしまい、人によっては睡眠障害を引き起こす可能性があるとされています。そのため最近では PC やスマホは夜の時間帯になるとブルーライトを抑える機能が標準装備しています。

では、レッドライトつまり赤い光の方はどうでしょうか。とやかく言われていないので、悪玉ではなさそうです。善玉でしょうか。いくつかの文献に目を通しましたが、言い切ってしまうにはもう少し大規模な人数の試験が必要ではないかと思いますが、どうやら善玉のようです。

なぜかと言うと、赤色から近赤外線の光はどうやら細胞の中にあるミトコンドリアの機能を高めてくれるようです。ミトコンドリアは細胞が活動するためのエネルギーを作り出すので、言ってみればエンジンの役割を担っています。それだけ重要な役割のものを手軽に元気にしてあげられるとしたら願ったり叶ったりです。

色覚が改善する

Nature 誌のScientific Report に掲載された論文によると、34歳から70歳の10人の被験者に朝の8時から9時の間に日光に含まれるよりやや強めの670nmの波長の赤い光を3分間見てもらったところ、平均で17%色覚が改善したそうです。しかも1週間その効果は持続しました(1)。

網膜にはたくさんの視覚細胞がありミトコンドリアが集積されていて、それらが活性化されることで色覚が改善するということです。ミトコンドリアは細胞のエネルギーとなるATP(アデノシン3リン酸)という物質を合成します。650~900 nmの波長の光は、ミトコンドリア内の ATP の汲み上げポンプのようなものの動きを滑らかすることが知られているようです。これがミトコンドリアの機能が改善する究極のメカニズムです。

そうすると、早合点して日光浴びればいいじゃないか、となります。しかしそれは問屋が卸しません。日光には確かに 650~900 nmの波長の光が含まれますが、ご存じのように日光は白色光ですので、他の波長の光も含まれます。論文では、ミトコンドリアは日光にも含まれる波長が 420 nm の光つまりブルーライトを非常によく吸収してしまいダメージを受けてしまうそうです。ですので、良いと悪いが行って来いでどっちつかずになるとしています。

しかし、日の出ぐらいの太陽ならば赤色をしているので、よいのではないかと思います。あとの問題は時間帯です。どうやら朝の8時から9時の間がミトコンドリアの業務シフトの変わり目のようです。この時間帯は日の出時間の随分あとなので、自然な光でどうにかするのは難しいそうです。ですので、論文の著者らは赤色LEDを電池駆動させるような簡単な器具を用意して、1週間に1度3分間赤色LEDを見つめれば十分としています。これを習慣化すると目の保養になるというわけです。これなら簡単にできそうです。それも面倒くさければ、朝の8時から9時の間に朝散歩してみてはいかがでしょうか?冬の間はこの時間帯でも太陽が十分低いところから照らしている関係で赤みがかっているので、ブルーライト少なめになっているはずです。

赤色から近赤外線の光が脳機能も改善してくれる

同じように赤色から近赤外線(633nm~810nm)の光を使って、Vielight 社というところは脳機能を改善する器具を売っています。彼らは Photobiomodulation と呼んでいて、やはり脳細胞のミトコンドリアがこの波長帯の光によって活性化することを示す論文を根拠にしています(2)。

赤色から近赤外線の光は『道具を上手に使えるようになると文法も得意になる…そして逆も然り』の回でも紹介したように、人体の比較的深いところまで届きます。ですので、この会社の器具はおでこから前頭葉に光を当てたり、鼻の穴から鼻腔の少し上にある脳幹辺りに目がけて光を当てたりしています。 洗濯バサミのようなクリップの先に赤色LEDを取り付けて、小鼻をクリップで挟んで赤色LEDを鼻の穴に突っ込んでいるので、会社のホームページを見ると、一見間抜けな感じに見えます。でもちゃんと医療機器として販売しているので本当に改善するのだと思います。効果を論じた論文を見ると、確かに使用中はアルツハイマー型認知症の診断に用いる認知機能テストのスコアがよくなっています(3)。

直接光で目に刺激を与える方式、目から直接ではなく、上記のようにVielight 社の装置のような鼻の奥を照らすものの他に耳の奥を照らす方法もあります。これらすべてひっくるめて信頼が置ける複数の論文からアルツハイマー型認知症患者を598人集めたメタアナリシスでも、体内時計を整え、睡眠の質が上がり、認知機能が改善し、その結果、介護者も楽になるということが、統計的に有意と言えるとのことです(4)。

ボケ始めたら試してみたいですが、残念ながらまだ日本では販売していないようです。

[参考文献]

  1. Harpreet Shinhmar, Chris Hogg, Magella Neveu, Glen Jeffery. Weeklong improved colour contrasts sensitivity after single 670 nm exposures associated with enhanced mitochondrial function. Scientific Reports, 2021; 11 (1) DOI: 10.1038/s41598-021-02311-1
  2. Karu TI. Mitochondrial signaling in mammalian cells activated by red and near-IR radiation. Photochem Photobiol. 2008 Sep-Oct;84(5):1091-9. doi: 10.1111/j.1751-1097.2008.00394.x. Epub 2008 Jul 18. PMID: 18651871.
  3. Chao LL. Effects of Home Photobiomodulation Treatments on Cognitive and Behavioral Function, Cerebral Perfusion, and Resting-State Functional Connectivity in Patients with Dementia: A Pilot Trial. Photobiomodul Photomed Laser Surg. 2019 Mar;37(3):133-141. doi: 10.1089/photob.2018.4555. Epub 2019 Feb 13. PMID: 31050950.
  4. Lili Zang, Xiaotong Liu, Yu Li, Jiang Liu, Qiuying Lu, Yue Zhang, Qinghui Meng. The effect of light therapy on sleep disorders and psychobehavioral symptoms in patients with Alzheimer’s disease: A meta-analysis. PLOS ONE, 2023; 18 (12): e0293977 DOI: 10.1371/journal.pone.0293977

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