ボケを吹っ飛ばすためにもっと手作業をしよう

脳 科学技術
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道具を使った手作業をすると、手先が器用になるだけでなく、脳の実行機能(executive function)も改善されるそうです。料理、掃除、衣服の繕い、楽器演奏や球技などもっと道具を使った手作業を日常に取り入れると、ボケを吹っ飛ばせそうです。

歩くのも大事だが、道具を使った手作業が直接効く

よく運動習慣が認知症防止になると言われます。ウォーキングなどの有酸素運動と筋トレなどの無酸素運動を組み合わせ行えば、認知機能の維持に役立つというわけです。その理由として、以下が挙がっています:

  • 脳の血行が改善して、必要な栄養や酸素が十分届くようになる
  • BDNF(脳由来神経栄養因子)が生成されて、記憶の中枢である海馬の脳神経細胞が活性化される
  • 脳と四肢との神経を通じた連携がよくなる

確かに理由を聞くと納得感があります。心肺機能を高めれば、生活習慣病予防につながり、ひいては認知症予防になる気がしますに、BDNFは多いに越したことはないでしょう。筋力を維持できれば、転倒リスクを下げられますので、寝たきり状態にならずに済むかもしれません。

しかし、若い頃には運動習慣がなくて、老齢期に差しかかって慌てて運動を始めても、どうも効果は薄いようです(「運動も瞑想もボケ防止には効かない?!」の回をご覧ください)。

つまり運動習慣と認知症との間には負の相関があることは事実でしょうが、若い頃の上記のような蓄積があり、認知症に罹っていないから、年を取っても元気に運動を続けられる、という因果関係なのかもしれません。

しかし、老齢期を迎えて慌てて始めても、まだ間に合うことがありました。それが今回のテーマ「道具を使った手作業」なのです。

釘挿し動作と TMT のコンビが実行機能を改善

茨城県在住で65歳から88歳までの高齢者 57v名を被験者として、釘挿し動作と TMT (Trail-Making Test)と呼ばれるテストを組み合わせた練習を習慣化したグループと普通の生活をするグループにグループ分けして実験は行われました。そして、手作業訓練を習慣したグループでは、手先が器用になるだけでなく、脳の前頭前野が司る実行機能(executive function)も改善することが分かりました。

この実験を行った筑波大学の研究グループによると、 fNIR (Functional Near-Infrared Spectroscopy / 機能的近赤外分光分析法) による測定で、実際に前頭前野の血中酸素濃度が上がることも確認できました(文献1)。

以前このブログでも紹介したことがある Stroop test の成績も上がりました。文字の色と実際の文字そのものが意味する色とが別の場合(例えば、「」)にも、文字の色を素早く言い当てることができるようになったのです。一般に、文字を読む場合よりも、文字の色を言い当てる場合に時間がかかります。その時間差が縮まったのです。

Stroop testの成績がよくなったのは、TMTの Bモードを練習に加えたからだろうと思います。Aモードが1、2、3…と25までランダムに連番された釘穴に数字の順番に釘を挿していく単純作業です。これに対して、Bモードは、連番の数字に加えてあいうえお順も取り入れたものです。ランダムに数字とひらがなが並べられていて、順序を崩さずに数字とひらがなの釘穴に交互に釘を挿していくのです。異なる2つの順列の間を行き来する必要があり、頭をその都度切り替える必要がある複雑な作業です。

手作業訓練を習慣したグループでは、AモードとBモードの処理速度差が縮まるとともに、Stroop testの成績もよくなったのです。

嫌がらずに家事全般をこなせば、ボケを防止できる

ちなみに、釘挿し手作業訓練は曜日を分けて利き手側だけでなく、利き手ではない側の手を使うことも取り入れられています。これがどのような効果があったかまでは切り分けられていないのが残念ですが、少なくとも手先の器用さを台無しにしたり、実行機能を阻害したりはしていないようです。利き手でない手を鍛えることを悪いことではなさそうです。

また、「道具を上手に使えるようになると文法も得意になる…そして逆も然り」の回で紹介したように、語学を側面から支援してくれるが何と道具を使った手作業なのです。

道具を使って、両手を満遍なく使うことが脳の働きをよくするのだとしたら、何も人為的に作られた手作業訓練でなくても、日常生活で嫌がらずに家事全般をこなすことでもご利益を得られるのではないでしょうか。

料理、掃除、衣服の繕いは私も取り入れています。そう言えば、「1食で完全栄養食」を作ったり、風呂やトイレの掃除をしたり、皿洗いをしたり、靴下に穴が開いたら針仕事をしたりと、いろいろ手作業を取り入れているなと思いました。

まとめ / Takeaway

  • 若い頃から運動習慣を持っていると、生活習慣病予防にも認知症予防にもなる
  • 老齢期を迎えてもまだ悪あがきはでき、それが道具を使った手作業である
  • 料理で手作業をするだけでなく、自分で自分の管理栄養士になることでも認知症予防に役立つ
  • 道具を使った手作業は語学上達にも効果的である

[参考文献]

  1. Jaehoon Seol, Namhoon Lim, Koki Nagata, Tomohiro Okura. Effects of home-based manual dexterity training on cognitive function among older adults: a randomized controlled trial. European Review of Aging and Physical Activity, 2023; 20 (1) DOI: 10.1186/s11556-023-00319-2

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