何を今さらという話ではありますが、目にするものが何か認識できていないと、それはボケの始まりです。今回は World Economic Forum の記事にあった長寿なのに頭がしゃっきりしている “Super-agers” とはどんな人たちなのかという話です。脳の視覚野が若々しいそうです。マルチリンガルの頭の使い方に関係がありそうです。マルチリンガル⇒ボケにくいの構図が見えてきました。
“Super-agers”とは?
“Super-agers” とは年を取っても、物忘れがひどくなく、ずばり言うと、頭がはっきりしている人です。
認知症予防協会という団体が、認知症自己診断テストを公開しています。テスト形式の関係上、音声を使った出題がないためもあるでしょうが、記憶力を問う出題の外、大半は見たモノを正しく認識できるかという出題になっています。
やってみると分かりますが、小学校お受験のような問題が多いです。認知症の高齢者のことを二度わらべと言ったりしますが、なるほど言い得て妙だという感じです。
“Super-agers”の脳の配線は多く複雑だが効率的
このブログで何度か出てきている fMRI で “Super-agers” の脳を観察すると、配線が多く複雑で、いろいろなところに接続されており、そのため配線の分だけ脳の体積が大きくなっているそうです。
しかも、複雑なだけでなら、混線してしまって正しい答えに簡単にたどり着くことができないので、複雑に接続しているけれども、効率的に配線されているそうです。
「ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止あれこれ(その2)」の回で紹介した「Cognitive reserve hypothesis; 認知予備力仮説」は、教育を受けた期間が長い人ほど認知症を発症する年齢を遅らせることができるという仮説でした。教育期間が長ければ、それだけいろいろなことを学んでいるわけですので、脳の配線も多く複雑になっていると期待できます。矛盾はなさそうです。
そして、「マルチリンガルが新しい言語を学ぶ時、脳の視覚野も使う!?」の回で説明したように、言語が違うと違う単語なわけで、それぞれ違う場所に記憶されますが、意味が同じなので、お互いにつながり合うのでした。多角形のつながりの数(辺の数+対角線の数)が増えるイメージで説明したように、学ぶ言語が多ければ多いほど、脳の配線は勢いよく増えていくことが期待できます。
「いろいろ悩んだ末の私の単語帳」の回で紹介した単語帳は、同じ意味の言葉が中国語、英語、ポルトガル語、スペイン語にときどき日本語も入って、1行に並んでいます。ですので、1つの意味を調べて(首尾よく覚えられれば)この5つの言語の辺の数+対角線の数ですので、全部で9本の配線が増える寸法です。冒頭の対角線も描いた五角形の図をご覧ください。きっとボケ防止に効くと思えませんか?
今回の記事では詳しく書かれていないので、効率的な配線というものがどういうものなのかよく分かりませんが、例えば同じ意味ならば、それぞれの言語の単語が脳の中で塊で正五角形に並んでいると効率がよさそうです。おそらく、別々に日本語は日本語の引き出し、英語は英語の引き出しという風には脳の中で収納されていないと思います。
やはり「4つ以上の言語を話す修道女の6%しか認知症を発症しなかった」は夢物語ではなく、現実に起こりうることなのでしょう。
“Super-agers” の脳の視覚野は若々しい
モノを見てそれが何か分かるというのは、脳の視覚野で覚えているものと目で見たモノとをパターン・マッチングして識別するということです。そのパターン・マッチングがうまくいかなくなると、そりゃ脳の中で「これかな?あれかな?」という状態になって、正しい判断もできなくなるでしょう。
ですので、光学系である目を悪くしないのはもちろんのこと、脳の視覚野を若々しく保つことが大事になるというのはうなずけます。では、どうすれば、脳の視覚野を若々しく保つことができるのでしょうか?この記事にはその点については触れていません。
私はこれに対しても外国語学習が効くと思っています。再び「マルチリンガルが新しい言語を学ぶ時、脳の視覚野も使う!?」の回を持ち出します。この回で紹介した論文が発見したことは、バイリンガルまでとは違い、3つの言語以上を使えるマルチリンガルになると、新しい言語を学ぶ時、脳の視覚野も活性化するのでした。
はい、できました。やはり、「4つ以上の言語を話す修道女の6%しか認知症を発症しなかった」のも当然の帰結ではないでしょうか。
“Super-agers” は意識して動作するのも得意
今回紹介の記事にはここまで書いていませんでしたが、”Super-agers”は意識して動作するのも得意と思われます。記事の中で “Super-agers” は中帯状皮質前方部(anterior midcingulate cortex / aMCC)が分厚いそうです。「中帯状皮質前方部」はどんな脳のどこにあって、どのような働きをするのかを説明している論文があります。
論文によると、脳の中のいろいろな部位につながっている高速道路のインターチェンジのようなところで、「よっしゃやるか!」と腰を上げる時のように、自分で意識して行動を始める時に最初に活性化される部位だそうです。そういうことなので、人間の意識はこの中帯状皮質前方部の近所に鎮座しているのかもしれません。
残念ながらこのややこしい漢字が並ぶ名称の部位は、「マルチリンガルが新しい言語を学ぶ時、脳の視覚野も使う!?」の回で紹介した論文の中で、被験者が外国語学習している時の活性化部位にはなっていませんでした。
でも、「よっしゃ、単語覚えるか!」と語学書を開く時には、きっと活性化することでしょう。
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