童謡「ホタルこい」は教えます:「ほう ほう ホタル来い あっちの水は苦いぞ こっちの水は甘いぞ。」これは水の塩分濃度の違いかも知れません。かなり減塩すると、ヒトでも甘く感じるそうです。この原理を上手く使えば、高血圧・高血糖とおさらばです。
ナトリウムではなく、塩素の方が甘さを演出
ご存じのように、食塩は塩化ナトリウム(NaCl)です。ナトリウムイオン(Na+)と塩素イオン(Cl–)が結合して結晶になったものです。通常、舌でしょっぱいと感じるのは、Na+ が舌にある味蕾の Na+ レセプターに結合して電気信号が発生し、それが味覚神経を伝って脳に届くからです。
ところが、塩分がある濃度以下になると、Na+ によって発生する電気信号よりも、味蕾にある別のレセプターに塩素イオン Cl– が結合して生じる電気信号の方が大きくなり、しょっぱさとは別の味覚として感じるようになるそうです。その味覚が甘さなのです。そして、そのレセプター(T1r2a/T1r3LBD)こそが甘さを知覚するレセプターなのです。
岡山大学の研究グループが行った実験によると、メダカの味蕾から抽出した甘味レセプターに塩素イオン(Cl–)が結合することが確かめられました(参考文献1)。味覚は魚類からヒトを含む哺乳類まですべて同じで、甘さ、旨味、にがい、塩辛い、酸っぱいの5種類なのです。ですので、メダカが甘いと感じたならば、ヒトも甘いと感じるはずというわけです。
マウスの味覚神経線維を使って反応を確認
上の実験結果だけでは、メダカなのでヒトとは遠い親戚で信じられないし、第一、実際に脳が本当に「甘い」と感じるのか怪しいものだと思う方もいらっしゃるでしょう。そこで次に、研究グループはマウスの味覚神経線維を使って反応を見ました。甘味レセプターにつながる味覚神経線維を使って、Cl– が結合すると、実際に電気信号が発生するのか確認しました。
結果は見事に電気信号を発生したのです。同じ濃度の砂糖に比べれば、10分の1以下の反応でしかありませんでしたが、確かに電気信号が発生したのです。実際、生きているマウスに甘さを感じる濃さのCl– を溶かした水溶液と普通の純水を用意し選ばせる実験をしたところ、やはり塩水を選択したのです。
これまでも童謡「ホタルこい」で「ほう ほう ホタル来い あっちの水は苦いぞ こっちの水は甘いぞ」歌われているように、甘いと感じる水があることが知られています。ナチュラルミネラルウォーターを飲んで甘いと感じたご経験をお持ちの方も多いと思います。そのメカニズムが初めて明らかになったわけです。
自分で実験
それならばと、自分で実験してみました。実験といっても非常に単純です。上記の実験では 10mM (Mはモル濃度の単位)の食塩水を使うことで甘いと感じていました。これを重量濃度に換算すると、大体 0.6 g/リットルです。ちょうど下の写真の量程度の食塩です。
この食塩を1リットルの水に溶かして、早速、浄水器の水と飲み比べてみました。確かに、しょっぱさは感じられず、ほんのり甘さを感じます。立ちどころに「甘い」と感じるほどではなく、浄水器の水と飲み比べて初めて舌の両サイドが「甘いかな」と感じる程度です。なるほど、ヒトでも確かに再現性はありそうです。
道理で水道水が塩素臭くないまでも甘く感じられる訳です。最近味付けを気を付けて薄くしている関係もあり、この微妙な味の感覚を感じてしまいます。
塩分控えめ、甘さ控えめの料理に応用できないか
原理が分かったところで、これを料理に応用できないだろうかと考えています。塩分控えめ、甘さ控えめの料理になるはずです。甘いは舌にある Cl– レセプターで甘いと感じます。一方のしょっぱいは Na+ レセプターでしょっぱいと感じるのでした。それぞれ別のレセプターを使っているので、甘いと感じる塩分濃度としょっぱいと感じる塩分濃度のちょうど境目辺りが、一番甘さとしょっぱさの両方を感じる塩分濃度のはずです。
太古には砂糖などありませんでしたから、古代人は塩を使って上手に甘辛い料理を堪能していたのかもしれません。味覚は個人差が大きいですので、各人がまさに自分にあったいい「塩梅」に塩の量を加減するしかありません。いろいろ薄味を試して、高血圧・高血糖と永久におさらばするつもりです。
[参考文献]
- Keiko Yasumatsu, Nanako Atsumi, Yuriko Takashina, Chiaki Ito, Norihisa Yasui, Robert F Margolskee, Atsuko Yamashita. Chloride ions evoke taste sensations by binding to the extracellular ligand-binding domain of sweet/umami taste receptors. eLife, 2023; 12 DOI: 10.7554/eLife.84291
コメント