ベッドや布団は要らないか?

Bed 科学技術

嫁が「最近ベッドで寝るより、カーペット敷の床で寝る方が快眠できるわ」と言うので、調べてみました。どうも単なる一個人の体験に止まらない理由がありそうです。

さすがに硬い地べたに寝るのは避けた方がよい

科学的根拠はまだまだ乏しいようですが、24 の論文をメタアナリシスした結果をまとめた論文によると、あくまで被験者個人の主観的感覚として、柔らかめ、中間の硬さ、硬め、個人用しつらえの4段階で中間の硬さが最も高評価という結果でした(論文1)。評価点は腰痛を和らげてくれるか、背骨の姿勢を正してくれるか、熟睡できるかという3点です。

ですので、さすがにフローリング床やコンクリート打ちっぱなしの床などに寝るのは止めておいた方が無難そうです。若い頃に終電に乗り遅れて、アスファルトの道路の上で眠るようなこともやりました。その頃は結構熟睡できました。とは言え、肩甲骨、尾てい骨、骨盤など、体の硬くて飛び出ているところに集中して圧力がかかるので痛いですし、健康にいいかというとそんなことはないでしょう。

ただし、硬い床の上で寝る利点があります。自由に寝返りが打てることです。寝返りを打てないと、一定の姿勢で固定されてしまうので、骨格にとってよくないばかりでなく、「枕は本当に必要か?」の回で触れたように、仰向けになって寝た場合、一番下の腰の筋肉に脊椎や臓物が重しになってのしかかり、腰の筋肉の血行を阻害するのです。

先の論文の被験者たちも寝ている間に自由に寝返りを打うにはそれなりの硬さが必要です。しかしながら、体の特定の部位(仰向けの場合は肩甲骨と尾てい骨、横向きの場合は肩と骨盤側面)が圧迫されると、不快感を感じずにはいられません。おそらく、自由な寝返りと圧迫を受ける不快感を両天秤にかけて釣り合いが取れた選択として、中間の硬さが一番に選ばれたのでしょう。

上野動物園に行くと、ゴリラの生活をつぶさに見ることができます。彼らは昼食を摂ると、決まってどこか寝心地のよいところを探して横になって寝そべります。地べたに直に横になるゴリラもいますが、大抵は草地の上に行ったり、木の上に登ったりします。草地はゴリラの体重だと押しつぶされそうですが、多少なりと柔らかいでしょうし、身を隠すにも打ってつけです。野生の知恵といったところでしょうか。

日本ではベッドは疑問、布団はOK

ある程度硬いものの上に寝た方がよいことが分かりました。そうすると、ベッドの上で寝る必要が本当にあるかということに考え至ります。マットレスは分厚いです。わざわざ硬くしたいなら、何も分厚いものである必要はありません。

日本以外の多くの国・地域では、家の中を土足で歩き回わります。欧米、中国、ブラジル、東南アジア、私が行ったことがある所ではみんなホテルの中は土足でした。衛生面の考慮として、床よりかなり高い位置に寝床を設ける必要はありそうです。

では、日本はどうでしょうか。日本の家屋では家の中に入る際に靴を脱ぎます。最近のマンションは気密性に優れているので、床の掃除をこまめにやっていれば、床が塵芥にまみれるということもありません。

そうなると、わざわざ分厚いマットレスとして中程度の硬めのものを選んでまでしてベッドで寝る必要性を感じられません。ハーバード・メディカル・スクールは、腰痛緩和の方法としてマットレスの下にベニヤ板を忍ばせたり、マットレスを床に直置きして硬めにすることを勧めています(記事)。

こう考えてみると、日本においては、床が清潔に保たれているので、床に直に横たわっても別段不都合はなさそうです。ということは、古来からある布団で十分なのではないでしょうか。まさに、ハーバード・メディカル・スクールが言っている「マットレスを床に直置き」にするのと何ら変わりありません。

布団であれば、好みに合わせて硬さのアレンジが容易です。硬いものが好きならば、中古でせんべい布団を手に入れてもいいでしょう。少々柔らかい方がいいということであれば、新品を買ったり、せんべい布団を二枚重ねてもいいでしょう。綿を打ち直してもらうという手もあります。この融通無碍な柔軟さが布団の利点です。

カーペットの床なら、布団でなくてもよいかも

調査依頼主の嫁に対して回答する時が来ました。私が導き出した答えは、「ベッドは不要、布団がよい。しかし、骨の出っ張りが痛くないのであれば、カーペット床で寝て問題なし」です。

人生の3分の1は眠っているので、それなりにお金をかけて睡眠環境を整えることは大事です。睡眠の質・量とも認知機能に影響しますので、なおさらです。とは言え、費用対効果は十分に検討する必要があります。不必要なものまで買い揃えてしまうとなると、本末転倒です。

今回分かったことは、日本の住空間ではベッドは不要ということです。インテリアとして欠かせないということでなければ、ベッドを捨てることで部屋が随分広く感じられるようになると思います。断捨離につながり、いいことかもしれません。

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