バイリンガルは年老いても、とっさに判断できる

脳 科学技術
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バイリンガルの脳は、年老いても物事を瞬時に正しく判断できるようです。しかも流暢さが鍵です。流暢ささえ手に入れたら、認知症にならないために取るべき行動としてよく挙げられる運動、教育、経済的豊かさ、交友関係などに関係なく、ボケにくいというのです。

バイリンガルはひっかけ問題に強い!?

先頃発表された論文によると、バイリンガルは “Flanker task” と呼ばれる一種の視覚的なひっかけ問題に強いようです(1)。Youtubeに “Flanker task” の解説ビデオがありましたので、紹介します。興味がある人はご覧になってください。

“Flanker task” は単純な課題です。矢印が横一列並んでいる中で、真ん中の矢印の向きを答える問題です。大体の人は、全部の矢印が左に向いたり、右に向いたりしていると間違えることなくその向きを即座に答えることができます。一方、真ん中の矢印の向きだけ左右に並ぶ矢印の向きと違うと、ヒトは一瞬戸惑うようで、判断に若干時間がかかります。この時間が速いほど、想定外の事態が起こった際のとっさの判断力が高いというわけです。

別の論文では、バイリンガルがとっさの判断力が高いということを別の方法で確かめています。こちらは”Flanker task”とは別の”Partial Repetition Cost task” と呼ばれるテストを使っていますが、被験者に判断を惑わすような課題を課すという点は同じです。結論だけ記すと、例えば”Flanker task”のような、本当に判断に迷う左右があべこべのような場合は、確かに判断に若干時間を要しますが、それとは関係ない位置関係、例えば上下が変わっても、それを無視して的確に判断できるようです。一方、母国語の1か国語のみを話す人では、課題とは関係がない変化も敏感に感じ取ってしまい、判断するのに時間がかかってしまうのです(2)。

確かに、友達と談笑しながら街を歩いていて、突然、外国人の方に英語で道を尋ねられたとします。バイリンガルなら即座に日本語の頭から英語の頭に切り替えて受け答えることができるでしょう。バイリンガルは、この例に限らず、いろいろな状況で同じように素早く判断できるようです。

バイリンガルは年を取っても、とっさの判断力は衰えない

先ほど紹介した “Flanker task” を平均 65 歳弱の 64 人に受けてもらいました。母国語が英語で、それとは別の言語を外国語として習得した人と英語以外が母国語で英語を外国語として習得した人が混じっています。「高齢者」に片足かけた世代ですが、真ん中の矢印の向きだけ左右に並ぶ矢印の向きと違う場合でも横一文字に矢印の向きが揃っている場合とさほど違わない時間で正解を答えられました。

論文の中では詳細を触れていませんが、ロシアと英国の大学の共同研究なので、おそらく英語とその他のヨーロッパ語との組み合わせのバイリンガルだと思います。

ですので、似たような綴りだけれども、この言語とあの言語とでは違う発音になることや話す場合に動詞の語尾変化が異なる、といった紛らわしいことが多いと思います。その中で、英語であれば一貫して英語として流暢に話せるのがバイリンガルです。なるほど、紛らわしいものをとっさに判断する能力が脳に求められるわけです。

論文の著者も述べているように、次に何を調べるのがよいかとなると、近い言語の組み合わせのバイリンガルの方が、このとっさの判断力を養うのによいのか、遠い言語の組み合わせの方がよいのかでしょう。予想としては、近い言語の方が紛らわしいので、近い言語同士の組み合わせのバイリンガルの方がとっさの判断力が高いだろうと思います。

語学歴の年数より流暢さが効く

論文の中では、とっさの判断力に寄与するのは、語学歴の年数かそれとも流暢さかという違いも調べています。当たり前と言えば当たり前ですが、語学歴の年数よりも流暢さの方がとっさの判断力に寄与します。実は他の指標として、外国語にどれぐらい晒されているかという度合も調べたのですが、こちらはまるでとっさの判断力に寄与しませんでした。

ということは、単に外国語を聞き流しているだけでは、とっさの判断力向上にはつながらないのが分かります。このことから、語学をやるにしても、聴く読むのインプットというよりも、話す書くのアウトプット力を鍛える必要があることが分かります。結局流暢さという場合も、話す書くというアウトプットに現れます。

外国語の流暢さは何にもまして、認知力の維持に寄与する

今回の論文が伝えたかったことが、外国語の流暢さは何にもまして、認知力の維持に寄与するということです。64人の高齢者の入口のみなさんに、従来から認知能力維持に役立つ属性について、事前にアンケート取っています。高度な職業、配偶者の有無、経済的豊かさ、運動、助け合い、学歴、余暇活動、人付き合いについても関係性を調べています。この辺は、「ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止あれこれ(その2)」の回で別の論文を使って説明しています。ご興味があれば覗いてみてください。

結果は、何と上に挙げた従来から認知能力維持に役立つ属性がどうあれ、外国語が流暢なだけで十分だったのです。外国語が流暢でさえあれば、 “Flanker task” の真ん中の矢印の向きだけ左右に並ぶ矢印の向きと違う場合でも、横一文字に矢印の向きが揃っている場合とさほど違わない時間で答えられたのです。つまり、とっさの判断力がよかったのです。

この論文を読んで決めました。日本語に近くて紛らわしい言語というと、同じ漢字を使う中国語でしょう。「分別」など、書くと同じですが、読み方も意味も日本語と中国語で違います。中国語を真面目にアウトプット練習して流暢になります。

[参考文献]

  1. Gallo F, Kubiak J, Myachykov A. Add Bilingualism to the Mix: L2 Proficiency Modulates the Effect of Cognitive Reserve Proxies on Executive Performance in Healthy Aging. Front Psychol. 2022 Jan 31;13:780261. doi: 10.3389/fpsyg.2022.780261. PMID: 35173660; PMCID: PMC8841471.
  2. Grace deMeurisse, Edith Kaan. Bilingual attentional control: Evidence from the Partial Repetition Cost paradigm. Bilingualism: Language and Cognition, 2023; 1 doi: 10.1017/S1366728923000731

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