ノンアイロンシャツの光と影

non-iron shirt 科学技術

私は好んで Brooks Brothers のノンアイロンシャツを着ています。圧倒的に手入れが楽で長持ちするからです。10 年経ってもまだ着られるほどです。100% 綿と裏腹にいつまでも褪せないシャキッと感が魅力です。公開情報はありませんが、生地を化学処理しているのでしょう。

ノンアイロンシャツ=形態安定加工シャツ

ノンアイロンシャツというと、古くは綿とポリエステルの混紡生地でできたものが多かったです。それはそれで画期的でした。しかし、安価な短繊維で撚った綿糸ですとしっかりしていないので、綿が先に毛羽立っていき、それをポリエステルの網が支えるような見た目になっていくのがよろしくありませんでした。

そうこうしているうちに技術革新があり、タグを見ると100% 綿と書いてあるにもかかわらず、洗っても形が崩れたり、皴にならないシャツが出てきました。見るからに生地がテカテカしているので、表面加工をしていることが分かります。

公益財団法人 日本繊維検査協会の「品質問題(なんでも)Q&A」によると、形態安定加工や形状記憶加工と呼ばれる処理です。大きくは2種類の方法があるようです。

1つ目は SSP 加工 (Super Soft Peach Phase Process) と呼ばれるものです。綿は植物ですので、セルロースでできています。液体アンモニアはセルロースによく浸透します。十分に浸透させたところで、樹脂でセルロースとセルロースの間を熱処理で結合させ橋を渡します。こうしてできた生地を高熱プレスするそうです。この時に形状を記憶させるわけです(参考文献1)。

もう1つが VP 加工 (Vapor Phase Process) と呼ばれるもので、ホルムアルデヒドのガスを綿の生地に浸透させて、セルロースとセルロースとの間にメチレン結合により、ゴムのような伸縮性がある橋を架ける方法です(参考文献2)。

代表的な2つの方法以外にも PP 加工(Permanent Press Process)というものがあり、綿の生地を樹脂液に浸して乾かしてから、その後形を付けるため高温でプレスします。

Brooks Brothersの100%綿ノンアイロンシャツは?

Brooks Brothers の 100%綿ノンアイロンシャツがどちらの方法を取っているのは不明です。上記で説明した方法を取ると、仕上がり品はすべてセルロース同士を樹脂で架橋した構造もしくは樹脂を外骨格とする構造になるので、大なり小なり表面に光沢が出てくるはずです。

しかし、Brooks Brothers の 100%綿ノンアイロンシャツは光沢がありません。一方で、明らかに樹脂を使っていると思われるように綿がもたらす自然な柔らかさはありません。ちゃんと通気するので、PP 加工でないことは間違いないと思います。

SSP 加工か VP 加工のどちらかと思います。ホルムアルデヒドの規制が緩い米国の企業なので、VP 加工かもしれませんが、ホルムアルデヒドの規制が厳しい日本でも販売しているので、定かなところは分かりません。

ホルムアルデヒドはシックハウス症候群の原因物質ですので、目を刺激したり、頭痛や湿疹を惹き起こしたりします。私は肌が弱い方なので、もしホルムアルデヒドが含まれていたら、湿疹になって表れても不思議ではないのですが、愛用して 20 年ぐらいになりますが、今のところ影響はありません。

今のところ、便利さ>健康影響

アイロン不要あるいはアイロンがけしても簡単に済み長持ちするという便利さと健康影響懸念を秤にかけて、今のところ、私は便利さの方を取っています。人それぞれですので、試してみて合わないと思えば止めればよいことです。何事もそうですが、試行錯誤して合うものを探してみてください。

[参考文献]

  1. 大場 正義. 形態安定加工「スーパーソフトピーチフェーズ(SSP)」. 繊維機械学会誌, 1972
  2. 伊藤 博. VP加工による形状記憶シャツ. 表面技術, Vol.46,No.11,1995

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