ラテン語系の人称代名詞は3通りの人称と単数/複数の2通りを掛け合わせ6通りあります。所有形容詞になると、名詞の単数/複数と男女性別による語尾変化の4通りも加わり、原理的に24通り存在することになります。英語は楽です。次点がスペイン語です。
各言語の所有形容詞まとめ
では早速、各言語の小数点表現をまとめた表をご覧ください。今回はラテン語系の所有形容詞の数がいかに多いか示すために、ローマ帝国の流れを汲み、宗家格のイタリア語も参照しました。
ローマ帝国の軍門に下った順に数が多い
Wikipediaの「古代ローマ」を見ると、それぞれの地域がローマ帝国の軍門に下った順を調べることができます。それによると以下です:
紀元前190年 イベリア半島の地中海海岸沿い(リスボン含む)
紀元前 40年 フランスほぼ全土(パリ含む)
西暦 20年 イベリア半島全域(マドリード含む)
西暦 70年 グレートブリテン島の南半分(ロンドン含む)
その地域がローマ帝国の軍門に下ったと判断する基準を現在の各国首都がある場所と考えると、
ポルトガル⇒フランス⇒スペイン⇒イギリス
の順と考えることができます。これらの国の現在の首都はブラジルのブラジリアのような人工都市ではなく、おそらく古代から人が住みやすく人口が自然と集まりやすい土地柄だったと考えました。そうすると、そこが各国の標準語を発信する場所と考えるのが自然でしょう。
表にフランス語を入れませんでしたフランス語の所有形容詞の数は18通りです。形容する名詞の単数/複数による違いがない分、全24通りより少なくなっています。
では、所有形容詞の数の順に言語を並べて見ましょう。
イタリア語(21)>ポルトガル語(20)>フランス語(18)>スペイン語(14)>英語(6)
どうでしょうか。カッコ内の数字が所有形容詞の数です。見事に歴史的に首都を取られた順に並んでいることが分かります。
所有形容詞の数の少なさは英語に負けるが、スペイン語が次
英語はラテン語というのは微妙ですし、ラテン語系の影響を大いに受けるのはもっと後世になって、フランスの干渉を受けた結果、単語レベルでフランス語を外来語として取り込んできた側面もあるでしょう。ですので、所有形容詞がローマ帝国の影響を受けたかどうかはちょっと微妙かもしれません。
しかし、ポルトガルとスペインの方はイベリア半島丸ごと完全に属州になっていますので、明らかに影響が大きいはずです。しかし支配を受けた年代の差によって、その影響度に違いがでてきたことが考えられます。
ポルトガル語は宗家イタリア語に肩を並べるぐらいの数の所有形容詞が今もあります。一方、スペイン語の所有形容詞は随分簡略化されています。一人称、二人称とも、形容する名詞の性による語尾変化がありません。おそらく土着の言語の影響をより多く残しているためでしょう。
ポルトガル語もスペイン語も宗主国以外は簡略化が進む
そのポルトガル語もスペイン語も一度本国を離れて、新大陸で根付いた結果、一気に簡略化が進みます。簡略化のターゲットにされたのが二人称です。
ブラジル・ポルトガル語では、二人称がほぼなくなって、三人称の “você” を主に使っています。você には所有形容詞がないので、形容する名詞の性に関わらず “de você” を名詞の後ろにつけます。二人称複数形では “de vocês” です。その結果、所有形容詞の数は16に激減します。
中南米の国のスペイン語の方は、二人称複数の所有形容詞は使いません。三人称複数の人称代名詞を使って “de ustedes” となります。その結果、所有形容詞の数は10に激減します。英語には及びませんが、覚えなければならない数がかなり少なくて済みます。
Duolingo はブラジルのブラジル・ポルトガル語と中南米のスペイン語をベースにして、かなり簡略化された所有形容詞に絞って選択と集中をして学習コンテンツを作っています。本場ポルトガルのポルトガル語や本場スペインのスペイン語を学びたいという向きには物足りなさを感じるかも知れません。
しかしそこは、人口や国数から考えて、費用対効果がある方に特化するのは妥当な選択だと思います。
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