ジェスチャーを交えて単語を覚えると定着がよい…かもしれません

ジェスチャー 科学技術

心と体はお互いに作用しています。仏教でも「心身一如」という言葉があるように心と体は切っても切れない関係です。ヒトが言葉をプログラミング言語として動くなら、体を動かすには言葉が必要でしょう。逆に体を動かすと頭の中で言葉がポンと出てくるとしても不思議ではありません。ドレスデン工科大学がそれを裏付けました。

心と体は切っても切れない仲

脳を鍛えるには椅子に座って机の上で脳トレをやるより、運動、特に有酸素運動をするのがよいなどとよく聞くようになりました。考えてみれば、動物の中で現代人だけが少し変わっていて、体を使う作業と頭を使う作業が別々になっています。デスクワークが最たるものです。

狩猟採取生活をしていた太古まで遡らなくても、20世紀の前半ぐらいまでは農作業で食料を作って、日々の生活も食事の支度から掃除、洗濯までみんな人力でやっていたわけです。それが20世紀後半辺りから心と体は一心同体という関係が崩れてきたために、現代病と言われるようないろいろな心神や体の不調を訴える人が増えてきたのかもしれません。

ヒトは言葉で動き、動くことで言葉を発する

ヒトが言葉をプログラミング言語として動いているとすると、体を動かすには言葉が必要でしょう。その逆で、体を動かすと頭の中で言葉がポンと出てくるとしても不思議ではありません。ドレスデン工科大学が実験をしてそれを裏付けました。

被験者を以下の2つのグループに分けて、それぞれ外国語の単語を覚えるトレーニングを4日間にわたり受けてもらいました。

  • 単語に関係する身振り手振りを交えて単語の音声を覚えるグループ
  • 単語に関係する写真を見て単語の音声を覚えるグループ

そして、覚えた外国語単語の音声を聞いて母国語に翻訳するテストを受けました。翻訳の最中に、単語に関係する身振り手振りを交えて単語の音声を覚えたグループの被験者たちに対してちょっと意地悪をしました。TMS(Transcranial Magnetic Stimulation)と呼ばれる頭蓋骨越しに磁気刺激を与える装置で頭の外から脳にある腕の動きを司る場所に磁気を与えました。

磁気は2種類用意します。1つは腕の動きに影響を与える磁気で、もう1つは腕の動きに何も影響を与えない性質の磁気です。

そうしたところ、 腕の動きに影響を与える磁気を頭に浴びせられた被験者は、身振り手振りを使えずに金縛り状態になったかのように、外国語単語を母国語に翻訳するにも時間がかかったのです。一方、腕の動きに何も影響を与えない性質の磁気を頭に浴びせられた被験者にはそんなことは起こらず、何の磁気を浴びせない時と同じスピードで外国語単語を聞いて母国語に翻訳できたのです。

単語に関係する写真を見て単語を覚えたグループはいうと、腕の動きに影響を与える磁気を頭に浴びせられる意地悪をされても、外国語単語を母国語に翻訳するに何の支障もなかったそうです。

これだけ聞くと、身振り手振りのジャスチャーを交えて覚えると、逆に覚えた時と同じ条件にしてあげないと思い出すのに苦労するということも考えられます。論文の著者は身振り手振りのジェスチャーを交えて覚えた方が物覚えがよくなる可能性があると言っていますが、実際そうなのか知りたいところですね。もどかしいですが、次の実験ではそれを証明することを期待します。

もし身振り手振りのジェスチャーを交えて覚えた方が物覚えがよくなるのだとすると、ラテン系の人たちは会話の中で身振り手振りが必ず入りますので、普通に外国語取得能力が高いのかもしれません。

具体的なモノの名前だろうと、抽象的な言葉だろうと同じ

おもしろいことに、具体的な「バイオリン」のようなモノの名前だろうが、抽象的な「民主主義」という言葉だろうが結果は同じだったそうです。

被験者たちが身振り手振りで「民主主義」をどう表現したのか興味深いです。また、「民主主義」という概念がない国の人たちを被験者にした場合はどういう実験結果になるのか興味深いです。モノの場合でも、例えば「雪」を知らない南国育ちの人たちの場合はどういう実験結果になるのでしょうか。母国語でも頭で理解できないものは、外国語にしたらさらに縁遠いものになるでしょうから、翻訳以前にそもそも覚える段階でつまずきそうですね。

再び「心と体は切っても切れない仲」

最後に心と体は切っても切れない仲だという話の関連で『データの見えざる手』という書籍を紹介します。2014年に出版されたものですが、今でもとても面白い内容と思います。著者が自身を含めてたくさんの人にウエラブルセンサを着けてもらい、四六時中体の動きと心の動きをモニタする実験をした結果分かったことを紹介しています。

みんなが動きセンサを内蔵したスマホを持ち歩くのが当たり前になる時代以前に、 動きセンサを使って実験した結果、体をよく動かす人は幸福感が高いという法則を見けました。また、体をよく動かす人がいると、周囲の人たちも自然と体を動かすようになり、周囲の人たちも感化されて幸せと感じるようになるそうです。

「体」といいましたが、何も手足だけでなく「口」でも同じことが言えるようです。本書の中でコールセンターに勤めるオペレータの話が紹介されています。休憩所で活発な会話をしているチームは受注率が高いというデータが取れたそうです。そうだとすると、おそらく仕事にやりがいを感じるだろうし、幸せと感じても不思議ではないでしょう。

我々が主観的に感じるハピネスとは、この集団的な身体運動の活発化にともなって生じる感覚(おそらく後付けで生じる感覚や意識)だと考えると、実験事実はつじつまがあって理解できる。

矢野和男『データの見えざる手 ウエラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』草思社

コロナ禍で三密を避ける生活が続くと、なかなか集まって会話する機会がないですが、在宅勤務中にスマホ片手に家の中を歩き回りながらビデオチャットするのでもよいので、ヒトとヒトの意思疎通を絶やさないようにすることで、活発な人からエネルギーをもらうと幸せになれるのではないでしょうか。

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