ゴボウが取り持つ夫婦円満

ゴボウ 科学技術

最近、我が家でゴボウがブームになっています。嫁は「首が痛い」、私は「膝の裏が痛い」としかめっ面がしばしばだったのが、ゴボウを食べ始めてから両名ともそれが明らかに減りました。水溶性食物繊維が腸内フローラを整え、体を抗炎症側に倒してくれるかではないでしょうか。

ゴボウは有用な食物繊維リッチ食材の代表格

まだまだ分からないことだらけの食物繊維です。ひと口に食物繊維といっても水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分類されます。植物性のセルロースや動物性でエビカニの殻を作るキチンなどの不溶性食物繊維は腸の掃除をしてくれるモノです。これから研究が進み、新らた発見があるかもしれませんが、今のところはその程度の扱いです。

一方、水溶性食物繊維は最近の腸活ブームでもてはやされています。それもあって、自然界ではあまり存在しないけれでも、人工的に作ったものや自然のものを加水分解して小さな分子にしたものなどがサプリメントとして売られています。しかしちょっと待ってください。サプリメントで摂るのもいいでしょうが、素材そのもので優れたものはないでしょうか。

探しました。ありました。それがゴボウです。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維のどちらも豊富です。根っこですので、土の中で下へ下へと根を生やすのに、硬い不溶性食物繊維のセルロースで身を固めるのは当然です。水溶性食物繊維が豊富なことは意外と知られていないかもしれません。

中でも非常に有用なのがイヌリンです。水溶性食物繊維広しといえども、自然界でイヌリン以上に発酵分解率が高いものはありません。イヌリンに匹敵するのは、インドやパキスタンで食べられているグアー豆に含まれるグアーガムをもっと細かく低分子に分解したグアーガム分解物ぐらいで、何と100%です(1)。

そのイヌリンがゴボウにどれぐらい含まれるかというと、3.5~4%も含まれているのです。ニンニク(6~9%)は量を食べられませんし、タマネギ(2~6%)は量を食べられますが、あまり食べ過ぎると、体臭やおならの臭いが気になります。その点、ゴボウはそのような弊害はありません。

老化防止の味方ポリフェノールも豊富

ついでに言うと、灰汁が強く、切るとすぐに黒ずみますが、これはポリフェノールがたくさん含まれているということでもあります。抗酸化作用に優れているわけです。ポリフェノールは皮に多く含まれているので、できるだけ皮を残して灰汁抜きをせずにたべるのがよいです。

ですので、うちで嫁がやっているのは、ピラーで皮を剝ぐのではなく、泥を洗い流した後に、鍋洗い用の金属たわしで表面をゴシゴシやる方法です。自分でやる時は包丁の背を使いますが、できるだけ皮の残すように軽く撫でるようにしています。

皮を養生しているだけで、あの香ばしさとフルーティーさが混然一体となった香りが立ち込めてきて、その香りをかぐと、条件反射でお腹が減ってきます。何ともゴボウに飼い慣らさせてきているようです。

歴史は語るーかつてゴボウが不幸を招いた

そんなゴボウですが、近代史で不幸な時期もありました。

第二次世界大戦中に連合国軍側の捕虜にゴボウを供したことが、捕虜虐待だとして、東京裁判で裁かれたという逸話があります。日本などの東アジアの国々しか食べないモノなので、食文化の違いではありますが、食べ物の恨みは怖いという最たる例でしょう。

ゴボウ・ラバーからすると、「どうしてあんなにおいしいものが不幸を生んだのか…」という印象です。寿司、天ぷら、刺身は海を渡りました。火を通さないと安心できない中国の方も、今では普通に寿司や刺身を食べますし、ブラジルでもサケとマグロの寿司は人気で、シュラスコ店のオードブルコーナーに置いてあります。スウェーデンでさえスーパーマーケットのお惣菜コーナーに寿司パックが置いてありました。

でも、ゴボウは見たことがありません。ブラジルのとある街に日系三世ぐらいのブラジル人が経営する和食店がありました。おでんや肉じゃがなど日本とそう変わらない味で提供してもらえるので、1か月ぐらい滞在しているうちで週に1度は足を運んでいました。そんな店でもゴボウはありませんでした。そもそも手に入らないのでしょう。

世界的に地中海食か日本食かというぐらい健康食の代表格としてもてはやされているにも拘わらず、ゴボウ・ブームはとんと起きません。

体の慢性炎症が鎮まった、そして笑顔あふれる

夫婦でゴボウを食べ続けていると、お互い段々体の調子がよくなってきているのがよく分かります。笑顔で会話する機会が増えたからです。嫁は「首が痛い」、私は「膝の裏が痛い」としかめっ面がしばしばだったのが、ゴボウを食べ始めてから両名ともそれが明らかに減りました。

水溶性食物繊維は全般的に腸内フローラのビフィズス菌や酪酸菌などの善玉菌のエサになるのですが、中でもゴボウに多く含まれるイヌリンは発酵分解率が100%と高いのです。イヌリンが分解されると、人体に有用な短鎖脂肪酸がたくさんできます。

酢酸、プロピオン酸、酪酸とある短鎖脂肪酸の中でも一番注目されているのが酪酸です。酪酸には炎症を抑えるはたらきがあります(2)。おそらく、これが慢性炎症になっている嫁の「首」や私の「膝の裏」に効いているのではないかと考えています。

でも食べ過ぎにはご用心を

しかし、そんな優れもののイヌリンも摂取量には用心した方がよいようです。8人の男性と10人の女性を対象に行われた研究で、平均1日に30gも摂ると、今度は炎症を引き起こして、肝臓にも影響することが分かりました(3)。

この研究ではサプリメントで純度が高いイヌリンを投与しているので、極端な結果が出ているのだろうと思います。また個人差もありましたので、必ずしも全員が摂りすぎ注意ということでもないようです。

何れにせよ、イヌリン30g換算で言うと、1日にゴボウを750gも食べなければなりませんので、普通の人は食べられない量でしょう。ですので、安心してゴボウを召し上がってください。

[参考文献]

  1. Inulin:イヌリン, 浅桐 公男, 外科と代謝・栄養 54 巻 3 号 2020 年 8 月
  2. 経腸栄養における食物繊維の役割について, 天江 新太郎, 日本重症心身障害学会誌第43巻 1号 63 〜 69(2018)
  3. Samuel M. Lancaster, Brittany Lee-McMullen, Charles Wilbur Abbott, Jeniffer V. Quijada, Daniel Hornburg, Heyjun Park, Dalia Perelman, Dylan J. Peterson, Michael Tang, Aaron Robinson, Sara Ahadi, Kévin Contrepois, Chia-Jui Hung, Melanie Ashland, Tracey McLaughlin, Anna Boonyanit, Aaron Horning, Justin L. Sonnenburg, Michael P. Snyder. Global, distinctive, and personal changes in molecular and microbial profiles by specific fibers in humans. Cell Host & Microbe, 2022

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