クリスマス・チャートを10倍楽しく聴く方法

Christmas 語学

近年のクリスマス・チャートで歴史的異変が起きています。全英シングル・チャート “The Official UK Top 40 singles chart” で Wham! の “Last Christmas” でも Mariah Carey の “All I Want For Christmas Is You” といった定番曲でない楽曲が1位を獲得しています。

定番曲の牙城、クリスマス・チャート

毎週のように全英シングル・チャート “The Official UK Top 40 singles chart” を聴いています。アーティストたちが世に問うた楽曲が競い合い、毎週目まぐるしくチャートの順位が変わります。ところが、毎年クリスマス・シーズンになると、判を押したように同じ曲がチャートの上位にずらりと軒を並べます。

日本で元旦に神社へ初詣に出かけると、鳥居から本殿までの参道にずらりと屋台や露店が軒を並べるのはよく目にします。子どもたちにとっては、屋台や露店などの出店は見るもの聞くものが目新しく、好奇心をそそられます。関西だけでなく全国区になって長いたこ焼きやお好み焼きやりんご飴にスーパーボールすくい…どれも定番です。しかし、大人にとっては真新しいものではありません。

これに似た感覚に囚われるのがクリスマス・チャートです。初詣の出店は、年1回なので、懐かしさが最初に来て、初詣の列が長く本殿までの道中随分待たされると、段々見飽きてうんざりします。子どもにせがまれ、根競べに負けて、結局、出店の品に手を延ばしたりします。ただ、本殿で初詣したいだけなのですが…

クリスマス・チャートを最初から最後まで聴くというのも、この初詣の道中で起こる騒動ともそっくりです。「この曲知ってる。聴き飽きた」と思ってもわざわざスマホのプレーヤを早送りしてまで飛ばそうとはせず、やっぱり聴いてしまいます。

昔は紅白歌合戦≒クリスマス・チャートだったのですが、最近は毎年曲を入れ替えて新鮮味を出す努力をしているので、たとえに使えません。ですので、まだ風習として廃れていない初詣を持ち出しました。これほどまでに定番曲に占拠されてしまうのが、クリスマス・チャートなのです。

定番のクリスマス・ソング

定番曲なので、古典あるいは不朽の名曲ではあります。何度聴いてもいい曲だと感じ入る曲もあります。例えば、Paul MacCartony の “Wonderful Christmastime” (1979年)、 John Lenon & Yoko/Plastic Ono Band の “Happy Xmas (War Is Over)” (1971年) や Elton John の “Step Into Christmas” (1973年) などは大御所中の大御所たちの古典です。

2022年時点で Elton John は “Step Into Chrismas” 以外にも、Ed Sheeran と共演しているその名もズバリ “Merry Christmas” (2021年) と2曲も Top 40 に入っています。

チャートに2曲入っているのは、Elton John 以外にもう一人います。故 Geoge Michael です。”Careless Whisper” という名曲を持っています。チャートに名前が載らないので、気がつかない人も多いと思います。Band Aid の名曲 “Do They Know It’s Christmas” (1984年) でしっかり歌っています。そして何よりも、Andrew Ridgeley と結成したデュオ Wham! で 1984 年に “Last Christmas” です。この曲を世に送り出してこの方実に 40 年近くの間、クリスマスと言えば、チャートの1位か悪くて2位かに君臨しています。まさに世紀を超えて歌い継がれた不朽の名作中の名作です。

先ほど、 “Last Christmas” が「チャートの1位か悪くて2位かに君臨」と言いましたが、王座を脅かし続けたのが、Mariah Carey の “All I Want For Christmas Is You” です。1994 年の曲ですが、この曲が世に送り出されてからは、むしろこちら方が万年チャート1位と言った方がよいでしょう。

個人的に一押しなのは、Sia の “Snowman” (2017年) です。クリスマスの新古典になってほしい曲です。ジャズっぽさが気に入っています。歌詞は簡単に要約すると、「辛い中でも死ぬまで共に手を携えて生きていこう」という夫婦愛を歌ったものでしょう。MV は心温まる粘土人形のアニメです。

MV とは別に、私の歌詞の解釈として「ハリネズミのジレンマ」とも受け取りました。何せ Snowman (=雪だるま)夫妻なわけですから、恋焦がれたり、熱愛したり、温かすぎる家庭を築いてしまうと、溶けてなくなってしまいます。ですから、お互い全身針を張り巡らさせたハリネズミの夫婦が寄り添い合おうにも寄り添い合えないのと同じです。ぼっと燃えて(溶けて)なくならないためには、不即不離の関係がちょうどよい関係なのだということを示唆しているのでしょう。味がある曲ではないですか。

クリスマスソングはアーティストの年金

聖なる夜に下世話な話になりますが、こうして見てみると、クリスマスソングは一発当てると、アーティストにとっては金の卵を産む鶏になります。初詣の屋台や露店は自分で働かなければならないので大変ですが、クリスマスソングは著作物なので、どこかで再生されれば、再生1回につき幾らかの著作権料が入ります。

出店の店主にとって、初詣は書き入れ時ですが、真冬の寒い中で働く一番忙しい時でもあります。一方、アーティストにとってクリスマスは自分で歌わなくても、再生数次第でそれなりの収入を得ることができるわけです。近年注目のリカーリングビジネスそのものです。必ず毎年懐に入ってくるので、年金と言ってもいいでしょう。

Wizzard の “I Wish It Could Be Christmas Everyday” (1973年) ではないですが、アーティスト本人たちこそが心底そう思っているかもしれません。Ariana Grande が 2014 年に “Santa Tell Me” を引っ提げてお歴々の間に割って入りました。このような番狂わせがあってはならないのです。

近年のチャートに歴史的異変が…

近年のクリスマス・チャートは、 Wham! の “Last Christmas” や Mariah Carey の “All I Want For Christmas Is You” を押しのけて別の曲が1位に輝くということが続いています。

その仕掛人が Mark と Roxanne Hoyle 夫妻の Ladbaby です。”We Built This City” (2018年)、”I Love Sausage Rolls” (2019年)、”Don’t Stop Me Eatin'” (2020年) 、”Sausage Rolls For Everyone” (2021年) に続き、とうとう 2022年に5年連続1位になりました。 Band Aid の “Do They Know It’s Christmas” をパロディーにした “Food Aid” です。あの The Beatles が 1963年から1967年にかけて4年連続1位を達成した金字塔記録を塗り替えたのです。

彼らの曲は全てパロディー曲です。”Sausage Rolls For Everyone” も “Merry Christmas” のパロディーです。 Elton John と Ed Sheeran がソーセージ・ロールの着ぐるみを着て友情出演しています。見るからに滑稽です。募金活動の一助にもなりますのでご覧になってください。日本でいう歳末助け合い募金、あるいは日雇い労働者の街、大阪・釜ヶ崎の歳末炊き出しの募金活動として行われています。

2022年の “Food Aid” の元曲 “Do They Know It’s Christmas” は、それ自体が言わばチャリティーソングの先駆けのような存在です。当時、全英の有名アーティストが集まって歌い、演奏しました。同時期にこの曲の精神を引き継いで、全米の著名アーティストが集まった USA For Africa の “We Are The World” (1985年) という歴史に残るチャリティーソングの代表格も作られました。

真の意味での「打倒クリスマスソング」はいつ

確かにチャリティーソングの意義は重要です。ですが、本当の意味で「打倒クリスマス・チャート」を実現する曲を聴いてみたいとも思っています。クリスマスとはまるで関係ない曲です。それが Taylor Swift の “Anti-Hero” になるのではと考えていました。しかし、結果はクリスマスが訪れる前までに失速してしまいました。

Taylor Swift は”ex”が英国人でしたし、押しも押されぬスーパースターです。そして、歌詞は影が差した内容ですが、ノリのいい楽曲に仕上がっていました。条件は揃っていたと考えていました。彼女もクリスマス・チャートを占拠することを内心考えて、この時期にシングルをリリースしたのではないかと憶測していました。しかし彼女をもってしても果たせませんでした。

クリスマス・チャートで「打倒クリスマスソング」はいつ現れるのでしょうか。Taylor Swiftは Time の ” 2023 Person of the Year” に選ばれました。この余勢を駆って何か起こしてくれることを期待しています。

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