年を取ると、若い頃とは必要な栄養が変わっていくようです。コロンビア大学の研究によると、「物忘れが多くなったな」という向きには、カカオに含まれるフラボノイドの一種が効くようです。何年も継続的に摂取が必要ですが、試してみる価値ありです。
物忘れは海馬の働きが衰えている
「あれをやってから、これをやろう」と計画していたのに、気付いたら先に手元の「これ」をやっていたという経験もお持ちではないでしょうか?私もよくあります。これは短期記憶の部類なので、海馬の働きが衰えているのです。記憶術の達人が人を驚かせるのは、この海馬の働きが良いからです。
認知機能のテストの中で、いくつかの単語をある一定時間眺めた後に、直後ではなく10分、20分後に覚えているか確かめるものがあります。記憶術の達人なら、全問正解するところですが、常人はそうはいきません。しかし、他の人よりも「物覚え悪いな」という自覚があるなら、海馬が弱ってきている証拠かもしれません。
海馬の脳神経細胞は脳神経細胞にしては珍しく、増やせることが知られています。しかし、十分な血液が通うことで必要な栄養が届かないと当然育ちません。その栄養が BDNF (brain-derived neurotrophic factor) と VEGF (vascular endothelium growth factor) と呼ばれるものです。BDNF の方が海馬の脳神経細胞を育てる肥料で、VEGF のほうが BDNF を届けるための血管を成長させる肥料です。
カカオに含まれるフラボノイドの一種 “フラバノール” が効く
ではどうすれば、BDNF や VEGF を海馬の肥やしとして活用できるのでしょうか。そこに一枚噛んでいるのが、カカオに含まれるフラボノイドの一種 “フラバノール” であることが、コロンビア大学の研究チームの3年に及ぶ大規模な試験で明らかになりました。
3,562 人の被験者は平均年齢 71 歳の高齢者です。彼らを無作為に2つのグループに分けて、片方にはカカオ由来のフラバノールのサプリメントを摂取してもらい、もう片方には偽薬を摂取してもらい、3年間の認知機能の推移を観察しました。
その結果、フラバノールは脳の前頭葉が持つ実行機能には何のご利益もありませんでしたが、海馬が持つ短期記憶機能には効果がありました。ただし、特定の人たちでした。それは、毎日の食事にそもそもフラバノールが足りていない被験者たちです。
フラバノールが足りていない下位3分の1の層に特に効果が高かったのです。3年後には、偽薬を摂取したグループに比べて、テストのスコアが 10.5% が高くなり、結果を見る限り、フラバノールが十分足りている人たちと違わない程度にまで回復しました(文献1)。
フラバノールの中でもエピカテキンに注目が
本研究でフラバノールが十分足りていれば、それ以上に摂取しても効果がないことも明らかになりました。フラボノイド>フラバノールと的を絞ってきたのですが、フラバノールにもいろいろあり、中でもエピカテキンが最も効き目があるのではないかと目されています。
本研究にカカオが選ばれた理由は、エピカテキンが一番多く含まれている食品だからです。実際、別の論文を見ると、フラバノール全般と比べて、エピカテキンが一番多く含まれているカカオがマウスの血液循環を最も高めることができています。一酸化窒素(NO)を生成して、血管を若返らせる効果があるのです(文献2)。
カカオ以外の食品にも、フラバノール、特にエピカテキンを多く含むものとして、リンゴ、ベリー類、ブドウがあります。お茶にも含まれていますが、エピカテキンよりはカテキンが多いです。
結局カカオを摂取すればよいのでは
結局効率を目指せば、水分が多い果物で摂取するよりも、カカオ豆を数粒、あるいはカカオニブをスプーン1杯食べるので十分なようです。日本チョコレート・カカオ協会によれば、ココアパウダー10g程度で十分でそれ以上摂取しても効果が薄いらしいです(文献3)。
「カカオ豆をそのままいただきましょう!」の回で紹介したように、私の場合はカカオ豆を毎食そのままガリガリ食べています。顎の筋肉も鍛えられて、ちょうどよいかと考えています。
[参考文献]
- Adam M. Brickman, Lok-Kin Yeung, Daniel M. Alschuler, Javier I. Ottaviani, Gunter G. C. Kuhnle, Richard P. Sloan, Heike Luttmann-Gibson, Trisha Copeland, Hagen Schroeter, Howard D. Sesso, JoAnn E. Manson, Melanie Wall, Scott A. Small. Dietary flavanols restore hippocampal-dependent memory in older adults with lower diet quality and lower habitual flavanol consumption. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (23) DOI: 10.1073/pnas.2216932120
- Osakabe N. Flavan 3-ols improve metabolic syndrome risk factors: evidence and mechanisms. J Clin Biochem Nutr. 2013 May;52(3):186-92. doi: 10.3164/jcbn.12-130. Epub 2013 Apr 19. Erratum in: J Clin Biochem Nutr. 2013 Jul;53(1):73. PMID: 23704807; PMCID: PMC3652297. DOI: 10.3164/jcbn.12-130
- 日本チョコレート・ココア協会:http://www.chocolate-cocoa.com/lecture/q4/
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