本場イタリア料理はれっきとした地中海食です。しかし、日本で安価に食べられる「イタ飯」はちょっと違うと思います。「イタ飯」に限らず、外食が脳をハックする仕組みとそれを避けるにはどうすればよいか、そして頑張っていただきたい点を考えてみました。
がんばれイタ飯
先ず簡単にイタ飯屋さんに是非頑張っていただきたい点をまとめました。ボケ予防と健康長寿に効果的と絶賛されている地中海食として期待してのことです。
- 前菜のサラダは緑黄色野菜多め
- 主菜は肉よりも魚介類
- 主食はグルテンフリーか全粒粉パスタが選択可能
- 味付けは塩分控えめ
- デザートは低糖度で食物繊維が豊富な果物
が嬉しく思います。順に見ていきたいと思います。
前菜のサラダは緑黄色野菜多め
トマトは確かに緑黄色野菜です。しかし、一般に外食のサラダに共通しますが、レタス、キャベツ、キュウリなどの淡色野菜が多いと思います。仕入れコストやどれぐらい日持ちするかなど切実な課題があるのでしょう。
難しいところではありますが、緑黄色野菜を増やしてビタミン・ミネラル面そして食物繊維の量を増やして栄養価を高めていただきたいところです。それから体が酸化ストレスを受けて錆びつかないためのファイトケミカルです。
植物は同じ場所に生えていて動けないので、日光を避けることができません。そのために光合成に必要な以上の日光からの害を防ぐためにいろいろな色素を作ります。これらがファイトケミカルと呼ばれる一群の化合物です。
日光のエネルギーは強烈で、特に紫外線などの波長が短い光ほど高いエネルギーを持ちます。これらが体を構成する物質に当たると、電子を弾き飛ばしたりして、酸化が起こるのです。電子が奪われる化学反応が酸化です。
そこにファイトケミカルがやって来ると、電子を与えてくれるのです。つまり物質が還元されるわけです。緑黄色野菜の色は、ファイトケミカルに光が当たってその弾みで電子が飛び出した時に、特定の色の光が吸収されます。人はその白色の中でその色だけがなくなった色=補色を色素の色として認識するです。
話が脇道に逸れましたが、体の中で電子を奪われて酸化された物質に飛び出した電子が宛がわれると、還元されて元通りの正常な状態に修復されてめでたしめでたしとなるのです。
主菜は肉よりも魚介類
地中海食の良い点は、魚介類が多いことでしょう。肉が悪いわけではありませんが、脂身の質を考えると、飽和脂肪酸が多い牛肉や豚肉よりも不飽和脂肪酸、とりわけオメガ3脂肪酸に当たるDHA(ドコサヘキサエン酸)が多い魚介類を摂る方が健康にとっていいのです。DHAのメリットについては「お奨めの魚はサバ」の回で調査記事を掲載していますので、併せてご確認ください。
不飽和脂肪酸はヒトの体温で液体として存在して、組織の柔軟性を保ったり、血液の流動性を上げてサラサラにしてくれるなど、いろいろな役割をします。飽和脂肪酸は牛肉や豚肉の切り身を見ても分かるように、皮下脂肪として何か不測の事態が起きた時の備蓄エネルギー源です。
しかし過ぎたるは及ばざるが如しで、皮下脂肪を貯め込む白色脂肪細胞がサイトカインやアディカインと呼ばれる物質を放出して、免疫細胞の一種ですが、慢性炎症を引き起こす性格を持つマクロファージを活性化することが知られています(1)。
飽和脂肪酸の他にもオメガ6不飽和脂肪酸も同じように慢性炎症を引き起こす作用があります。オメガ6不飽和脂肪酸は必須脂肪酸ですが、オメガ6不飽和脂肪酸を主成分とするサラダ油で肉を焼いたり揚げたりした料理は、過剰摂取になりうるので、アレルギーがちな人はなるだけ避けた方が無難です。
内臓脂肪にもなると、次元が変わってきます。フォアグラは確かに美味しいですが、あれが自分の体の中にあると脂肪肝です。処理し切れない脂肪で肝臓がパンク状態なわけです。おまけに臓器が脂肪細胞に羽交い絞めにされて、慢性炎症の近距離パンチを浴びせられるようなものでしょう。
オリーブオイルのカルパッチョ風サーモンなど、サラダ油を使って加熱するのではないメニューが望まれます。
主食はグルテンフリーか全粒粉パスタが選択可能
パスタ自体はGI値と呼ばれる糖質をどれだけ素早く体が消化吸収できるかという数値が低い食材です。そういう点では血糖値スパイクを抑えられてよいのですが、糖質が多い食品であるは間違いありません。
もう一つの課題が小麦製品共通のグルテンです。グルテン過敏症ではない普通の人でも、何かしらのアレルギーを持っているならば、グルテンフリーを試してみることをお勧めします。腸内フローラが改善してアレルギー症状が軽減することが知られています。
グルテンフリーパスタを供するイタ飯屋を見つけるのはかなり難しいのは事実ですが、皆無というわけでもありません。最近では売り文句になってきているので、採用するお店も増えるとよいと思っています。グルテンフリーというと、モチモチ感がなくて味気ないものかとも思われがちですが、トウモロコシ粉と米粉とでできたスパゲッティはモチモチしておいしいです。お試しになるとよいと思います。
グルテンフリーが難しいのであれば、全粒粉パスタでもよいかと思います。全粒粉であれば、血糖値スパイクをさらに抑える効果が期待できます。
他にも、小麦は他の穀類と比べ突出して多くのグルタミン酸が含まれています。グルタミン酸はうまみ成分です。グルタミン酸が体内でグルタミンに変わると、血液脳関門を通ることができるようになります。グルタミンは脳に入ると、多幸感を生むホルモンとされるドーパミンの分泌を促進することが知られています。
糖質が分解したブドウ糖ももちろん脳のエネルギー源になるので、血液脳関門を通ります。そもそもドーパミンを作るのにブドウ糖がエネルギーとして必要なので、ドーパミンの分泌に一役買っています。
パスタは塩ゆでしますが、塩分=塩化ナトリウム、その中でもナトリウムイオンが実はドーパミンの分泌を促進します。
こう見てくると、パスタ(同じ小麦製品のパンやピザもですが)を食べると、なぜ幸福感に包まれてもっと食べたくなるのかが分かります。ドーパミンは出ている時は気持ちいいのですが、切れるともっと欲しくなる常習性を生むのです。それを刺激する物質が3つも入っているわけです。
うちの子が小さな頃、事あるごとにマルゲリータピザを食べたがった理由がよく分かります。トッピングが少ないマルゲリータはストレートに小麦の常習性を引き出して、小麦製品を止められなくなるわけです。ラーメン屋さんがコンビニと同じぐらい街中に立ち並ぶ理由もここにあるのでしょう。
味付けは塩分控えめ
ということで、せめて塩分だけは控えめでお願いしたいところです。
随分昔にカナダのとある川でマス釣りをしたことがあります。
海に下る種類なのかどうかもう忘れてしまいましたが、ガイドの方が川辺で釣ったマスを鉄串に刺して、味付けもせずにそのまま焚火で焼いてくれました。どうやって食べるのか聞いたら、そのままかぶりつけというので、食べてみたところ、ちょうどいい塩加減でした。
その時、淡水の川で釣ったマスであっても血液に含まれる塩分だけで結構塩気を感じられるのだなと思いました。野生のビーバーが巣の手直しをしている光景を見ながらのワイルドな昼食は格別でした。
無理に塩で味付けをしなくても大丈夫です。続けてやっていると、直にそういうもんだと舌も慣れます。生野菜サラダもそうです。ドレッシングなどかけずにそのまま食べてみてください。続けてやっていると、素材の野菜がそれ自体味を持っていて、こんなにおいしいものかと発見することになると思います。
デザートは低糖度で食物繊維が豊富な果物
コース料理の最後はデザートです。デザートには何がいいでしょうか。スイーツでしょうか?いやいや。先ほど来述べてきたように、前菜から主食まで如何にあなたの脳内でドーパミンがたくさん出てもっと食べたいと言っているかがお分かりになったかと思います。
それを踏まえて、小麦粉と砂糖と飽和脂肪酸をふんだんに使ったケーキなどのスイーツを食べれば、その後はどうなるかお分かりになるでしょう。
デザートには甘みが少なくて食物繊維が豊富な果物がよいと思います。そのような果物として、リンゴ、アボカド、ベリー類やキウイなどが打ってつけです。メニューで果物が選べると嬉しいですね。
地中海食本来の健康パワーを得られるようなイタ飯を期待します。
[参考文献]
- 西山 和宏, 藤本 泰之, 中嶋 秀満, 竹内 正吉, 東 泰孝, 代謝性疾患における脂肪酸とマクロファージによる炎症応答とのクロストーク, 日本薬理学雑誌, 2017, 149 巻, 5 号, p. 200-203, 公開日 2017/05/09, Online ISSN 1347-8397, Print ISSN 0015-5691, https://doi.org/10.1254/fpj.149.200
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