ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止あれこれ(その2)

カメは万年 科学技術

世界経済フォーラムがいろいろな論文にも言及して認知症予防方法のまとめ記事を出しています。認知症リスク下げるためには3つの要因があるそうです。その3つとは、高学歴、運動習慣、高収入です。

高学歴、運動習慣、高収入は認知症リスクを下げる

前回に続き、今回は世界経済フォーラムの認知症防止まとめ記事をもとに認知症予防方法について調べました。

世界経済フォーラムがコロンビア大学が行った研究成果を題材にいろいろな論文にも言及してまとめ記事を出しています。コロンビア大学の論文が認知症リスク下げる3つの要因を見つけています。それが教育受けた期間が長いほど、運動習慣があるほど、そして年収が 400 万円以上あることだそうです。順に見ていきましょう。

高学歴

「そりゃあ高学歴だったら、高収入でしょう。同じこと言ってない?」と思うでしょう。私もそう思いました。皆さんそう考えるので、純粋に高学歴か高収入か分けて考える必要があります。 そこで、別の論文で教育受けた期間が長いほど認知症リスクを下げられることを示しています。メタ・アナリシスという方法を使って、似たようないくつもの論文のデータを寄せ集めて大きなデータサイズにすることによって、統計的により信頼のおける要因を見つけ出しています。

この論文は「Cognitive reserve hypothesis; 認知予備力仮説」の裏付ける結果を示しています。簡単にいうと、どこか一定の閾値を下回ると認知症と診断されるとします。このとき、老化で認知力が衰えていく率が同じであれば、最初に持っている認知力が高いほど閾値を下回るのは遅くなるでしょうということです。傾斜が同じ滑り台なら、高いところから滑り降りる方が長い時間滑っていられますよね。

有病率、発症率ともに教育受けた期間が長いほど低いことが分かりました。例えば通算6年、例えば通算8年といろいろな期間で何年以上と何年以下という二分法で評価した個々の論文を数十本まとめると、低学歴の人の有病率は2.61倍高く、発症率は1.88倍高いという結果です。大抵の人は小学校から大学までの間に学校教育を受けているわけですので、若い頃に蓄えた「認知予備力」が年を取ってからもモノを言うということは驚きです。

教育受けた期間が長い方ほど亡くなった後に解剖すると、脳の中のダメージが大きいそうで、これもどこか一定の閾値があることを物語っているとしています。

運動習慣

研究者は参加者に運動習慣に関するアンケートに答えてもらって、13点満点で点数をつけました。点数が高いほど、参加者はより活動的であることを意味します。軽度認知障害のない人は平均7.5点、軽度認知障害のある人は7.4点とやや低い点数でした。認知症の人は5.8点でした。

これも有名な論文で、有酸素運動をすると、脳の中で短期記憶を司る海馬が大きくなることを示したものを支持する結果になりました。脳細胞は細胞分裂せず、一生ものというのが常識でした。コロコロ細胞が変わったら確かに長期記憶が保てないでしょうね、きっと。しかし短期記憶を受け持つ海馬の細胞は再生します。有酸素運動をすると、細胞の再生を促す BDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor; 脳由来神経栄養因子)がより多く分泌されるようになり、再生どころかドンドン細胞を増やして海馬を大きくすることもできるそうです。実際、ロンドンのタクシー運転手の海馬は普通の人よりも大きいそうです。タクシー運転手なので、こちらは有酸素運動で海馬が大きくなったわけでなく、道を覚えるのがそれだけ負荷になって、海馬の細胞をより多く必要とするのでしょう。

付け加えると、運動習慣だけでなく、人との関わりも認知症リスクを下げる上で重要です。

高収入

年収が 400 万円以上ある人はそうでない人よりも 2 割も認知症になるリスクを下げられるそうです。単純に医療サービスの恩恵を授かりやすいということでしょう。ここら辺は米国という国柄も影響しているのではないかと思います。米国は国民皆保険ではありませんので、自分で医療保険に入らなければなりません。あるいは会社が保険会社と契約してくれる場合もあります。何れにしても、保険料を払ってくれる人としか医療保険契約を結んではくれませんので、日々の生活に四苦八苦しているような低収入では難しいでしょう。

この辺は日本の場合は事情が違いますし、必ずしもお金をかけた方が健康になるというわけでもありませんので、日本の同種の研究が欲しいところです。私がやっている 16 時間断食ダイエットや糖質制限ダイエットはむしろお金がかかる飽食生活からオサラバする方法なので、むしろお金がかからない上に現に体調が良くなっています。ボケ防止にも効果的だと思います。お勧めです。このような生活習慣が普及すると、認知症予防をお金をかけずにできるようになり、いつかこの項がなくなるでしょう。

自助努力ではどうにもできない遺伝子要因「APOE ε4」

本当は認知症リスクを下げる要因というよりかは、認知症リスクが上がる要因がもう1つあります。遺伝子です。APOE ε4と呼ばれるもので、これを持つ人は認知症リスクが 18% 上がります。しかしそう言われても、今の世の中では大の大人の遺伝子を根こそぎ入れ替える方法などありませんので、自助努力のしようがありません。

少しだけ触れますと、このブログで何度か引用している『アルツハイマー病 真実と終焉 / The End of Alzheimer’s 』という本の中で、この APOE ε4 を持っている人は、アルツハイマー型認知症を発症させる原因とされるアミロイドβを作りやすいのだそうです。APOE の4種類の型のうち ε4 という型は、何かにつけて外からの異物を排除する方に働きかけをする攘夷派なわけです。免疫細胞に異物を撃退するための物質を出すように促します。

そしてその働きの1つとして、ニューロンに生えているタンパク質の突起の切り方を決めています。このタンパク質の突起は切り方によって、ニューロンの再生材として使われたり、アミロイドβになったりします。アミロイドβは鳥もちのようにねっとりしていて、脳内に入ってきた異物を巻き取る働きが本来の姿です。まさに免疫の一端を担っています。量が少ない分にはそうやってお掃除屋さんとしての役割を終えて、寝ている間に脳髄液で洗い流されていきます。しかし、量が多くなってくると、洗い流されずに残ってしまい、ニューロンにへばりついてその働きを邪魔しだすというわけです。

このように、APOE ε4 は勧善懲悪のアクション映画のヒーローのように、いろいろな武器を持ち出してきてバンバンぶっ放すので、関係ないのにガソリンスタンドを爆発させたりして、正常な細胞も傷つけて炎症を起こしてしまいがちな奴です。

ですので、悪役がいないファンタジー映画を制作しなければなりません。外からの異物という環境要因を取り除いて、でっかい銃を携えたヒーローの出番をなくさなければならないのです。これが唯一できる自助努力です。「ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止あれこれ(その1)」で取り上げていますので、そちらをご覧ください。

もう少し詳しいメカニズムの話を知りたい方は、本書をご覧ください。原書の画像リンクを貼っておきます。

そんなに人は変われない

高学歴は別にすれば、「ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止あれこれ(その1)」で紹介した認知症リスクを高める 12 の要因にしても、今回の運動習慣と高収入にしても昔の生活に戻ればよいということじゃないかというのが実感としてあります。産業革命以降の世界はそれ以前に比べて激変していますが、人はそんなに変われないということでしょう。

しかしそれは難しいですね。たくさんの人を養うにはやはり社会が分業して効率を高めて富を築き、それを再投資するということを繰り返して経済成長を目指さないといけないので、単純には昔の生活に戻れないです。ただ、常習性が強い悪い習慣(飲酒、喫煙、糖質過多)は避けて、常習性が強くても良い習慣(人によりますが勉強、エンドルフィンの効果で誰でもハイになれる運動)は身につけるようにしたいところです。

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