ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止あれこれ(その1)

カメは万年 科学技術

今回と次回合わせて2回に分けて、ここ最近の認知症の未来予測とボケ防止記事・論文をあれこれ漁ったので紹介します。

日本の認知症増加率は世界一低い

The Lancet Public Health 誌に掲載されたワシントン大学による 推計ですと、2050 年の認知症患者数は1.53億人に達します(2019 年時点では0.57億人)。これは世界人口が増える影響と世界的な少子高齢化の流れをかけ合わせたものです。随分増えるような印象ですが、年齢ごとの人口比でいうと将来もほとんど変わらないと予想しています。

ちなみに日本は 2019 年に 4,117,308 人だったのが、 2050 年には 5,237,201 人になる予想で 27% 増です。日本はこれからますます少子高齢化が進んで総人口が 1 億人を割り込んでいくと思いますので、人口比でいうともう少し増加率が高いと思います。とは言え、増加率 27% は論文の表を上から下まで見る限り一番低い値です。あとで紹介する認知症リスクを高める 12 の要因と照らし合わせると、結構な割合の人が小学校から大学までの長い学校教育を受けていることを第一に挙げていいでしょう。それから、食生活が急激に西洋化しているとはいえ、米国の健康誌 Health発表の「世界五大栄養食品」の一つ、大豆を使った納豆や味噌などの発酵食品は今でも親しまれていて、和食のよい部分が結構残っています。生活水準が高く国民皆保険制度を敷き医療が充実しているおかげも考えられます。

二番手が 37% のブルガリアです。イメージ的にヨーグルトをよく食べて腸内フローラが整っているからなのかと思い調べましたが、言うほどヨーグルトの消費量は多くありませんでした。認知症にかかりにくい理由は謎です。ただし、米国の CIA のウェブサイト The World Factbook で確認すると、人口の半分を占める女性の構成割合が35~75歳辺りでだいたい同じ比率になっているので、今から 30 年後も今のトレンドからそれほど変わらないからというのがデータから考えられる理由です。

地中海式ダイエットー肉・卵・乳製品が少なく、野菜・豆・穀物・魚中心の食習慣ーで名高いギリシャとイタリアが健闘して 40~50% 台です。ギリシャは米国の健康誌 Healthで発表された「世界五大栄養食品」の一角に入選した「ギリシャ・ヨーグルト」が名高く、実際ヨーグルト消費量が多い方なので、ヨーグルト効果もありそうです。

ちなみに「世界五大栄養食品」の残り3つは、韓国のキムチ、スペインのオリーブオイル、インドのレンズ豆です。

ワーストの中東の国々が持つ隠れた理由

ワーストは中東の国々です。特にカタールがなんと 1926% 増で、バーレーンが 1084% 増です。 米国の CIA のウェブサイト The World Factbook で確認すると、例えば、両国とも現在の人口構成を見ると、20~60歳がほとんどの若い国です。65歳以上はわずか 3% 強なので、今から 30 年後の 2050 年に認知症が爆発しているのはうなずけます。10 代が極端に少ないです。ちょっと心配になるぐらいです。 “Factfulness” が指摘しているように、生活水準が向上すると、国/地域、文化、宗教に拘らず少子高齢化に収束していくのでしょう:

Today, Muslim women have on average 3.1 children. Christian women have 2.7. There is no major difference between the birth rates of the great world religions.

In almost every bedroom, across continents, cultures, and religions—in the United States, Iran, Mexico, Malaysia, Brazil, Italy, China, Indonesia, India, Colombia, Bangladesh, South Africa, Libya, you name it—couples are whispering into each other’s ears their dreams for their future happy families.

Rosling, Hans; Rosling, Ola; Rosling Rönnlund, Anna. Factfulness: Ten Reasons We’re Wrong About The World – And Why Things Are Better Than You Think (p.176). Hodder & Stoughton. Kindle 版.

認知症リスクを高める 12 の要因

では、何をすると認知症になりやすいのでしょうか?そちらが気になりますね。The Lancet 誌の論文に認知症リスクを高める 12 の要因が記載されています(1)。

①低教育(1.6倍)、②難聴(1.9倍)、③脳損傷(1.8倍)、④高血圧(1.6倍)、⑤飲酒(1.2倍)、⑥肥満(1.6倍)、⑦喫煙(1.6倍)、⑧鬱(1.9倍)、⑨孤独(1.6倍)、⑩運動不足(1.4倍)、⑪糖尿病(1.5倍)、⑫大気汚染(1.1倍)。

ドロップアウトで、大音量の音楽をヘッドセットで長時間聴くのが好きで、交通事故やスポーツをやっていてタックルやヘディングで脳震盪になった経験があり、居酒屋でたばこを吸いながら深酒する毎日で、店を出るとラーメンが食べたくなって汁まで飲み干すのが好きで、家に帰ると一人ぼっちで陰々滅滅として家に閉じこもって甘いものをむしゃむしゃ食べることで気を晴らしているような人だと、そうでない人と比べて 20 倍認知症になりやすいということになります。えらいことです。しかし、まったくゼロの人は少なく、大抵の人はいくつか悪い習慣をやっていそうです。

そう言われても、にわかには信じられないかもしれませんが、上記のいくつかの要因については、期せずして大規模な追跡検証が可能になりました。それが先頃のコロナ禍です。50歳から96歳までの被験者3,142人を対象にして、コロナ前後で認知機能がどう変わったか追跡調査したのです。その結果、ロックダウン生活最初の1年後に、前述の「⑩運動不足」により短期記憶が3.3%低下し、実行機能が1.7%低下しました。また、「⑤飲酒」によりそれぞれ1.3%、1.7%低下し、「⑧鬱」により3.1%、1.2%、そして「⑨孤独」 により0.3%、1.8%低下したのです(2)。

ヒトは集団を作る社会的な生物です。しかし、隔離されて身動きもできずに孤独になって塞ぎ込むと、社会的生活を営むための機能が急速に衰えてしまう存在のようです。そこに持ってきて、やけ酒でも食らおうものなら、目も当てられない状態になるわけです。

今からでも間に合います。「①低教育」、「⑧鬱」、「⑨孤独」、「⑩運動不足」の4つの要因対策に、家からちょっと離れたところにある語学教室に通い始めて、外国語で会話するのはどうでしょうか?「4つ以上の言語を話す修道女の6%しか認知症を発症しなかった」でマルチリンガルは認知症発症率が低いことを紹介しています。一挙四得です。ヘッドセットを着けてシャドーイングの練習をするぐらいなら、大音量にはなりませんので、「②難聴」の心配は要らないでしょう。ご安心ください。

「④高血圧」対策に塩分控えめを心がけましょう。「脳は塩が嫌い」の回で紹介したように、塩分を摂り過ぎると、頭の血流が悪くなるそうです。要注意です。

「⑥肥満」対策には16時間断食でしょう。「16時間断食ダイエットで嫁のいびきが消えました」をご覧ください。16時間断食をやると、首の周りの贅肉が取れて寝ている間にいびきをかかなくなるので安眠できるようになります。

「⑩運動不足」解消に上積み対策のために「立って仕事をし始めました」はいかがですか?

やる気スイッチが入る糖質制限」を読んで、「⑪糖尿病」と縁を切りましょう。

寝不足は関係ないの?

ところで、上の 12 の要因に寝不足が入っていないのが不思議です。寝不足に関してはまだエビデンスが足りないと論文著者は考えているのでしょう。しかし、「ボケないための睡眠」や「ボケる前の転ばぬ先の杖になる豆知識」で紹介したようにボケ防止にはもちろん睡眠も重要だというエビデンスが積み上がっています。

別の研究で、オックスフォード大学の研究チームがUK Biobankに登録している35,527人のデータを解析しました。それによると、①糖尿病、②NO2による大気汚染、③頻繁な飲酒が、コンピュータでいう、後入れ先出し方式のスタックメモリに当たる脳の部位に対して、特に影響を与える3大要因そうです。実は時点で④睡眠時間が入っています。やはり、睡眠も影響が大きいようです。指標を時間ではなく睡眠の質に置き換えると、もしかしたらより大きな影響を与えているかもしれません(3)。

今忙しい人も、リタイアしたらいい夢見ようと考えているかもしれません。しかし、リタイアした頃には、認知能力が衰えてしまい、いい夢かどうかも分からなくなっていたらどうでしょう。そうなってしまってからでは遅いです。今こそ寝ましょう。

[参考文献]

  1. Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, Ames D, Ballard C, Banerjee S, Brayne C, Burns A, Cohen-Mansfield J, Cooper C, Costafreda SG, Dias A, Fox N, Gitlin LN, Howard R, Kales HC, Kivimäki M, Larson EB, Ogunniyi A, Orgeta V, Ritchie K, Rockwood K, Sampson EL, Samus Q, Schneider LS, Selbæk G, Teri L, Mukadam N. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. The Lancet. 2020 Aug 8;396(10248):413-446. DOI: 10.1016/S0140-6736(20)30367-6.
  2. Anne Corbett, Gareth Williams, Byron Creese, Adam Hampshire, Vincent Hayman, Abbie Palmer, Akos Filakovzsky, Kathryn Mills, Jeffrey Cummings, Dag Aarsland, Zunera Khan, Clive Ballard. Cognitive decline in older adults in the UK during and after the COVID-19 pandemic: a longitudinal analysis of PROTECT study data. The Lancet Healthy Longevity, 2023; 4 (11): e591 DOI: 10.1016/S2666-7568(23)00187-3.
  3. Jordi Manuello, Joosung Min, Paul McCarthy, Fidel Alfaro-Almagro, Soojin Lee, Stephen Smith, Lloyd T. Elliott, Anderson M. Winkler, Gwenaëlle Douaud. The effects of genetic and modifiable risk factors on brain regions vulnerable to ageing and disease. Nature Communications, 2024; 15 (1) DOI: 10.1038/s41467-024-46344-2

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